中耳は耳のうち、鼓膜から鼓室胞までを指し、鼓室胞の上部には耳小骨と呼ばれる3つの骨が存在しており、鼓膜側からツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨といいます。通常は空気で満たされ音を伝導しています。これを骨伝導といいます。骨伝導のおかげで鼓膜が破れても音は聞こえます。
犬の中耳炎の多くは細菌性外耳炎による鼓膜の障害から波及し、猫では中耳や耳管の構造異常に起因する無菌性の液体貯留が原因の大部分を占めます。猫の中耳炎は稀です。また、犬猫問わず、耳道内にできた良性や悪性の腫瘤に続発する場合もあります。感染の有無や炎症の程度によって症状は様々で、軽症のうちは単なる外耳炎と見分けのつかない例や、全く症状を示さない場合もあります
中耳炎の診断には、耳鏡を用いた耳道の確認や細胞診、レントゲン検査を行いますが、よほど重度で典型的な例でなければこれらのみで確定診断はできません。中耳は鼓膜の奥にあるため通常の耳鏡で視認することは困難です。また、炎症のため耳漏や腫脹のある耳道では深部の確認がより困難になります。よって、確定診断にはCT、MRI といった麻酔下の画像検査を用います。CT、MRIは検査時に麻酔を必要とする代わりに、中耳の様子だけでなく周囲の組織の状態も正確に把握することができます。最近はビデオオトスコープ(VOS)と呼ばれる耳専用の内視鏡を用いた診断・治療も行われています。VOSは耳道や鼓膜を詳細に観察しながら同時に洗浄や採材、異物除去などを行うことができるため、難治性の外耳炎や中耳炎の症例に対し、非常に効果的かつ低侵襲な治療を行う事ができます。重度の外耳炎により外耳道が狭窄してしまっている場合や慢性的な中耳炎によって中耳周囲の骨や軟骨、鼓室胞が融解してしまっている場合など、VOSでの処置が選択できない場合には外科手術が適応となります。
緑の矢印が中耳炎の所見