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No.360 フェレットの副腎疾患

中~高齢のフェレットによく見られる病気の1つに副腎疾患があります。腎臓の近くにある、副腎という左右1対の小さな臓器が肥大化または腫瘍化します。異常を起こした副腎からエストロゲンなどの性ホルモンが過剰に分泌されることにより、脱毛(毛が生え辛くなる)や痒み、メスでは陰部の腫大、オスでは前立腺の肥大により尿が出にくくなります。また、体臭がきつくなる、尿漏れ、攻撃的になる、乳頭が目立ってくるなどの症状が出る場合もあります。

上記の様な症状がみられたら、診断のため、超音波検査で左右の副腎の大きさや厚み、血管との位置関係などを評価します。副腎疾患のフェレットは、特定の性ステロイドホルモン(エストラジオール、17αヒドロキシプロゲステロン、アンドロステネジオン、DHEA-S)の血中濃度の上昇がみられます。採血をしてこれらのホルモン値を測り、正常値と比べることでも診断できますが、費用が高いこと、正確性に欠けるなどの問題点があります。

フェレットの副腎疾患はゆっくり進行する病気です。外科的な治療では、開腹手術で実際に肉眼で副腎に異常があることを確認し、異常があればそのまま摘出します。内科的な治療では、リュープリンというホルモン注射を打って症状が改善するかどうかを観察します。


フェレットの副腎疾患では尻尾の脱毛も多くみられます


No.359 歯肉炎と歯周病と歯槽膿漏

歯肉に限局した炎症を歯肉炎と呼び、歯根膜や歯槽骨まで炎症が拡大した状態を歯周炎と呼びます。一般的に歯肉炎と歯周炎のことを歯周病と呼びます。また、歯周病の進んでしまった状態を歯槽膿漏と呼んでいますが、歯周炎のことを歯槽膿漏と呼ぶこともあります。

歯肉炎の早期のものでは、歯の根本の歯肉が歯に沿って線状に赤くなっているだけですが(下記の写真)、状態が進むと歯を支える組織がもろくなって、歯と歯の周囲の歯肉の間のポケットに隙間ができて歯はグラグラになります。この状態が歯周炎です。口の中には細菌が住み着いていて悪い細菌の繁殖を抑えていますが、炎症が起きて粘膜が損傷されると、口腔中の細菌も粘膜から侵入してさらに激しい炎症を起こすようになります。

歯周病の原因の1つとして歯石があります。歯石は細菌の塊です。歯石をとったり歯を抜くことによって治療できる場合もあります。しかし、多くは口の中の免疫、抵抗力の減退が主な原因になっています。ネコ免疫不全ウイルス(FIV)やネコ白血病ウイルス(FeLV)などのウイルス感染で免疫力が低下している場合が多くみられますが、ウイルスは陰性でも、原因不明のまま免疫力が低下している場合もあります。

治療法は口腔内を清潔に保つこと、細菌と炎症のコントロールです。慢性化したものではかなり治療が難しい場合があります。早期に発見し早目の対処が大事です。

歯肉炎

こちらもご参照下さい
No356猫の口内炎
No218口腔鼻腔瘻
No98歯周病2
No97歯周病1
No18歯石


No.358 トレポネーマ (ウサギ梅毒)

ウサギのトレポネーマ症は、ヒト梅毒の原因菌となる梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)の近縁のTreponema paraluiscuniculiによる感染により発症します。外鼻孔(鼻の穴)の周囲、口唇や眼瞼(まぶた)、陰部、肛門周囲の粘膜皮膚移行部から病変を形成し、発赤や丘疹、浮腫、鱗屑(フケ)、痂皮(かさぶた)、皮膚の糜爛、潰瘍、出血などがみられます。体幹部(胴体)には病変がないこと、皮膚病によくみられるような痒みがないことが他の皮膚疾患と異なる特徴です。外鼻孔に症状が出た場合はくしゃみが認められることがあり、スナッフルなどの上部呼吸器感染症と類似した症状がみられます。このくしゃみはトレポネーマ症を治療することによって改善していきます。交尾感染(性感染)が多いと考えられていますが、親から子供への垂直感染(母子感染)でも発症します。

ウサギのトレポネーマ症はヒトでの性感染症の梅毒を引き起こす梅毒トレポネーマの仲間であるために「ウサギ梅毒」という別名がありますが、この病気は人獣共通感染症ではないため、同居のウサギ以外の動物や飼主さんに感染することはありません。

病原菌を保菌していても発症せず、キャリアとなる可能性のある不顕性感染となる場合もあります。こうした症状が見られないウサギにおける抗体検査の陽性率が35%程度あるという報告もあり、ウサギの感染症としては決して珍しいものではありません。トレポネーマ感染後に発症するか否かはウサギの免疫状態や原因菌の病原性の強さによると考えられています。

診断にはヒト用の梅毒検査に用いられるRPR(Rapid Plasma Reagain)テストキットを使用することができます。この検査法は、病気が疑われるうさぎの血清にトレポネーマに対する抗体が存在するかどうかを簡便に調べるものです。しかし、疑わしい症状がみられても陽性とならずに確定診断に至らないケースもあります。また、保菌していても、不顕性感染で症状がない場合にはそもそも検査に至ることがありません。以上の理由から、特徴的な臨床症状によりトレポネーマ症であると疑われる場合には、抗体検査を省いて治療による改善をもって診断とするような治療的診断が行われることが多いです。

治療は抗菌薬としてクロラムフェニコールという抗生剤を第1選択薬として使用します。通常1~2週間で症状が改善していきますが、そこで休薬すると再発することが多いため、病変が消えたあとも最低2週間は治療を継続します。ヒトの梅毒と同様に抗生物質のペニシリン系薬物も有効とされていますが、その副作用によりウサギのデリケートな腸内細菌のバランス、腸内細菌叢が乱れてしまう可能性があるため、多くの場合はクロラムフェニコールを用いて治療が行われます。薬に上手く反応せずに難治性の場合もあります。また、治療後に不顕性感染となり、後に再発するケースもあります。


肛門周囲部の病変


No.357 犬の眼瞼炎

眼瞼炎は、結膜炎とは違い瞼(まぶた)の周りの皮膚の炎症をいいます。アレルギー・細菌・真菌・寄生虫・皮膚病・免疫介在性・眼瞼に生じる腫瘍に続発・外傷性・交通事故・咬傷による外傷などが原因にあげられます。細菌感染では眼瞼の肥厚と発赤を引き起こし、粘液と膿を産生します。

症状は、痒みがあり、眼の周辺の毛が抜け赤く腫れます。炎症が進むと湿疹ができ、化膿する事もあります。皮膚の疾患に似ている症状です。前足で瞼に触って頻繁に眼をパチパチとする動作を繰り返します。

上下左右同時など、瞼全体に起こる場合は免疫介在性の眼瞼炎を疑います。本来なら体を守るための機能である免疫が過剰に働きすぎて、自分の組織を攻撃してしまっている状態です。眼瞼の縁に形成された痴皮(かさぶた)が除去できない場合には上下の眼瞼が凝着する場合もあります。

眼瞼炎が他の病気によって引き起こされたのであれば、その病気の治療をおこない、併せて瞼を治療します。目の周辺をなるべく清潔にし、点眼薬などを用います。免疫介在性の眼瞼炎の場合では免疫を抑えるステロイド剤を使用しますが、場合によっては高用量が必要になる事があります。ステロイド剤の投与を止めるとすぐに再発してしまう事が多いので、少しずつ減らして行きます。


免疫介在性眼瞼炎


No.356 猫の口内炎

一般的に、口腔内にみられる炎症病変はなんでも口内炎と呼ばれていますが、正しくは『口内炎は原因が局所的によるものと全身的によるものがあり、頬粘膜、口唇粘膜、口蓋、舌、口腔底、頬粘膜、歯肉に及ぶ口腔粘膜の炎症』と定義されています。猫には口腔炎が多くみられますが、口を開けるのを嫌がる場合が多いため、症状がかなり進行してしまってから発見されることが多いです。

口を開けて、歯肉や他の部位の粘膜が赤くただれていたり、腫れたように盛り上がったり、あるいは出血していれば口内炎の可能性があります。他にも口内炎を疑う症状としては、口が臭い、よだれが出る、食べるときに痛がるなどがあります。

口内炎では、口の中の一部が赤くなっているだけのものから、組織がカリフラワーのように盛り上がったもの、潰瘍になっているものなど様々な形がみられます。多くの場合、直接の原因は細菌感染ですが、本質的な原因としては免疫力の低下が考えられます。また歯が当たるところにできたものは歯を抜くことで治る場合があります。

特殊なものでは、急性の潰瘍が口の中や舌にできるものがありますが、これはカリシウイルス感染によるもので、通常は1週間位で治ります。ワクチンを接種してあれば起こる可能性は少ないです。また、好酸球性肉芽腫症候群では、唇が潰瘍になったり、舌に腫瘤ができることがあります。これらはノミや食事、その他に対するアレルギーが原因と考えられているので、それらに対する治療を行います。老猫では口の中に扁平上皮癌などの悪性腫瘍ができて、これが口内炎にみえることもあるので注意が必要です。

治療法は原因にもよりますが、歯石を取るなど口腔内を清潔に保つこと、細菌と炎症のコントロールです。慢性化したものではかなり治療が難しい場合があります。他の疾患と同様に予防と早期発見が重要です。子猫のころから口を開けること、あるいは歯磨きに慣らしておけば、予防にも早期発見にも役立ちます。


好酸球性肉芽腫


No.355 肺水腫 (pulmonary edema)

肺は、酸素を取り込み二酸化炭素を排出していて、肺胞という小さな小部屋がたくさん集まってできています。肺胞のまわりには毛細血管が張り巡らされていて、肺胞内の空気と毛細血管内の血液との間で酸素と二酸化炭素が交換されます。このメカニズムが破綻して、肺の毛細血管から肺胞内へ血液の液体成分が過剰に漏れ出てしまう状態を肺水腫といいます。

肺水腫が起こる原因は大きく分けて2つあり、1つは、心臓病が原因の「心原性肺水腫」、もう1つは、心臓病以外が原因の「非心原性肺水腫」です。肺は空気を取り込む場所なので、液体が溜まると呼吸がしづらくなり呼吸困難になります。重症例では命に関わります。犬や猫の他、フェレット、ウサギ、ハムスターなど多くの哺乳類が肺水腫になる可能性があります。

主な症状は
・呼吸数が増える
・開口呼吸をする
・歯茎や舌が白っぽいあるいは紫色っぽい
・横にならずに座るか伏せる状態で苦しそうに呼吸をする
などです。

心原性肺水腫は一般的に重篤なことが多く、救急管理が必要になります。一方、非心原性肺水腫は軽症から重症まで様々です。軽症の場合は軽い咳が出るくらいですが、重症の場合、呼吸が速くなったり、咳を頻繁にするなどの症状がみられます。

心原性肺水腫
心臓病(犬では僧帽弁閉鎖不全症、猫では心筋症など)により、心臓から全身に流れていく血液量が低下し、心臓内に血液が残ってしまいます。そのため、肺から心臓へ血液が戻りにくくなり、毛細血管がうっ血を起こし、逃げ場を失った毛細血管内の液体成分が肺胞内へにじみ出てしまうことが原因となります。

非心原性肺水腫
チョークチェーン(首がきつく締まるタイプの首輪)による気道の閉塞、火事などによる煙の吸引、電気コードを齧るなどの事故により、肺の毛細血管が病的な変化を起こし、毛細血管から液体成分が肺胞内へ浸出しやすくなることが原因となります。

心原性の場合は、集中的な治療が必要で基本的に入院管理となります。まずは、安静にして、酸素室などの利用により高濃度の酸素を吸入します。次に利尿剤や血管拡張薬などにより、循環血液量をコントロールして心臓の負担を和らげます。非心原性の場合は、炎症を抑える薬を使用したり、重症の場合は心原性の治療と同じように酸素室での入院になることもあります。

僧帽弁閉鎖不全症の犬、心筋症の猫では、安静時に1分間あたり40回以上の呼吸をしている時は肺水腫になっている可能性があります。元気そうに見えても緊急の治療が必要な場合が多いです。


犬の心原性肺水腫のレントゲン


No.354 病気の小鳥のご家庭でのケア

病気の小鳥はご家庭でのケアが重要です。調子が悪い時や退院時は、以下のようなことに注意して看てあげて下さい。

場所:小鳥が慣れていて落ち着ける場所で看護しましょう。他の鳥とは一緒にしない方がよいです。
温度:小鳥では、どんな病気に関しても、「衰弱」→「体温保持困難(膨羽)」→「衰弱の進展」→「死」のコースが直接的な死因になります。体調が悪い時は、ケージ内の温度を28℃以上に保つことが必要です。ペットヒーターだけでなく、エアコンを使用してお部屋全体を温めて下さい。但し、直接エアコンの風が当たる場所は避けましょう。
湿度:湿度は40%~60%くらいが望ましいです。加湿器などを上手く利用して下さい。
安静:あまり動かない様に小さめのケージを用い、止まり木を減らすことも検討して下さい。止まり木は、小鳥が止まり木を握ったとき、爪がしっかりと木に当たり、前後の爪と爪の間には、ある程度の隙間ができる太さの物が良いです。放鳥もしない方が良いでしょう。
睡眠:病気にもよりますが、1日に12時間くらいは暗くして、よく睡眠をとってもらいましょう。過発情などがある場合は1日に14時間くらい寝てもらいましょう。
食餌・水:継ぎ足しせずに、毎回全量を取り変え、パン、お米など、そ嚢内で発酵(腐敗)し易いものは与えない様にしましょう。食欲が乏しい時には、強制給餌(すり餌)するなどの工夫が必要です。
清潔:ケージ、餌箱、水入れなどは水洗し日光消毒、熱湯消毒も行って下さい。
床材:チップ類をケージの下敷きに使うと、眼や鼻の粘膜に刺激を起こし、炎症の原因になったり、ケージ内でカビが増える原因になることがあります。紙や牧草などをご利用いただき、毎日、新しい物に取り替えるようにしましょう。
日光浴:無理に行う必要はありませんが、必要なら直射日光が当たらないところで行って下さい。

調子が良くなっていかない場合は、なるべく早くご来院下さい。


ご自宅でのケアが大事です


No.353 猫の変形性関節症2(Osteoarthritis:OA)

つい最近まで猫は歳を取ったら動かなくなるものと考えられていました。それはヒトと同じで若い時とは違うから運動できなくて当たり前という認識があったからだと思います。

近年、6歳以上の猫の多くに変形性関節症(OA)が認められることがわかってきました。以前はDJDと呼んでいた疾患です。OAは軟骨のみならず骨、滑膜、半月板、靱帯、筋肉、神経が、疾患の発症から進行まで複雑に関与する全関節組織の疾患です。また、OAは肩、肘、股関節、足根関節に好発し、61%の猫は最低1つ、48%はの猫は2つ以上の関節が罹患していて、罹患率は年齢と相関しているという研究結果があります。とくにスコティッシュフォールドは、ほぼ100%の確率で発症します。

症状は、運動性やグルーミングの減少、社交性の低下、気分の変化、不適切な排泄ですが、具体的には、
・ジャンプの能力の低下
・毛玉が増えたり、爪が汚れる
・イライラして友好的でなくなる、孤立
・触られること、撫でられることへの拒否、ブラッシングを嫌がる
・トイレの失敗、便を埋めない
などです。ただし、猫のOAの初期症状は痛がるといった明らかなもので出てこず、高いところに登らなくなった、高いところから降りるのをためらうなどの、飼主さんが年齢のせいにしてしまうような症状しか出ないことがほとんどです。末期病態は関節の可動制限と疼痛の発生が出現し歩行困難となります。診断は、症状に加え、主にレントゲン検査で行います。

OAは進行性病変のため、一旦発症すると残念ながら完全に元に戻すことはできません。進行を緩徐にして痛みの管理をしてあげる事が治療です。痛みの知覚には、感情、過去の経験、社会的・環境的 背景に影響される複雑な感覚・感情のメカニズムが関与しています。痛みが長く持続すると、抑うつなどの心因的症状が 進展して、それが痛みをさらに増悪させ、心因性疼痛(非器質性疼痛)となります。例を挙げると、痛みを脳が記憶してしまい鬱などの精神疾患を生じます。ひどい症状が出る前からのケアが重要です。

具体的な治療には体重管理、サプリメントや代替医療による関節の保護や、マッサージや半導体レーザーによる理学療法、飼育環境の整備などがあげられます。疼痛管理の悪い循環は、痛む→力が入らない→動けない→安静にする→筋力が弱る→軟骨がすり減る→痛む。
良い循環は、力が入るようになる→動けるようになる→筋力が戻る→軟骨が保護される→運動療法が可能になる→力が入るようになる。です。

OAの痛みは、愛猫にとって深刻な健康問題となります。そして猫は痛みを隠します。猫がこの頃おとなしくなったり、ジャンプが減ってきた場合は、関節に問題があるかもしれません。

こちらもご参照下さい
No247猫の変形性関節症
No200半導体レーザー
No140痛み
No51痛みについて3
No50痛みについて2
No49痛みについて1


No.352 肺腫瘍

犬や猫の肺腫瘍の多くは、乳腺の悪性腫瘍など、他の部位の腫瘍からの転移(メタ)で、原発性のものは犬では稀で、猫ではさらに稀です。

原因として、遺伝的素因、都会的生活や受動喫煙が発生率と関連があると言われてはいるものの確実な疫学的根拠はありません。犬猫ともに平均10歳で発生し、性別や犬種・猫種で特異性はありません。

犬猫の原発性肺腫瘍のほとんどは悪性であり、最も一般的なのは肺腺癌です。その他、扁平上皮癌や組織球性肉腫などがあります。犬の原発性肺腺癌の多くは孤立性であり転移は比較的稀です。転移部位として、典型的には気管-気管支リンパ節や別の肺葉に起こります。

症状は末期になると咳や呼吸促拍、疲れやすくなるなどが出ますが、初期にはほとんどわかりません。早期発見には日頃の健康診断がオススメです。他の疾患にもいえることですが、目安は10歳以下で年に1-2回、10歳以上で年に3-4回程度、麻酔の必要のない検査で十分ですので、全身のチェックをすることが推奨されます。また、非常に稀ですが、腫瘍随伴症候群として肺性肥大性骨症を起こし四肢に痛みを示す場合があります。

診断はレントゲン検査で怪しい影を見つけたらCT検査を行って、手術可能かどうかを見極めます。孤立性の場合は大きくても外科適応です、多発性の場合は外科不適応です。FNA(針生検)などで細胞の検査ができると診断の助けになります。また、転移性のものは多くの肺葉に病変(メタメタ)を作るので外科的な治療ができません。

治療は、原発性のものは可能なら外科手術です。放射線治療もありますが外科手術に付随して行うことがほとんどです。残念ながら効果的な抗癌剤は今のところまだありません。

原発性肺腫瘍のレントゲン


No.351 小鳥のそ嚢炎

小鳥の来院理由の多いものの1つにそ嚢炎があります。そ嚢は食道の一部が袋状に膨らんだ器官で、飲み込んだ食べ物の一時保管場所としての働きがあります。ワシやタカなどの猛禽類では、丸飲みした獲物をここに貯留し、帰巣後ゆっくりと飲み直しますし、インコや文鳥など草食性の鳥類では、ついばんだ穀類などをそ嚢に貯めておき、餌が水分を吸って軟らかくなってから胃に送り込みます。また、そ嚢から吐き戻した食べ物を求愛相手に与えたり、雛 に食べさせたりします。

場所は首の付け根です。まだ羽毛が生えそろわない幼鳥ですと分かりやすいです。首の背面に食べた餌が透けて見える場所がありますが、成鳥の場合、羽毛を掻き分けるように探します。

そ嚢の中は食事によって栄養豊富です。しかも胃液などの消化液を分泌しないので、細菌やカビなどの微生物が住み着きやすく、その微生物が異常増殖するとそ嚢炎が生じます。多くの場合、胃や腸にも影響を及ぼし、嘔吐、下痢、食欲不振の消化器症状が起こります。その他、そ嚢がブヨブヨと膨らみ赤黒い色調になったり、口、鼻、眼の周囲や羽毛の汚れ、開口呼吸、特有の嫌な臭いがするなどの症状も見られることがあります。また、幼鳥や老鳥など体力の衰えた鳥はそ嚢炎になりやすい傾向があります。粟玉、パンなど炭水化物の豊富な餌を与えることも誘因になります。オスのインコでは、求愛行動としての餌の吐き戻しがあり紛らわしいです。

・求愛行動:首を縦に振りながらドロドロと吐く

・そ嚢炎:ピッピッと首を横に振ってまき散らす様に吐く

などで見分けます。

診断は、そ嚢を視診・触診することによって、腫脹、うっ血・充血の有無を調べます。これらの所見に加え、そ嚢にカテーテルを挿入し、そ嚢分泌液を採取し顕微鏡で調べます。各種細菌、真菌(カビ)、原虫が原因微生物となります。原虫(トリコモナスなど)については、1個体でも検出したら病原体とわかりますが、細菌や真菌は、元々小鳥のそ嚢の常在菌であることが多いので、病原体と決め付けるのは難しいのです。菌種・菌数を勘案して判定します。

治療は、原因となる微生物を取り除く薬を投与します。トリコモナスには抗トリコモナス薬を、真菌に対しては抗真菌剤を、細菌性のそ嚢炎には抗生物質を投与します。混合感染している場合は、複数の薬剤が必要な場合もあります。衰弱が進んでいなければ、治療に良く反応する病気です。しかし、小鳥はちょっとしたきっかけで、一気に病勢が深刻化するケースがあります。

そ嚢の場所