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No.109 高齢動物の心疾患

老化が進むと循環器にもさまざまな変化が生じます。主な変化は次の3つです。

・弁の肥厚・石灰化:血液の逆流を防ぐ弁が変性し肥厚や石灰化が起こると、閉鎖不全症や狭窄症などの弁膜症が起こります。
・心筋の線維化:心筋細胞と心筋細胞の間の部分(間質といいます)に線維化(コラーゲンの蓄積)が進みます。その結果、心臓肥大や拡張障害が起こります。
・動脈の硬化:若い血管は弾力がありますが、老化によって弾力を失います。通常、静脈より動脈のほうが障害されることが多いです。上記のような老化による組織変性のためさまざまな問題が生じます。

高齢動物に起こりやすい心疾患はヒトとは異なります。ヒトは心筋へエネルギーを供給する冠動脈が詰まり心筋梗塞を起こすことが多いですが、冠動脈の多い動物では心筋梗塞はまれです。犬では僧房弁閉鎖不全症、猫では肥大型心筋症がよくみられます。

僧房弁閉鎖不全症:左心房と左心室の間の2枚の弁が僧房弁です。僧房弁の変形が起こると、弁がしっかり閉じることができなくなり、本来、左心室から全身循環へ送り出されるべき血液の一部が左心房内に逆流してしまいます。そのため肺のうっ血が起こります。この肺のうっ血が進行すると肺水腫となります。小型犬に非常に多い病気です。初期段階で軽度の心雑音だけで無症状な場合が多いですが、なるべく症状の軽い初期段階で発見し、治療を開始することが重要です。

肥大型心筋症:肥大型心筋症とは、心臓の筋肉が内側に向かって厚くなり、心室が狭くなってしまうことで体に十分な血液を送ることが出来なくなってしまう病気です。体に十分な血液を送ることが出来なくなるので、体はバランスをとるために心拍数を上げたり、血圧を上げたりします。ときには、後大動脈で血栓が詰まり、急に後肢が効かなくなる場合もあります。肥大型心筋症は猫の心筋症のうち約2/3を占めると言われています。遺伝的な側面がありアメリカンショートヘアー、ラグドール、メインクーン、ブリティッシュショートヘア、スコティッシュフォールド、ペルシャ、ヒマラヤン、ノルウェージャンフォレストキャットが好発品種です。日本猫にも起こる場合があります。また、どの年齢でも起こる可能性があります。


No.108 高齢動物の歯の疾患

一部の動物を除いて、歯は骨や爪と違い再生しません。歯の治療も早目に行うことが重要です。高齢動物に多い歯の疾患は歯肉炎と歯周病です。

歯肉炎と歯周病のサインは
・口臭、涎がひどい
・歯がグラつく、抜ける
・食事に時間がかかるようになった
・固いものを食べない
・歯茎が退行する
などです。

歯肉炎:歯垢や歯石の中に存在する細菌が原因となり、歯肉に炎症を起こした状態が歯肉炎です。歯の境目の歯茎の部分が炎症で赤くなり出血しやすくなります。また、歯と歯肉の間に歯垢や歯石が入り込んで歯周ポケットが形成されます。(→歯石

歯周病:昔は歯槽膿漏と呼ばれていました。歯肉炎が進行し歯周ポケットが深くなり、歯や歯肉だけでなく、歯根膜や歯槽骨にも損傷が拡がった状態です。ひどい場合は、歯根周囲に膿が溜り眼の下に穴が開いてしまったり(眼窩下膿瘍)、小さな動物では下顎が骨折してしまうこともあります。(→歯周病1 歯周病2

歯肉炎・歯周病の治療には基本的には全身麻酔下での処置が必要になります。歯肉炎・歯周病にならないように普段からのデンタルケア、歯磨きが推奨されます。デンタルケアのポイントは
・柔らかい歯ブラシを使う
・ペーストは発泡剤とキシリトールが入っていないものを使用する
・可能な限り若いうちから始める
です。歯磨きガムについてはあまりお勧めできません。慣れるまでは、デンタルケア、歯磨きが楽しいことだと条件づけするためにご褒美をあげるのも1つの方法です。最初は少しの時間からでも良いのでチャレンジしてみてください。


No.107 高齢動物の関節疾患

老齢動物でよくある関節疾患についてです。

老齢動物の関節疾患について
老化が進むと関節に変化が起きてきます。関節疾患のサインは
・スムーズに立ち上がれない、動作が遅くなった
・歩きたがらない、歩くのが遅くなった、歩き方がおかしい
・あまり遊ばなくなった、元気がない
・触ると怒る
・関節の曲げ伸ばしが困難
・階段の上り下りがつらそう
のようなものがあります。ある研究によると、軽度のを含めると7歳を超えたほとんどの犬では何かしらの関節の障害を持っているそうです。関節疾患の代表的なものには以下のようなものがあります。

関節炎:関節の軟骨が破壊され関節がスムーズに動かなくなります。壊れた軟骨組織から炎症を起こす物質が出てくるため痛みがでます。治療はNSAIDと呼ばれる鎮痛薬、半導体レーザーも有効です。肥満の場合は減量も重要です。無理な運動も関節炎を悪化させます。

ハンセンII型椎間板ヘルニア:2歳以上なら若い犬にもハンセンI型の椎間板ヘルニア(髄核が線維輪を破って飛び出して脊髄を圧迫するタイプ)が起こることがありますが、ハンセンII型の椎間板ヘルニア(髄核が線維輪を破らずに押し出すように脊髄を圧迫するタイプ)は老犬に多いです。(→椎間板ヘルニア1 椎間板ヘルニア2

変形性脊椎症:老化によって椎間板の髄核の水分が減り線維輪の耐久性や弾力が弱まります。そのため椎体と椎体が不安定になり、椎体にトゲのような骨棘ができてきて椎体を支えようとします。この骨棘が神経を刺激し痛みが生じます。(→変形性脊椎症


No.106 老化3 (Aging) 体内での変化

老化によって体内では様々な変化が起こります。動物種、個体差もあり、一概にはいえませんが、一般的には下記のようなことが生じてきます。

心血管系:心臓の弁が肥厚して動きが悪くなり、血管の弾力性がなくなってくると、血流が悪くなったり、血液を送り出す力が低下します。小型犬では僧房弁閉鎖不全症、猫では高血圧・肥大型心筋症が多くみられます。

腎・泌尿器系:歳を取ると、血液をろ過して老廃物を体外へ放出し、必要な水分やミネラルを再吸収する働きをしている腎臓の中の糸球体の総数が減り腎臓の機能が低下します(→慢性腎臓病1慢性腎臓病2)。また、膀胱や尿道の筋肉が衰え失禁しやすくなります。雌犬の場合はホルモンバランスの問題失禁が起こることもあります。

骨・関節系:関節が老化すると水分やコンドロイチンが減って、軟骨がすり減って硬くなりクッションする力が弱くなります。ちょっとした外力で変形し疼痛がでます。触られるのを嫌がる場合、どこかに痛みがある場合がよくあります。骨密度や骨量が低下し、骨ももろくなってきます。1つ1つの行動に時間がかかるようになってきます。

胃腸系:胃腸の老化は他の部位に比べるとゆっくりだといわれています。胃腸系が老化すると、唾液、胆汁、膵液などの消化液の分泌が減少し食べ物の消化吸収がゆっくりになります。また、胃腸の筋肉量の減少により消化管の動きも鈍くなるのと同時に、体の筋肉量も落ちているので、排泄のときに踏ん張る力も弱くなり便秘がちになります。便秘がひどくなると、食欲がなくなったり肝臓などに負担がかかります。

次回からは、高齢動物に起こりやすい病気についてです。


No.105 老化2 (Aging) 外観と行動の変化

全ての動物が避けられない老化をケアして、快適な日が続くように、以下のようなサインに気を配ってみてください。生理的な老化だけではなく病的な老化を伴っている場合もありますので、サインがあれば早目の受診をおすすめします。

外観の変化
被毛:白髪が顔から目立つようになり徐々に体に広がります。犬では甲状腺機能低下症によって毛質が変わり、つやがなくなり薄くなります。
皮膚:弾力がなくなり、乾燥または脂漏の状態になります。イボなどのできものができたり、シミがでてきます。寝たきりの状態になってしまうと褥瘡ができやすくなります。
眼:視力の低下、白内障になります。
口:歯石がたまり歯茎が腫れ、歯周病を起こします。歯周病は心臓や腎臓に大きなトラブルを起こす場合があります。(→歯周病)
体重:基礎代謝や運動量が低下して食事の量が同じでも太りやすくなります。関節が痛いとか歯や口が痛くて十分なカロリーが取れなかったりホルモンの病気などで痩せる場合もあります。
体形:背中や後肢に痛みが出てくると、歩行時に前に体重をかけ後肢の負担を減らそうとします。その結果後肢や臀部の筋肉が落ちてお尻が小さくなります。側頭筋、こめかみの筋肉の減少がみられます。

行動の変化
歩幅:変形性脊椎症(→変形性脊椎症)などからの背中の痛みや後肢の各関節の痛みによって、後肢の歩様がトボトボと元気なく小刻みに歩くようになります
呼びかけへの反応の低下:耳が遠くなっている、関節などに痛みがあり動きたくない、頑張ってそばに行っても良い事がない、などが考えられます。
よく立ち止まる、階段を上らなくなった:視力が衰えて怖い、痛みがどこかにある可能性があります。
水をよく飲む:腎臓疾患、肝臓疾患、各種のホルモンの異常などでPUPD、多飲多尿症といわれる状態になります。(→PUPD)
認知症:いったん正常に発達した知能が後天的な脳の器質的変化によって低下する状態です。残念ながらヒトの場合と同じように良い治療法は今のところありません。とくに犬において大きな問題です。

次回は体内ではどういう変化が生じているかの話です。


No.104 老化1 (Aging)老化の定義

動物もヒトと同じように長生きになり、五感や免疫力、体の各機能が衰え、若いころは健康管理が十分でなくても元気に暮らせていたのに、歳を取ると、さまざまな病気にかかりやすくなったり、ちょっとしたことが大きな事故になったりします。少しでも長く快適に過ごせるように、歳を取った動物との付き合い方を知っておくことは非常に大事です。

歳を取ると現れてくる現象を「加齢減少」といい、この現象が『老化』です。老化は『体の成熟後に加齢に伴い起こる非可逆的な生理機能の衰え』と定義されています。老化は徐々に進行していく状態で、病気ではありません。年齢が上がると体の各細胞が置き換わる速さが遅くなり、体の各機能が低下していきます。簡単にいえば、白髪が増えた、目や耳が遠くなってきた、骨や関節が衰え動きが悪くなってきた、などが老化です。

老化が始まる年齢は、小・中型犬の場合7歳ころから、大型犬の場合5~6歳ころから、猫の場合は8歳ころからが目安です。小・中型犬で10歳ころから、大型犬の場合で7歳ころから、猫の場合は10歳ころから老化が加速します。老化のスピードは動物種、品種、個体によってそれぞれことなりますが、犬や猫の場合ヒトの4~5倍のスピードといわれています。

老化には「生理的な老化」と「病的な老化」があります。前者は年齢が上がればどの動物も経験する身体の変化です。後者は取るとかかりやすくなる病気が引き起こす身体の変化です。老化はある日突然に起こるわけではなく、毎日少しずつ進んでいきます。生理的な老化に病的な老化が加わると老化はより加速します。

次回は老化のサインの話です。


No.103 前十字靭帯断裂 2 Cranial Cruciate Ligament Ruputure (CrCL)

歩き方や痛みで前十字靭帯断裂を疑ったら、まずは触診によって確認します。患肢の筋肉の萎縮や膝関節内側部の肥厚、膝関節が腫れて動きにぐらつきが見られたら前十字靭帯断裂を疑います。また、『お座り試験(Sit test)』できちんとお座りができるかどうか。『膝の過伸展』で膝の痛みがないかどうかを確認し、整形学的検査の『前方引き出し兆候(Cranial drawer sign)』、『脛骨圧迫試験(Tibial compression test)』を行います。そしてレントゲン撮影を行い、実際に関節がずれている、関節包が腫れているなどの所見により診断を行います。関節鏡やMRIなどを行うこともあります。

治療は10Kg以下の犬で軽傷の場合は、安静、痛み止め、レーザーなどの保存治療で概ね上手くいきます(猫では体重が軽くても手術が必要な場合が多いです)。体重が多い場合、症状が重度の時、内科的な治療で反応が悪い場合は手術が推奨されます。

手術には関節内固定法、関節外固定法、矯正骨切り術、人工物を用いた靭帯再建術などの様々な手術法が議論されていますが、現在では15kgぐらいまでの犬に対しては術式も簡単で費用も比較的安い関節外固定法の1つであるラテラルスーチャー法、15kgを超える犬に対しては脛骨高平部水平骨切り術(TPLO法)が推奨されています(図参照)。

予防は体重管理と急な運動をさせないこと。また前述したように、膝蓋骨亜脱臼のある犬や高齢犬ではとくに注意が必要です。

前十字靭帯断裂まとめ
・犬で一番多い整形外科疾患
・前十字靭帯は脛骨が前に飛び出さないように制限している重要な靭帯
・体重の軽い犬は内科的治療
・体重の重い犬、猫は外科的治療
・予防は体重管理、急な運動を避けること

TPLO法模式図


No.102 前十字靭帯断裂 1 Cranial Cruciate Ligament Ruputure (CrCL)

犬の整形外科疾患で一番多いのが前十字靭帯断裂です。ヒトではサッカー選手やスキーの選手がよく前十字靭帯を痛めますが、犬でも小型犬から大型犬まで非常によく起こります。猫でもまれにみられます。

膝の上には太ももの骨、大腿骨が、下には脛の骨、脛骨があります。それぞれの骨の末端は軟骨で覆われており、間には半月板と呼ばれるクッションの役割をするものが挟まっています。大腿骨と脛骨は5つの靭帯でつながっており、最も太いのは膝のお皿(膝蓋骨)を介して前方にある膝蓋靭帯で、膝の内外側に一つずつ安定させるために内側側副靭帯と外側側副靭帯があります。さらに膝の中には前後の安定のために交差するように2つの靭帯があり、大腿骨の前方から脛骨の後方についている靭帯を後十字靭帯、大腿骨の後方から脛骨の前方についている靭帯を前十字靭帯といいます。前十字靭帯は大腿骨に対して脛骨が前に飛び出さないように制限する重要な靭帯です(図参照)。

事故や激しい運動などによって急激な圧力が加わることが、前十字靭帯断裂の原因となります。急な運動も原因となることがあります。膝蓋骨亜脱臼がある場合は前十字靭帯損傷を併発しやすいといわれています。また、老化による靭帯の脆弱化や、肥満による膝関節への負担の増加も要因です。遺伝的要因もあります。

前十字靭帯が損傷すると痛みが生ずるため、足を上げたままケンケンで歩いたり、ひきずったりしてその足に体重をかけようとしなくなります。非常に軽い損傷であれば、ほとんど見た目にはわからないこともあります。軽い損傷であれば数日でその症状は消えますが、同じように足を使いつづけていれば完全に切れてしまうこともあります。もし完全に切れてしまうとその足は体を支えることができなくなってしまい、膝は正しく曲げ伸ばしをすることができなくなってしまうため、半月板が損傷して強い痛みが生じたり、通常と異なる方向に力がかかるようになるため関節が変形してくることもあります。
次回は前十字靭帯断裂の診断と治療の話です

犬の膝関節の模式図(内側側副靭帯と外側側副靭帯は省略)


No.101 気管虚脱と軟口蓋過長症2 (Tracheal collapse、Elongated soft palate)

気管虚脱との合併症で多いのは、軟口蓋過長症です。軟口蓋というのは上顎の一番奥にある柔らかい部分です。ヒトではこの部分にノドチンコ(口蓋垂)があります。軟口蓋過長症はこの軟口蓋が長く厚くなり気管の入り口の喉頭蓋に被って空気の通りの邪魔をする状態です。好発犬種はブルドッグ、パグ、ボクサーなどの短頭種、キャバリア、ヨークシャー・テリア、マルチーズ、チワワなどにもみられます(気管虚脱の好発犬種と被ります)。やはり猫では稀です。軟口蓋過長症があると気道抵抗が増して気管虚脱を悪化させます。

軟口蓋過長症の特徴的な症状はいびきです。短頭種の犬でいびきの大きい犬は軟口蓋過長症を持っている場合がほとんどです。重症例ではチアノーゼや失神を起こすこともあります。

気管虚脱、軟口蓋過長症の治療は症状の重症度によりますが、急性の場合は、まずは酸素吸入が効果的です。薬剤としては、鎮咳剤、去痰剤、気管支拡張薬、ステロイド剤、鎮静剤などが使われますが、もともとが解剖学的な問題である病気なので外科的治療を選択する場合も多くあります。外科的治療の第一歩は、気管虚脱の犬すべてが軟口蓋過長症を持っているわけではありませんが、軟口蓋過長症をもっている犬に対しては軟口蓋の外科的矯正です。この手術は気管虚脱の手術に比べて短時間(通常15分程度)で行え、犬の負担も軽いです。この手術だけで気管虚脱の症状も改善される犬は多くいます。しかし、軟口蓋の矯正を行っても症状が軽減されなかったり、軟口蓋過長症を持っていない気管虚脱の犬で症状が重い場合は気管矯正術を行います。この手術は時間もかかり(通常3時間程度)犬の負担も大きいです。

当院では気管虚脱の内科的治療にホメオパシーを使用して良い結果が得られています。また、軟口蓋過長症を持っている犬に対しては去勢・不妊手術や歯石除去などを行うときに一緒に軟口蓋矯正術を行うことを推奨しております。また、このような呼吸器系の病気を持っている場合は高温多湿の時期や肥満は症状を悪化させるので、とくに注意が必要です。


No.100 気管虚脱と軟口蓋過長症1 (Tracheal collapse、Elongated soft palate)

気管は上気道(外鼻腔、鼻腔、咽頭腔、喉頭)と下気道(気管支、細気管支、肺胞)を接続する適度な硬度と柔軟性を兼ね備えた筒状の導管です。この気管が硬度を失い潰れてしまうのが気管虚脱です。気管はC状の気管軟骨が輪状靭帯によって結合していて、背側面は2層の平滑筋からなる膜性壁によって構成されています。正常な状態では軟骨が9割、膜性壁は1割の割合です。気管虚脱はこの軟骨の脆弱化と膜性壁の下垂という2つの要素からなり(とくに前者が重要です)、ステージによってさまざまな狭窄を呈します(グレードI:正常の内腔より25%の内腔の減少、II:50%の減少、III:75%の減少、IV:75%以上の減少)。原因は解明されておらず、犬における発生は、ポメラニアン、ヨークシャー・テリア、トイ・プードル、マルチーズなどのトイ種に多いですが、ゴールデン・レトリーバー、ラブラドール・レトリーバーなどの大型犬、柴犬などの日本犬種とそのMix種にも発生がみられます。発生年齢も1~17歳とさまざまで、雄の発生がやや多いといわれています。猫では稀な疾患です。

症状は発咳と重症になった時の呼吸困難やチアノーゼ、失神です。初期の段階での咳は「カッカッ」「ケッケッ」などの乾性で喉に何か詰まってる、痰が上手く出ないような状態に見えます。発咳は一時的で、飲水時や興奮時、運動や高温多湿な環境によって誘発されます。続いた咳の最後に「カ~ッ」と痰を切るような仕草で終わることも特徴です。気管内の分泌物が多くなると湿性の咳変わってきます。虚脱が重度になると発咳は悪化して頻繁となり、気管虚脱の典型的な症状の1つの『ガチョウ鳴き様発咳:Honking cough』が起こります。これは伸長した膜性壁が速い呼吸によって振動して生じる、あたかもガチョウが鳴いているような「ガーガー」という大きな呼吸音です。この咳が出てくるとグレードIII以上の状態です。

診断は、前述の発咳の臨床症状と触診による発咳テスト、聴診、レントゲン検査によって行います。正確なグレード分類には気管内支鏡の検査も必要ですが、診断には通常は必要ではありません。

次回に続きます。