低分化型(高悪性度)リンパ腫(→No202リンパ腫)は、現在の抗癌剤治療では根治させることは極めて難しく寛解を維持させることになります。
根治:すべての腫瘍細胞が根絶されている状態
寛解:詳細な検査を行っても病変が検出できない状態
腫瘍細胞が1g以下の状態(1g=10億個)
抗癌剤治療を行っていく中で、QOL(生活の質)の改善を考えることが非常に重要になります。抗癌剤を使うことで腫瘍細胞を抑え込めたとしても、副作用で苦しむ期間が長ければ良い治療とはいえません。低分化型(高悪性度)リンパ腫に対する抗癌剤治療は、1種類の抗癌剤だけではなく数種類の抗癌剤を組み合わせて使用する多剤併用療法を行います。この多剤併用療法を用いることで、効果を強くしたり副作用を弱くすることが可能となり患者のQOLの改善につながります。
リンパ腫と診断し、未治療の動物を寛解状態に導入するために行うのが導入療法です。最もよく使用するのがCHOPを基本骨格にした多剤併用療法です。CHOPとは使用する抗癌剤のアルファベットの頭文字を表記したものです。CHOPを基本骨格にした多剤併用療法のなかでも、ウィスコンシン大学で考案された25週のプロトコールUW25(Wisconsin-Madison Chemotherapy Protocol:ウィスコンシン-マジソン プロトコール)
は、奏効率、奏効期間、生存期間を統合して現時点では最も好成績なプロトコールです(実際には各治療施設ごとにアレンジして、患者さんごとにプロトコールを作っています)。治療期間は約6カ月、奏効率は約94%、奏効期間期間中央値は約10カ月、生存期間中央値は約14カ月です。
Cyclophosphamid:エンドキサン;シクロフォスファミド
DNAに結合して、細胞の分裂・増殖を抑制します。骨髄抑制、出血性膀胱炎に注意します。
投与後にチェックする症状
・嘔吐、食欲不振
・脱毛
・だるそうではないか
・血尿、頻尿
Hydroxydaunorubicin:アドリアシン;ドキソルビシン
強い抗癌作用を持ちます。DNAの複製に必要な酵素の働きを阻害します。容量依存で心臓が生涯される場合があります。猫やシェルティーでは腎毒性に注意します。
投与後にチェックする症状
・嘔吐、食欲不振
・脱毛
・だるそうではないか
・血尿、頻尿
Oncovin:オンコビン;ビンクリスチン
微小管と呼ばれる細胞内の器官の働きを阻害し、細胞の分裂・増殖を抑えます。リンパ腫の他、白血病にも使います。神経障害が出やすく、指が痺れたり、歩行がおかしくなる場合があります。
投与後にチェックする症状
・脱毛
・だるそうではないか
・排尿困難はないか
・歩行に問題はないか
Prednisolone:プレドニン;プレドニゾロン
プレドニンは抗癌剤ではなく合成副腎皮質ホルモン剤(ステロイド)です。本来はアレルギーや炎症を抑える薬として使われます。抗癌剤ではありませんが、リンパ腫の治療に使用されます。食欲増進作用も期待できます。
L-アスパラギナーゼ;ロイナーゼ
CHOPとは違いますが、治療がうまく行かない場合や、リンパ腫が再燃してしまった場合に使用します。腫瘍細胞が増殖するときに必要なアミノ酸の一種であるアスパラギンを分解し、栄養不足を引き起こして死滅させる作用を利用した抗癌剤です。単独使用でも功を奏する場合がありますが、腫瘍細胞がL-アスパラギナーゼに耐性を持つスピードはとても早いとされているため、その後の治療が重要となります。比較的副作用は少ないですが、繰り返し投与でアナフィラキシーを起こすことがあります。
UW25のプロトコールの1例(日本小動物がんセンター)