前回からの続きです。
気管・気管支内異物:突然の呼吸困難や突然の頑固な咳では、気管・気管支内の異物を疑います。開口呼吸、流涎過多、チアノーゼなどがみられることもあります。異物の大きさによっては突然死もあります。
喉頭~頸部気管の腫瘍:ほとんどが原発性腫瘍で転移性は稀です。喉頭には、横紋筋腫(オンコサイトーマ)、扁平上皮癌、リンパ腫、骨肉腫、軟骨肉腫、メラノーマ、線維肉腫、肥満細胞腫、腺癌などの様々なタイプの腫瘍が発生します。また、気管の腫瘍には、リンパ腫、軟骨肉腫、組織球性肉腫、腺癌、扁平上皮癌などがあり、いずれも大きくなると呼吸が妨げられます。
肺水腫:肺水腫は心原性(心臓のトラブルが原因)、非心原性(心臓以外のトラブルが原因)に分類されます。心原性は左心室機能が低下して左心房圧が上昇し、血液が肺に多量に貯留することによって起こります。原因は、犬では僧帽弁閉鎖不全症、猫では肥大型心筋症、拘束型心筋症から生じることが多いです。
非心原性では、様々な要因によって肺の毛細血管壁が病的に変化することで液体成分が滲み出しやすくなることにより生じます。原因は、重度の肺炎、気道閉塞、肺の外傷、重度の神経疾患、溺れる、アナフィラキシーなど様々です。
気胸:気胸とは胸腔内の肺の外側に空気(ガス)の貯まった状態です。縦隔気腫を併発する場合もあります。空気の漏れが継続する開放性気胸と、呼吸のタイミングに応じて開口部が閉鎖する閉鎖性気胸があります。空気の貯留が高度になると、肺内よりも肺外の気圧が高い緊張性気胸となります。多くは交通事故や転落などの外傷から生じますが、特発性(原因不明)もあります。また、肺生検や肺の手術後におこることもあります。主な症状は呼吸促拍、起坐呼吸、頻脈、チアノーゼなどです。
膿胸:膿胸とは胸腔内に、細菌、ウィルス、真菌、寄生虫、異物、外傷などにより感染が生じ、化膿性胸膜炎を呈している状態です。発熱、発咳、呼吸促拍、呼吸困難、食欲不振、元気消失、運動不耐性、虚脱、チアノーゼなどがみられます。重症化すると、呼吸不全、敗血症、DICのため死亡します。迅速な治療が必要です。
乳び胸:乳び胸とは、腸管由来の脂肪を大量に含有したリンパ液である乳びが、様々な原因によって胸腔内に貯留した状態です。胸管からの乳びの漏出で乳白色の胸水となります。
一次性乳び胸(特発性)と二次性乳び胸(腫瘍や炎症、肺葉捻転などが原因)に分類されます。一次性の乳び胸は、アフガン・ハウンド、ボルゾイ、柴犬、猫ではシャム猫やヒマラヤンに多いといわれています。呼吸困難、呼吸促拍、運動不耐性、体重減少などの症状を呈します。内科的治療は、乳び胸水の除去、低脂肪食、ルチンの投与(毛細血管を強化します)です。外科的治療は、胸管結紮に乳び槽切開、心膜切除などを組み合わせます。一般的に猫の方が予後が悪いです。
縦隔気腫:何らかの原因によって気管に孔があくことによって生じます。皮下気腫や気胸、を併発することもあります。原発性(嘔吐、咳、喀血、肺疾患、咽喉頭炎、薬剤投与の失敗など)と二次性(全身麻酔時の気管チューブ挿管、交通事故、腫瘍、異物)に分類されます。症状は頻呼吸、努力呼吸です。軽度のものは安静のみ、無治療で改善します。
縦隔腫瘍:犬猫とも胸腺腫、リンパ腫、異所性甲状腺癌、心臓原発性腫瘍(主に血管肉腫)などが多くみられます。症状は、腫瘍の大きさにより、無症状から、咳、呼吸困難など様々です。
横隔膜ヘルニア:横隔膜の先天的もしくは後天的開裂部から腹腔内の臓器が胸腔内に引き込まれてしまっている状態です。ほとんど症状を示さない場合もありますが、通常は頻呼吸、努力性呼吸、呼吸困難、チアノーゼなどがみられます。外科手術で対応する疾患ですが、とくに先天性、発生後に時間が経っている場合は、肺のコンプライアンスや腹腔の容量の問題などがあり、最適な手術法の選択と注意深い術後管理が必須です。
いずれの疾患も対処が遅かったり、適切な処置がなされなければ、命にかかわることが多いです。呼吸がおかしいと感じたら、すぐにご相談下さい。