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No.64 コミュニケーション行動3 聴覚信号(Auditory signal)

聴覚信号の特徴

吠えや遠吠え(Howl)などの、犬の聴覚信号を用いたコミュニケーションは、長距離の情報伝達に有用です。一方、唸り声やキュンキュン鳴く声は、短距離、中距離でのコミュニケーションに用いられます。犬の吠え方は状況によって異なり、例えば、縄張りの意識に関連するもの、攻撃的な吠え声、仲間に警戒を促す吠え声など様々ありますが、ヒトにもある程度の識別は可能です。オオカミの遠吠えは、狩りの前に仲間を集めるためであったり、他のオオカミとの社会的な接触を求めるためであったりすると考えられています。

情動を反映する発声

犬は、他のイヌ科の動物と比べて、吠える(Bark)行動が出やすいといわれています。一般的に、若い動物の方が吠える頻度は高いです。侵入者の気配に対してよく吠えるということは、ヒトにとって都合の良い形質として家畜化されてきました。

唸り声(Growl)は、攻撃的な状況で発せられることが多く、キュンキュン鳴く声(Whine)は、挨拶のときや不満なとき、服従行動をとっているときなどに発せられます。犬は超音波領域の音にも感受性がありますが、獲物となるげっ歯類などの発する超音波を捉えて居場所を特定しているのではないかと考えられています。

猫の聴覚を介するコミュニケーション行動

猫の五感の中では聴覚がもっとも優れているといわれています。暗い森の仲で獲物を待ち伏せして生き延びてきたからなどと説明されています。犬が嗅覚の動物なのに対し、猫は聴覚の動物であるといえます。鳴き声によるコミュニケーションは猫同士の距離を保つために重要で、基本的に非社会的な動物である猫同士が突然に出くわすのを防いでいるとされています。猫の鳴き声は様々ですが、口を閉じたまま発する喉を鳴らす声ゴロゴロ(Purr)、最初に口を開けそれから徐々に閉じて行くときに発せられる誘惑するような、あるいは欲求や不満をあらわす泣き声ニャーオ(Meow)、そして、口を開けたままで発せられる激しい感情をあらわす声シャー、フーッ、ギャー(Hiss)の3つのカテガリーに分けられます。


No.63 コミュニケーション行動2 視覚信号(Visual signal)

視覚信号の特徴

近距離・中距離でのコミュニケーションにおいて視覚信号は効果的です。また、相手の反応を見ながら瞬時に信号を切り替えることができる点も有利です。また一般に、犬と犬といった同種のコミュニケーションはもとより、犬とヒトといった異種間コミュニケーションにおいても重要な伝達様式です。オオカミの群れでは、仲間同士のコミュニケーションの大部分は、姿勢や表情の変化による視覚信号によって行われているといわれています。

集団内における威嚇・服従行動

オオカミの群れでは安定した社会的順列(Social hierarchy)、順位(Rank)が形成され、食事、休息場所、繁殖相手なの限られた資源への優先権や支配する権利が優位な個体に与えられます。順列は優位な個体が示す威嚇行動(Threatening behavior)によって確立維持されますが、これらの行動には信号の送り手の攻撃性に対する意思やその強さが含まれています。

優位行動と服従行動

犬やオオカミでみられる優位行動(Dominant behavior)には、相手の鼻先(マズル)をしっかりとくわえこむ、頭と首を押さえつける、マウントする、首や肩あるいは背中に顎を乗せるなどがありますが、こうした行動は儀式化(Ritualization)されていて、通常は相手に怪我を負わせるようなことはありません。
また、自分が相手より劣位であることを伝えたり、目の前で示された攻撃性を軽減するために、劣位の犬は歯を隠したり、首や腹部などの急所をさらす姿勢をとるなどの一連の服従行動(Submissive behavior)をして相手をなだめようとします。劣位の個体は臀部を低くし、背中を弓なりにして低い姿勢で相手に近づくか相手の接近を待ちます。尾は低い位置で振られ、鼻先を上げながら頭と首を低く保ち、耳は後ろに倒し視線は合わせません。
また、劣位の個体は、舌を突き出して相手を舐めようとすることがあります。これは、食物の吐き戻しをねだって母犬に近づく仔犬の動作から派生した、儀式化された服従行動だと考えられています。

その他の視覚を介する特徴

犬の片脚挙上排尿(Raised-leg urination)は、一般的には雄でみられ、性別や序列を示す視覚信号としての意味があります。オオカミの観察では、優位な雄が劣位に比べて頻繁に脚を上げます。また、遊びを誘うおじぎ(Play bow)は、唸り声や正面からの接近が攻撃ではないことを相手に伝える意味があります。遊びたい犬は、臀部を高く上げ姿勢を低くし、前肢を伸ばしたり上下させたりして、尾を大きく振ります。相手の前後を素早く大げさに動き、静止した状態から急に動いたりします。

猫の視覚を介するコミュニケーション行動

猫においても、恐怖や不安や攻撃性の程度が様々に混ざり合って、その時の気分をあらわすように、耳や尾の位置、姿勢、表情などからコミュニケーション信号が作られます。ただし、本来が単独生活者の祖先を持つ猫にとって、社会集団のなかで調和を保つのがとくに重要ではないため、犬のような社交的な動物とは多少異なります。

他の猫に対して能動的に接近するときには尾は垂直に立てられます。親しい相手や仔猫が母猫に近づくときは尾の立て方は一層顕著になります。この尾を立てる姿勢は、もともと母猫が仔猫の肛門陰部を舐めるときの反応に由来しているのではないかと考えられています。また、猫が遊びたいときは横たわって腹部を見せます。

攻撃的な威嚇は、直接的なアイコンタクト、前に向いたヒゲ、まっすぐ相手に向かう姿勢など、攻撃をしかけようという意思があらわれていて、後肢と背中をまっすぐに伸ばして身体を斜めにして、立毛は胸から始まり尾へと広がり、尾は付け根から後方に少し伸ばして急に下向きに曲がります。尾の先端をぎこちなく前後に動かしているときは、興奮、動揺の証拠です。

一方、防御的な威嚇の場合は、相手にまっすぐには向かわず、自分の体をより大きく見せるために、毛を逆立てながら背を丸めて横を向きます。耳は後ろに倒して頭に貼り付け、口角を後ろに引いて歯をむき出し、ヒゲは頭の横に引きつけて鼻にしわを寄せます。

次回は聴覚信号の話です。


No.62 コミュニケーション行動1

コミュニケーションという言葉は多種多様な使われ方をしていますが、動物個体間における情報の伝達という意味として、少し深く考えてみましょう。

ヒトと動物の感覚世界(Sensory world)は必ずしも同じではありません。
例えば、ある種のヘビは、頭部に孔器官(Pit organ)という赤外線探査装置を持っていて、暗闇でも体温を手がかりに獲物の位置を正確に知ることができます。
また、夜行性のメンフクロウは、上下にずれた左右の耳に届く音の時間差で3次元の音源定位を行い、暗闇の中で移動する獲物の居場所をつきとめ捕食することが可能です。
一般に動物の嗅覚はヒトとは比較にならないぐらい鋭敏で、多くの哺乳類にとって匂いによる個体識別は当たり前のことです。
犬の優れた嗅覚は警察犬や救助犬などとしてヒトの社会生活に大きく貢献してくれています。
このように、視覚、聴覚、嗅覚などいずれの感覚をとっても動物とヒトとでは知覚しうる情報の物理化学的性質や感度に大きな違いが見られることが少なくありません。
このことを理解すると、動物の各行動の意味が少しわかって、コミュニケーションが取りやすくなるのではないかと思います。

コミュニケーション行動の主な形

哺乳類のコミュニケーションの方法には、視覚、聴覚、嗅覚を介する3つの信号が主要な形です。
異なる動物種でもコミュニケーションは成り立ちますが、お互いが発する信号やその背景となる感情の変化を正しく理解する能力がもともと備わっているわけではないため、経験を通じて信号の意味を学ぶ必要があり、同種間に比べて複雑なものとなります。
コミュニケーションが成り立つ場合には、信号の送り手から発信された情報によって受けての行動になんらかの変化が起こります。

例えば、犬が威嚇する場合は、毛を逆立てて相手をにらむ(視覚信号)、低い声で唸る(聴覚信号)、推測ですが攻撃を表すフェロモンを分泌している(嗅覚信号)。
こうした信号を受け取った個体は服従的な態度をとるか立ち向かうか、いずれにせよ発信された信号は相手に新たな行動をとらせることになります。

コミュニケーション行動の進化

社会的集団を形成する動物にとって群れで暮らすことにはメリットとデメリットがあります。
安全面や繁殖機会の増大といった群居生活の利点を享受できる一方で、食物や配偶相手などの限られた資源をめぐる競合は激しいものになります。

こうした競合は、時には大きな闘争に発展して、大怪我や場合によっては死につながることさえあるため、資源をめぐる日常的な競争のためにいちいち本気で戦うのはリスクが大きすぎます。
コミュニケーション行動が進化した理由のひとつは『競合的な相互作用の頻度や程度が下がることで集団内部が安定化し、適応度の上昇につながる』といったことでしょう。
例えば、雄がライバル雄に遭遇した場合、示威行動の間にお互いの戦闘能力や動機づけの強さに関する情報はすぐに伝達され、戦わずに決着がつくことなどが挙げられます。
また、集団で狩りをする動物にとっては、群れの中の順列と関連した狩りでの役割分担がスムーズに実行されるためにも、信号はより効率的な方向に進化したものと考えられます。

信号の重複と儀式化

コミュニケーションで使われる信号には、意識的のものもあれば、そうでなく無意識に表れてしまうものもあります。
例えば、動物病院に連れてこられた犬が低く唸るのは前者ですし、ガタガタ震えるのは後者です。
ある集団の中で用いられる信号は、その信号の持つ情報や使われる場面が重要な場合には、より明瞭に重複して使われるなど、信号の特性が進化する傾向があります。
例えば、遠吠えは騒がしい環境でも遠くから聞き分けられる明瞭な聴覚信号でありますし、威嚇のときに表情や姿勢の変化が唸り声とともに起こるのは重複の一例です。
また、重要な信号のなかには、そのパターンが型にはまった種特異的な性質を備えたものもあり、例えば、犬の遊びを誘う時のおじぎ行動などは「固定的動作パターン」「儀式化したパターン」などと呼ばれます。

正反対の原理

ダーウィンの著書『人間と動物における情動の表現』には威嚇姿勢と服従姿勢をとる犬が描かれています。
誰にもなじみ深いこの犬の極端な姿勢の違いから、ダーウィンは『正反対の原理(The principle of antithesis)』を導き出しました。
逆の意味を持つ信号は、曖昧さを避けるために、しばしば正反対の表現になるという考え方です。
攻撃的になった犬は体を大きくみせようとし、服従している犬は体を小さく縮めている。
聴覚信号の例としては、攻撃的な場合、発する唸り声は低く荒々しいが、服従側の発すキュンキュンとした高い声は、友好的な場合や相手をなだめたり甘えたりするときに使われる声です。
相手が間違えることのないように進化したものだと考えられています。

次回から各論です。


No.61 iPS細胞 人工多能性幹細胞(induced Pluripotent Stem cell)

皆さまご存知の通り、2012年10月、カリンスカ研究所(スウェーデン)から2012年のノーベル生理学・医学賞が、生物のあらゆる細胞に成長できるiPS細胞を初めて作製した京都大学の山中伸弥教授と、ケンブリッジ大学(イギリス)のジョン・ゴードン名誉教授に贈られました。とくに山中教授のiPS細胞の作製は日本独自で行われた研究であり、日本人として非常に嬉しく誇らしい成果です。

山中教授のグループは2006年、世界で初めてマウスの線維芽細胞からiPS細胞を作り出すことに成功しました。また、翌2007年にはヒト由来のiPS細胞の作製にも成功しました。皮膚などにいったん変化した細胞が、どんな細胞にも分化する能力を持つ受精卵の状態に逆戻りするという、いわば細胞の初期化(リプログラミング)が可能だということが評価されました。すごい発想ですね。また、胚性幹細胞(ES細胞)のように作製のために受精卵を破壊する必要がなく、倫理的な問題からも高く評価されています(そういえば、バチカンのローマ法王も素晴らしい研究だと言っていました)。

今後、爆発的に研究が進むことが期待されるiPS細胞ではありますが、素晴らしいものは諸刃の剣、乗り越えなければいけない課題も存在します。分化全能性という受精卵の状態に近いiPS細胞は、その高い増殖能力のためにがん化のリスクが伴います。とくに、山中因子と呼ばれる4つの遺伝子(Sox2、Oct3/4、Klf4、c-Myc)のうちのc-Mycは、がん原遺伝子として知られているため、この遺伝子が細胞内で活性化し、がんを引き起こす可能性が指摘されています。また、遺伝子を導入する際のベクター(担体)として使用するレトロウィルスが腫瘍を形成するリスクについても議論されています。その他にも、iPS細胞は作製方法によって、増殖・分化する能力にバラつきがみられ、分化能力が低いiPS細胞を目的の細胞に分化させると、奇形を形成してしまうリスクも指摘されています。

しかし、今後、iPS細胞を用いた医療が再生医療を進める原動力になるのは間違いないところです。今まで以上に、国が研究を支え、日本が世界をリードして、1日でも早く、治療が困難だった難病や大きな怪我に対する、本当の意味での『夢の医療』になって、動物たちもその恩恵にあずかれるようになって欲しいものです。


No.60 犬は飼主に似る

飼主さんと飼主さんにそっくりの犬が、仲良く散歩されているのを見かけたことはありませんか?そっくりとはいかないまでも、なんか似ているな、というペアまで含めれば、多くの方が見かけた経験があるのではないかと思います。

関西学院大の中島定彦教授(文学部・動物心理学)は、ドッグショーの会場で40頭の犬と20~60代の飼主さん40人を無作為に選んで写真を撮影し、その写真を、その飼主さん方と全く面識のない学生に提示して、正しい飼主さんと犬のペアを選ばせました。正解が最多だったペアと最下位だったペアを比べると、75%の学生が前者を似ていると答えました。また、犬と飼主さんを正しく並べた写真20組と、わざと間違えて並べた20組を提示して、どちらが正しいかを選ばせると67%が正しいペアを選ぶという結果になりました。

以上から、学生は似ていることに注目してペアを選んでいると推測され、中島教授は『客観的に飼主と飼い犬は似ている』と断定されています。また、飼育期間が短くても同じような結果が出ているため、『次第に似てくるというよりは、最初から自分と似た顔の犬を選択している可能性がある』とされています。その他に、この実験は、飼主の性別、年齢、飼育期間は正解率には関連性はありませんでしたが、長い髪の女性は垂れ耳の犬を、短い髪の女性は立ち耳の犬を飼っている傾向がみられたと報告しています。

同じ様な調査が、方法は違いますが、アメリカやベネズエラでも行われており、いずれも『客観的に飼主と飼い犬は似ている』という結果が出ています。

このような結果が出る理由として、中島教授は、『ヒトは見慣れたものに好感を抱く性質があるためでは』と推論されています。

これからは、性格についても検証されていくそうです。『犬と飼主の性格は似ている』みなさんは、どう思われますか?


No.59 雷恐怖症 Thunderstorm phobia

雷が鳴ると不安、脅え、パニック、問題行動を起こす犬や猫は、以外と多くいます。今回は雷恐怖症を考えてみましょう。花火恐怖症も同じような考え方ができます。

恐怖症を定義すると『実際の刺激とは不釣合いな、継続的な恐怖や不安などの不適応反応』です。雷恐怖症は軽度なもの(歩き回る、震える、隠れる、流涎)から重度なもの(パニック、逃避、破壊活動)まで様々な症状があります。パニックや破壊活動は動物もヒトも怪我をする可能性があります。多くの場合、雷恐怖症はだんだん悪化します。また、その子によって、雷、光、雨、風、暗闇などの実際の恐怖反応のきっかけは異なります。

基本的に動物は、強い恐怖や不安、脅えを感じると次のような生存反応をとります。

恐怖・不安・脅え→交感神経が活性化→副腎髄質からアドレナリン分泌→闘争or逃走

もう少し細かく全身を見ると、

行動:過剰な警戒、回避行動。ハンドリングや保定、撫でようとするだけでも攻撃が誘発されることがあります。

心臓:心拍数の上昇

内分泌:糖質コルチコイドの分泌上昇、血糖値の上昇

消化器:食欲不振、異常食欲、胃腸障害(流涎、嘔吐、下痢、しぶり、血便)

神経:活動性の増加、反復行動、振るえ、自傷

眼:瞳孔散大

肺:過呼吸

以上のような症状が見られます。雷恐怖症の原因はわかっていませんが、遺伝的傾向、過去の経験、学習などの全てがかかわっていると考えられています。また、分離不安などの他の問題行動を持っている動物は症状がひどくなる傾向があります。また、猫でも雷恐怖症はありますが、一般的には犬ほどひどい症状を出すことは稀です。

問題行動の治療の基本原則は


・不安の除去

・慣らすか忘れさせるか

・悪い行動は無視、良い行動にはご褒美
です。雷恐怖症でも同じです。具体的な対応として、不安の除去については、雷の音を聞かせない。窓を閉めて光を見せない。TVなどの音でごまかす。大好きなおもちゃで気を紛らわす。などの当たり前のことが基本となります。このような方法だけでうまく行く場合は良いのですが、激しい症状を示す場合は他の方法も必要となります。

雷を忘れさせることは出来ませんので、慣らすために雷の音の入った音源を用意します。聞こえるか聞こえないかの小さな音から聞かせて、その時にスペシャルなおやつを与えます。音を少しずつ大きくしていくわけですが、本当に少しずつ行って下さい。1回に30分の訓練をするより、5分ずつ毎日少しずつ行った方が効果はあがります。

また、訓練する時間がないし、本当にひどい症状を呈しているような場合は、薬剤を使用する場合もあります。

ベンゾジアゼピン系:短時間作用の抗不安薬。ジアゼパム、アルプラゾパム、クロラゼペートなど

セロトニン系:長時間作用の抗不安薬。フルオキセチン、バロキセチン、セルトラリン、クロミプラミン、アミトプチリンなど

フェロモン製剤:ドッグアピージングフェロモン(犬)、フェリウェイ(猫)

以上のような薬剤や製剤がありますが、当院では雷恐怖症にはホメオパシーを推奨しております。70~80%の犬に効果が出ます。簡単な投与で副作用もありません。ぜひご相談下さい。


No.58 外耳炎2 Otitis externa

外耳炎の治療のポイントは、対症療法と病因に対する治療があります。

対症療法

・異物(耳毛、耳垢、耳漏、寄生虫など)の除去:耳洗

・炎症の沈静化

・持続因子・悪化因子の除去:内科的、外科的対応

病因に対する治療(素因・原因への対応)

・外用療法、全身療法

どんな病気でもそうですが、外耳炎も軽度なうちは簡単に治癒しますが、病因が複雑な場合や慢性化したものは根気がいります。とくにブドウ球菌、緑膿菌などのやっかいな細菌の感染がある場合、ポリープなどによって耳道が狭められてしまっている場合、潰瘍を作っている場合、アトピーやアレルギーが関与している場合は治療に時間がかかることが多いです。また、アメリカンコッカースパニエル、フレンチブルドッグは、外耳炎が慢性化しやすい傾向があります。外耳道の外科が必要になる犬の80%以上がこの2品種です。また、スコティシュフォールド、アメリカンカールなどの耳の軟骨がもともと変性している猫も日頃のケアを十分にすることが必要です。

予防、お手入れのポイントは、

異物の除去:耳毛、耳垢の除去

洗浄:ベトつかないものを使用する。合剤を使用しない。

この2点が重要です。

耳毛は、毛の生えやすい品種、そうでない品種いろいろありますが、基本的には、1ヶ月に1度くらいの割合で抜くか切るかすることが必要です。

洗浄は、油性のものは奥まで届きませんし残ってしまうことがあるので、日々のケアには向きません。また、抗生剤+抗真菌剤+ステロイド剤などといった合剤の使用を漫然と続けていると、ブドウ球菌、緑膿菌などの薬剤耐性菌の出現や薬疹のリスクが高まります。必ず刺激の少ない洗浄液を使用しましょう。また、外耳道は粘膜なので、毎日触ってしまうと、トラブルが生じやすくなります。症状がある耳では週に1~3回、健康な耳の場合は月に2~4回ぐらいのケアが適当です。

また、綿棒などで耳をほじくるのは、うまくやらないと汚れを耳の奥に押し込むことになります。洗浄液を入れて、出てきた汚れをふき取るようなイメージで行って下さい。


No.57 外耳炎1 Otitis externa

よくある犬猫のトラブルの1つは外耳炎です。外耳は輪状軟骨、楯状軟骨、耳介軟骨という3つの弾性軟骨が組み合わさってできています。

動物の耳を覗いたときに、最初に見える比較的平たい部分を舟状窩(せつじょうか)、少し下に行ってヒダヒダが多くなって来たところを耳輪脚(じりんきゃく)と言い、この舟状窩と耳輪脚で耳介を形成しています(ちなみに耳輪脚のヒダヒダは、耳を縦に閉じるとうまく重なるようにできています)。耳輪脚の先が外耳道です。外耳道には縦の道(垂直外耳道)と横の道(水平外耳道)があり、その奥に鼓膜があります。

外耳炎の主な原因は

・外傷:自傷(自分での掻き壊し)、人為的(人による不適切なケア)

・脂漏のある湿疹:脂漏性皮膚炎(マラセチア)

・脂漏のない湿疹:アトピー、アレルギー(食物、寄生虫)

・その他:異物、感染症(疥癬、細菌、真菌)、免疫介在性疾患

以上のようなものが挙げられます。また、

外耳炎の素因としては

先天的要因として

・構造異常:狭い耳道、耳毛、下垂した耳介、深い耳輪脚

・機能異常:脂漏症、アトピー素因

・犬種:アメリカンコッカースパニエル、フレンチブルドッグ、スコティシュフォールド、アメリカンカール

後天的要因として

・環境要因:気候的要因(季節)、人為的要因(人による不適切なケア)

・身体要因:機能的要因(内分泌異常)、構造的要因(ポリープ、腫瘍)

以上のようなものが言われています。また、外耳炎がひどくなって慢性化してしまうのは、以下のような場合です。

慢性化してしまう因子(持続因子・悪化因子)

・薬疹

・二次感染:ブドウ球菌、緑膿菌

・外耳の病理学的変化:表皮肥厚、慢性炎症、潰瘍、耳垢腺の増生、石灰化

・中耳の病理学的変化:鼓膜穿孔、中耳炎、真珠腫

また、耳の痒みを放置すると、動物が激しく頭を振ることで耳介軟骨の骨折が起こり、その結果として軟骨内に激しい出血が起こることがあります。この状態を耳血腫といい、しばしば外科的な対処が必要となります。

一言で外耳炎と言っても、なかなか複雑ですね。

次回は治療・予防の話です。


No.56 慢性腎臓病(CKD)2

CKDの症状は病期(ステージ)によって異なります。早期では無症状のことが多いです。腎臓の障害が進むに連れ、多飲多尿(PUPD)、体重減少、食欲不振、貧血などが顕著になってきます。ステージが進んでしまうと、体内の不要な物質を尿から排泄できなくなり、尿毒症に陥ります。尿毒症の症状は、嘔吐、乏尿(尿が少なくなること)、虚弱、筋肉の減少、などです。最終的には、痙攣、昏睡などの症状が出て命を落とします。

IRIS(International Renal Interest Society)のCKDステージ分類

ステージ1 (残存腎機能33%):早期腎臓病期;血液検査異常なし

ステージ1~ステージ2 (残存腎機能25%):腎機能不全期;低比重尿、GFR(糸球体濾過率)の減少、血液検査異常なし

ステージ2~ステージ3(残存腎機能10%):早期腎不全期;低比重尿、BUN(血中尿素窒素)の軽度上昇

ステージ3~ステージ4(残存腎機能5%):尿毒症期;BUNの中等度から重度の上昇

ステージ4~:終末腎不全期;生命維持に透析ないし腎臓移植が必要

CKDの診断の難しいところは、腎臓の状態がかなり悪くなるまで症状がわかり辛いところです。一般身体検査に加えて、血液検査(BUN、CRE、Htなど)、尿検査、レントゲン検査、超音波検査、血圧測定、バイオプシー検査などを、必要に応じて組み合わせて診断を行いますが、上記のように腎機能の残りが33%ぐらいまでに落ちても、なかなか検査に引っかかってきません(早期発見にはGFRの検査が有効とされていますが、カテーテルを入れるなどの制約が多く、実際には実施し辛い検査です)。個人的に、CKDの早期発見には、多飲多尿(PUPD)の症状、低比重尿、血圧測定が重要だと考えています。

CKDの治療は原因疾患やステージ、合併症の有無によって異なりますが、

・ストレスを避ける

・療法食

・十分な水分摂取

・原因疾患の治療

・球形吸着炭製剤

・輸液

などが、中心となります。進行したCKDには輸液が重要になります。飼主様に、ご自宅での輸液のやり方をご指導させていただいて、実施していただいている方が、たくさんいらっしゃいます。輸液を覚えていただくと、生存期間の延長やQOL(生活の質)の改善が飛躍的に見られます。また、大学病院では、透析、腎臓移植などの研究と1部の実施がされていますが、透析は時間と費用の問題、移植は倫理的な問題があり、実際には、まだ、困難です。


No.55 慢性腎臓病(CKD)1

心臓疾患や腫瘍とならんで、高齢になった動物たちの生命をおびやかす病気の1つに慢性腎臓病(CKD)があります(以前は慢性腎不全と呼ばれていました)。CKDは『両側あるいは片側の腎臓の機能的、もしくは構造的な異常(両方の場合もあります)が3ヶ月以上続いている状態』と定義されています。CKDは早期に診断・治療することで、生存期間やQOL(生活の質)の改善ができることが明らかになっています。

CKDの主な原因としては

先天性(遺伝性・家族性)

・腎低形成・異形成、多発性腎嚢胞

・犬:バセンジー(近位尿細管再吸収障害)、コッカー・スパニエル(IV型コラーゲン欠損)、サモエド(IV型コラーゲン欠損)、ドーベルマン(家族性糸球体症)、ラサ・アフソ(腎異形成)、シー・ズー(腎異形成)

・猫:アビシニアン(腎アミロイドーシス)、ペルシャ(多発性腎嚢胞)

免疫疾患

・全身性紅班性狼瘡(エリテマトーデス)

・糸球体腎炎

・血管炎(FIPなど)

アミロイドーシス

腫瘍

腎毒性物質の摂取

腎の虚血

炎症、感染症

・腎盂腎炎

・レプトスピラ症

・腎結石

尿路閉塞

特発性(原因不明)

CKDでは、上記のような原因によって、慢性的に腎障害が進行し、その修復過程におこる線維化(糸球体硬化と尿細管と間質の線維化)を伴って、やがて大部分のネフロン(腎単位)が消失し、尿毒症に陥ります。

次回に続きます。