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No.280 リンパ球形質細胞性腸炎 (LPE)と炎症性腸疾患 (IBD)

犬や猫、フェレットなどで、お腹を壊しやすく頻繁に下痢や嘔吐を繰り返すことがあります。食欲不振、嘔吐、下痢(軟便)、血便といった消化器症状の原因は実に様々です。食事の変更、気候・環境の変化、ストレスなどの一過性のものから、ある食材に対するアレルギー反応、腸内細菌叢の変化、感染症(ウイルス、細菌、寄生虫)、腫瘍、原因不明の特発性のものもあります。とくに原因不明の慢性的な消化器症状は、リンパ球形質細胞性腸炎(Lymphocytic plasmacytotic enteritis,LPE)炎症性腸疾患 (Inflammatory bowel disease,IBD)とも呼ばれています。ヒトではIBDは潰瘍性大腸炎やクローン病を示すのに対し、動物では『消化管粘膜の炎症性病変を特徴とする特発性で慢性の胃腸症候群』と定義されています。しかし獣医界ではLPEとIBDの定義はとても曖昧です。IBDの最も代表的な疾患がLPEと書かれている教科書があったり、LPEを除外してIBDを診断すると書かれているものもあります。

LPEやIBDの動物では、消化器症状の他、血中Albの低下、貧血、体重減少がよくみられます。診断には、レントゲン検査や超音波検査などをまず行い、腸の腫れなどを判定し疑いが強い場合、麻酔が必要になりますが内視鏡による腸細胞のバイオプシー検査や、試験開腹によって消化管前層生検をして、確定診断のための病理組織学検査を行います。慢性的な胃腸障害の犬猫、フェレットの病理組織学検査で1番よくみられるのはLPEで、次がIBDです。しかし消化管の病変は、しばしば分布や程度が文節的あるいは散在的で代表的な病変が生検標本に含まれない場合があります。そもそもLPEとIBD、腸のリンパ腫の区別は病理検査でも難しく、経過を見ることが重要で繰り返しの検査が必要な時もあります。

病気は同じ診断名がついても、簡単な治療ですぐよくなる場合とそうでない場合があります。LPEやIBDでも整腸剤や食事管理で簡単に軽快する場合と、抗生剤やステロイド剤、免疫抑制剤などが必要な場合があります。病理組織診断では、軽度、中等度、重度と記載されますがこれはあまりあてになりません。軽度でも難治性の場合や長期の投薬が必要になる場合もあります。とくに柴犬のIBDは予後が悪い傾向があります。治療に反応が悪い場合は繰り返しの検査を行い、リンパ腫などのさらに重篤な病気を見逃さないようにする必要があります。


リンパ球と形質細胞の浸潤がみられるLPEの犬の十二指腸の組織検査


No.279 犬の角膜血腫

犬の角膜血腫は血腫様血管新生とも呼ばれ、しばしば高齢の犬にみられる疾患です。角膜というのは本来は透明な組織であり、通常は血管は存在しません。しかしながら、何らかの要因により角膜に血管新生が起こります。これが角膜血腫です。はっきりとした病変の割には臨床症状に乏しく、眼の周囲の毛が長い犬の場合は、飼い主さんも気が付いていないことも珍しくありません。

少し古い2011年の研究では、10歳以上の雄に発生が多くみられるという報告がありますが、現在のところまだ原因は解明されてはいません。免疫異常、涙液の異常や、角膜上皮障害などの関与が疑われています。また、チワワやT.プードル、柴犬などの小型犬で多く、中型犬、大型犬ではあまりみられません。

症状は、角膜に突然1~数ヶ所の赤い血の塊が見えて、基本的に痛みはなく、涙液量などの一般眼科検査では明らかな異常はみられません。

治療はステロイドの点眼薬が著効を示すと言われていますが、他の眼の異常がなければ、何もしなくても2~3ヶ月で治癒することが多いです。角膜潰瘍やドライアイがあることもあるので、しっかりとした診断が必要です。

原因の解明がなされていないため、治療薬の評価なども含め、さらなる研究が待たれるところです。


T.プードルの角膜血腫


No.278 免疫介在性血小板減少性(Immune thrombocytopenia, ITP)

免疫介在性血小板減少症は、血小板の破壊と巨核球(骨髄内にある血小板の大元)、血小板産生の停止の両方を特徴とする自己免疫性疾患です。血小板に対する自己抗体(自分の細胞、組織に対して産生される抗体)がくっつき、特に脾臓において貪食され、結果として血小板が減少します。近年、この病態以外にも、リンパ球の一種であるT細胞が血小板破壊の中心的役割を果たしていることがわかってきました。ヒトのITP患者では制御性T細胞の数と機能が減っていることがいくつかの研究で証明され、犬においても研究が進んでいます。自己抗体が結合することで貪食されて起こる血小板破壊だけでなく、細胞障害性T細胞による血小板破壊もITPの病態と考えられ、さらには補体(病原微生物などの抗原を排除するための免疫反応を媒介するタンパク質)もまた、血小板や巨核球を破壊すると言われています。また、ヒトではピロリ菌の関与も証明されています。

血小板は血を止める作用があるので、発症すると内出血が増えます。このことから紫斑病とも呼ばれます。鼻出血や血尿、血便、歯茎からの出血などもみられることがあります。マルチーズ、シーズー、プードルに多いと言われています。

診断は、上記の症状と、血小板の減少、血液塗抹での血小板の数や形を顕微鏡によって観察して診断します、また、他の出血傾向を生じる病気がないかどうかを除外診断しながら絞り込んでいきます。ステロイドを使った治療的診断を行う事もあります。はっきりしないものや、薬に反応が悪い場合は骨髄検査も考慮します。

治療は、前回のIHAと同様に、自己抗体による悪い免疫反応を抑える治療を行います。最初は副腎皮質ホルモン剤を用いることが多いです。反応が悪い場合は、その他の薬を併用します。再発性、難治性の場合は脾臓の摘出が効果的な場合があります。さらにTPO製剤(血小板を作る細胞を刺激する薬)効果的と言われていますが動物での報告はまだ少ないです。通常は70-80%の動物が回復します。ただ、再発も多いので注意が必要です。また、IHAと同時にITPが起こるとをエバンス症候群と呼び、予後が悪いです。


ITPによる腹部の内出血

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No276 溶血性貧血
No277 自己免疫性溶血性貧血


No.277 自己免疫性溶血性貧血 (Immune hemolytic anemia,IHA)

自己免疫性溶血性貧血は、自分の赤血球に対する自己抗体(自分の細胞、組織に対して産生される抗体)が産生され、血管内や脾臓、肝臓骨髄内で免疫的機序により赤血球が破壊される疾患です。犬でよくみられ、プードルやマルチーズ、シーズー、コッカースパニエル、アイリッシュセッターでの発症が多いといわれています。♀の方が発症が多く、♂の2~4倍です。また、なぜか寒い時期に多い印象です。猫では猫白血病ウイルス(FeLV)の感染に関連してみられることが多く、性差、品種差はありません。原因も不明です。

症状は元気、食欲不振などの貧血の諸症状の他、発熱、血色素尿、黄疸、脾腫、肝腫などがみられます。

診断は、症状の他、赤血球に自己凝集(赤血球同士が結合してしまう反応)が認められることや、クームス試験(赤血球表面に抗体が付着しているかを証明する検査)、球状赤血球の出現などから行います。骨髄検査が行われる場合もあります。

治療は、自己抗体による悪い免疫反応を抑える治療を行います。最初は副腎皮質ホルモン剤を用いることが多いです。反応が悪い場合は、その他の薬を考慮します。再発性、難治性の場合は脾臓の摘出が効果的な場合があります。60%くらいの症例は回復しますが、重度の自己凝集や血色素尿がみられる場合、血小板減少を伴った場合は予後が悪いです。


自己凝集している赤血球

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No276 溶血性貧血


No.276 溶血性貧血 ( Hemolytic anemia)

溶血性貧血は、赤血球が正常の寿命より早く、血管内や脾臓、肝臓、骨髄内で破壊されることによる貧血です。この時、造血能は通常、正常か亢進しています。溶血性貧血は赤血球の破壊される場所によって、血管内溶血と血管外溶血に分けられます。血管内溶血は直接、補体(病原微生物などの抗原を排除するための免疫反応を媒介するタンパク質)やリンパ球によって赤血球が破壊されます。血管外溶血は肝臓や脾臓、骨髄組織内のマクロファージによって貪食されることによって赤血球が減少します。血管内溶血では、血色素尿、発熱、黄疸をみることがあります。溶血性貧血の原因は以下のようなものがあります。

・免疫介在性
赤血球を自分のものでないと体が認識してしまい自己抗体や補体などの免疫が関与して赤血球を破壊します。自己免疫性溶血性貧血、薬剤誘発性溶血性貧血、同種免疫性溶血性貧血(新生児溶血、不適合輸血)などがあります

・感染性
細菌やウイルス、原虫などの感染が原因です。主なものに、レプトスピラ、バベシア、ヘモプラズマなどがあります

・化学物質や毒性物質
玉ねぎ、DLメチオニン、アセトアミノフェン、メチレンブルー、プロピレングリコールなどによりハインツ小体性貧血やメトヘモグロビン血症がみられます

・機械的刺激
物理的作用により赤血球が破壊されます。大血管障害性溶血性貧血と細血管障害性溶血性貧血にわけられます。前者はフィラリア症の大静脈塞栓症や心臓弁膜症などにみられ、後者は播種性血管内凝固症候群(DIC)や尿毒性尿毒症症候群(HUS)など細い血管に微細な血栓が形成される疾患や、血管肉腫や播種性癌転移のような異常な細血管塊が形成されるような疾患でみられます

・先天的異常
ピルビン酸キナーゼ欠乏症、フォスフォラクトキナーゼ欠乏症、遺伝性口唇状赤血球増加少などの先天的酵素欠損や細胞膜の異常でみられます

・その他
有棘赤血球の増加、重度肝障害などでみられることがあります(Spur cell anemia)


No.275 外科手術用エネルギーデバイス

外科手術では、組織を切離(せつり=切り離すこと)するときに出血を防ぐことが重要です。従来は縫合糸が多く使用されていましたが、現在では、出血を防ぐための血管封止(ふうし=漏れたり流れ出たりしないように封をすること)と組織の切離が1本でできるデバイス(装置)が幅広く使われています。このデバイスは、組織を高温にすることでタンパク質の変性を促すことにより血管壁どうしをくっつけて封止し、その後で切離を行います。こうしたデバイスは、組織を高温にするために何らかのエネルギーを用いるので、一般に「エネルギーデバイス」と呼ばれます。現在多く使われているエネルギーデバイスには、高周波の電流を使うものと、超音波による振動を使うものの2種類があります。それぞれに利点が異なり、手術のタイプや場面によって使い分けられています。両者の特徴をご説明します。

高周波電流を使うデバイスの利点は、血管の封止能力が高いことです。「バイポーラ型」と呼ばれる高周波電流エネルギーデバイスでは、切除したい部分をデバイスの先端部で挟み、その間に高周波電流を流します。すると、組織を電気的な抵抗によって熱が発生し、組織の温度が上昇します。その結果、タンパク質が変性して血管が封止されます。しかし、温度上昇は100℃くらいで止まるので切断まではできません。この状態になったところで、ブレード(刃)を組織に走らせると、出血せずに切離できるというわけです。しっかりと血管を封止できるのが利点ですが、「電流を流す」→「切る」という2つの操作が必要になります。

一方、超音波振動を使ったデバイスは、血管を封止し、切離するまでを1つの操作でできるのが利点です。プローブと呼ばれる振動棒ともう1つの金属の棒とで組織を挟み、強力な超音波を発生させます。すると、プローブが高速に振動します。その摩擦熱で組織の温度が上昇してタンパク質が変性し、200℃くらいになると崩壊して、組織が切断されるのです。切断できるだけでなく、血管封止効果もあります。ただし、その封止能力は高周波電流エネルギーデバイスほどではありません。

オリンパス社が開発したサンダービート(Thunderbeat)は、この両者の利点を生かし、血管を高周波電流を使った時の様にしっかり封止して、超音波振動を使用した時の様に切離するという作業が一度に行えます。この方法の利点は、出血の防止の他にも、手術時間の短縮、縫合糸が必要でなくなるので縫合糸性肉芽腫の防止、また、術野が狭くてすむので腹腔鏡手術にも応用されています。

クリックすると手術時の写真が出ます。苦手な方は見ないで下さい。
サンダービートによる血管の封止・切断


No.274 マイクロサージャリー (Microsurgery)

人間の視力には限界があるので、小さなものを見るときは拡大鏡を用います。我々が手術を行なう場合も、肉眼で見難いときには、拡大鏡や手術用双眼顕微鏡を用いています。これを鏡視下手術、顕微外科、英語ではマイクロサージャリーと言います。手術用双眼顕微鏡を用いると立体的に見えるので、顕微鏡を覗きながら組織を剥離したり、微小血管や神経を縫い合わせることが出来ます。通常、10倍から20倍の拡大下に手術を行ないますが、そのためには手術器具や縫合材料も、それに適したデリケートなものでなければなりません。例えば、直径が1.0mmの血管や神経を縫い合わせようとすると、50~100ミクロン(ミクロン=1000分の1ミリ)の針が付いた10~20ミクロンくらいの太さの糸を用います。ちなみに人間の髪の毛が約50~100ミクロンくらいですから、その1/5くらいです。いかに細いものかがお分かりいただけると思います。肉眼ではほとんど見えませんし、鼻息で飛んで行ってしまいます。

手術用顕微鏡を用いる手術は1921年にストックホルムの耳鼻科咽喉科の医師によって用いられたのが最初です。その後、眼科や脳神経外科で用いられるようになり、1960年にアメリカの血管外科医Jacobsonが直径1.0mmの血管を顕微鏡下で縫い合わせて以来、四肢の血管や神経の修復に応用されるようになりました。このような手術をマイクロサージャリーと言います。現在では、脳神経科、心臓血管外科、眼科、耳鼻咽喉科、胸部外科、消化器外科、整形外科、美容整形外科など多くの科で汎用されています。

当院でも、眼や神経、エキゾチックアニマルの手術をはじめ、多くの分野に取り入れています。


手術用顕微鏡


No.273 犬と猫との遊び

動物行動学から考えると、犬は群れの中では1日の5~10%しか他の犬と遊ばないことがわかっています。ペットの場合も1日に1時間くらいは遊んであげることが推奨されます。ペットの犬は人間の生活リズムに合わせて暮らしているので、一緒にいるときに構ってあげればOKです。ただし、若いうちは1時間で物足りなかったり、高齢犬だと1時間では疲れてしまうこともあるので、年齢や個体差に合わせて調整が必要です。

理想のお散歩の時間は、季節や犬種によって異なります。トイプードルのような小型犬を、炎天下で1時間以上散歩させてはいけませんし、ドーベルマンのような大型犬だと15分くらいの散歩を1日に1~2回では足りません。ただし、短くても散歩はしないよりした方が良いです。散歩の目的は運動だけではありません。外に出て、いろんな人やものと出会ったり、他の犬の匂いをかいだりすることで、脳の刺激につながり、高齢犬では認知症予防の1つとなります。

とはいえ、飼主さんが無理をしすぎるのもNGです。毎日1時間の散歩をしても、飼主さんが負担に感じるようなら犬にとっても不幸です。平日の散歩は30分でも、週末はドッグランで思いっきり走らせるなど、できる範囲で最善のことをしてあげましょう。

猫は群れをつくらない動物で、ベタベタした付き合いは好まないと考えられてきましたが、実は意外と社会性の高い動物で、犬と同じように構ってあげないとストレスが溜まります。1日の大半を寝て過ごしますが、起きている間は、声をかけたり、なでたり、ひもでじゃらしたり、積極的に構ってあげてください。

運動不足かなと感じられる場合は、猫が飛び乗れる場所など、室内に遊べる環境を作って運動不足の解消をしてあげて下さい。猫は、ジャンプなどの上下運動を好むので、キャットタワーやキャットウォークの設置もおすすめです。


No.272 猫の巨大結腸症

前回ご説明したように、猫は様々な原因で便秘を起こします。適切な対処をしないと、巨大結腸症を引き起こすことがあります。猫の巨大結腸症は、大量の便がたまり、大腸(なかでも結腸)が巨大になってしまう病気です。どの年齢の猫でも発生がみられ、数日から数か月にわたって便が出にくい症状を患って来院されます。結腸に慢性的に便が溜まると、時間の経過とともに便の水分が吸収され、便が非常に硬くなりより排泄しづらくなります。結腸はゴムのように伸縮性があり、その伸縮する力を使って排便を促します。巨大結腸症ではこのゴムが伸びきっている状態となり、うまく排便ができなくなります。結腸に便がたまりやすくなる原因としては、偏った食事や生活環境、結腸の神経異常、脊髄疾患、腸管や肛門の狭窄、交通事故等による骨盤骨折、腸管内外の腫瘍による圧迫、異物などによる通過障害、原因不明の特発性のものなどがあります。

長時間排便体制を取っている、排便時に痛がるといった症状がみられます。塊の便が出ないので、代わりに粘液や血便だけが排出されることがあり、下痢をしていると間違われることもあります。その他に、食欲が落ちる、元気がない、体重が減る、嘔吐、脱水などがみられることがあります。

巨大結腸症の治療は、内科的に食事や薬でコントロールできる場合もありますが、結腸切除術という外科手術が必要な場合が多くあります。便秘を軽く考えず、早期に対処しましょう。

巨大結腸症の猫のレントゲン 緑の・の中が便です

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No271 猫の便秘


No.271 猫の便秘

皆様、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。新型コロナウイルスのため、大変なご苦労をされている方も多いと思います。効果的なワクチン、治療薬、状況に合った政治判断が本当に欲しいです。今回は最近とても多い猫の便秘のお話です。

排便困難や排便回数の減少がみられることを便秘といいます。猫はもともと便秘になりやすい動物です。猫の便秘には重篤な病気が隠れている場合もあるので、軽く考えない方が良いです。便の回数や量には個体差があるので一概には言えませんが、3日出なければ何らかの処置が必要です。また、排便があっても、一部しか出ていなくて、実際には重度の便秘になっている場合もあります。そのような時の便は、小さく硬くコロコロしていて表面は乾燥気味です。

排便時に大きな声で鳴いていたり、トイレがいつもより長い場合は便秘かもしれません。便の切れが悪かったり、とくに高齢猫で多い便の後に嘔吐があるような場合は要注意です。生まれつき尻尾が短いマンクスや、腰椎の少ない猫、骨盤狭窄、高齢猫などは便秘になりやすいです。冬場は夏に比べて飲水量が減って便秘になりやすい季節です。

猫の便秘の原因は様々ですが、腸管の神経の異常の他、お腹の中の腫瘍や腎疾患、脱水が原因になっていることもあります。足や腰の骨、骨盤、関節や筋肉、神経などに問題がある場合も排泄時に思うように踏ん張ることができず、便秘を引き起こすことがあります。肥満も悪化因子の1つです。猫の便秘を軽く考えてはいけない理由のひとつに、慢性的な便秘から発症する『巨大結腸症(次回で解説します)』という病気があります。巨大結腸症とは、硬い便が結腸(直腸の手前の腸)に大量にたまることで、結腸が異常に広がる病気です。この状態になると手術が必要になる場合もあり、対応が遅れてしまうと、肝疾患や敗血症で命に関わることもあります。そのため「たかが便秘」と侮ってはいけません。

猫の便秘の治療は、基本的には人と同じように、内服薬で便を柔らかくしたり、浣腸などの処置が中心です。それでも自力で排便をすることが難しい場合には、獣医師が手を使って排便を助ける摘便という方法をとります。毛球症の管理やトイレの環境の見直しも重要です。

予防は水分を多く取る事、適度な運動、一般的には可溶性繊維の入った食事が推奨されます。マッサージなども効果的です。