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No.434 肝内胆汁鬱滞性黄疸

肝内胆汁鬱滞は、抱合型(直接型)ビリルビン:Direct bilirubin(D-bil)を上手く胆汁に混ぜらず、胆汁排泄障害が起こっている状態です。

多くは肝内細胆管が炎症などで障害される事によって生じ、総ビリルビン Total bilirubin;T-bil (実際にはD-bil )の上昇に加え、通常、胆道系酵素である ALPやGGT の上昇が見られます。急性の場合は中毒が多く薬物の誤飲の確認が必要です。また、各種の肝疾患や特定の薬剤から慢性に経過して生じる場合もあります。ヒトでは各種の遺伝病が報告されています。診断のために、肝FNA検査や肝生検が必要な場合も多くあります。以下のような疾患でよくみられます。

・肝リンパ腫
・肝内胆管炎・胆管肝炎(好中球性、リンパ球性)
・薬剤性(exp 猫へのセルシン投与での劇症肝炎)
・妊娠性(動物では稀)

とくに、胆管炎・胆管肝炎で、好中球性とリンパ球性を鑑別するのは治療にとても重要です。


肝リンパ腫の細胞

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No.433 肝細胞性黄疸
No.432 溶血性黄疸
No.431 黄疸 (Jaundice)
No.429 慢性肝炎
No.426 猫の肝リピドーシス


No.433 肝細胞性黄疸

肝細胞障害のため、非抱合型(間接型)ビリルビン:Indirect bilirubin(I-bil)を抱合型(直接型)ビリルビン:Direct bilirubin(D-bil)に上手く変換できない状態です。通常、血清肝逸脱酵素(AST.ALT)が上昇します。ヒトでは痒みを伴う場合もあります。

肝細胞性黄疸を呈する疾患としては、肝炎や肝硬変が一般的です。ヒトだとウイルス性とアルコール性のものが多いですが、犬では肝炎→脂肪肝→肝硬変の変化が多く。肝臓の代謝のメカニズムが違う猫では(外来のグルクロン酸抱合が上手く出来ない)、肥満猫での肝リピドーシスがよくみられます。抱合化する機能は比較的維持されることが多いので、肝細胞性黄疸でI-bilの割合が大きい場合は肝機能障害が高度である場合が多いです。

動物での確定診断には肝FNAや場合によっては肝生検が必要な場合が多いです。近年サプリメントなどによる肝障害も報告されており注意が必要です。

・急性肝炎、慢性肝炎
・脂肪肝、肝リピドーシス(猫)
・肝硬変
・銅蓄積性肝炎
・薬剤性
・悪性腫瘍(原発・転移性)
・レプトスピラ


肝リピドーシスの猫の黄染した皮膚

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No.432 溶血性黄疸
No.431 黄疸 (Jaundice)
No.429 慢性肝炎
No.426 猫の肝リピドーシス


No.432 溶血性黄疸

赤血球の破壊亢進により、肝細胞内におけるビリルビンの処理(抱合)が追いつかない場合は、非抱合型(間接型)ビリルビン:Indirect bilirubin(I-bil)優位の黄疸が生じます。これは主に各種溶血性疾患の際にみられます。過剰生産でなくてもI-bilを肝臓に取り込めない場合にも溶血性黄疸が起こります。赤血球の凝集、網状赤血球の増加を認めた場合は溶血性黄疸を疑います。肝疾患でI-bilが高値となるものとしてはヒトでは遺伝性の体質性黄疸がありますが動物ではよくわかっていません。肝硬変においても非代償性の場合や、あるいは劇症肝炎のような著しく肝予備能が低下した場合に、ビリルビン抱合能低下によりデータ上I-bilが優位となる場合があります。I-bilは水に溶けないため、尿中ビリルビンは増加しません。動物では主に以下のような疾患で溶血性黄疸が生じます。溶血性黄疸は他の黄疸と比べて致死率が高いことが知られています。早期の治療の介入が必要です。

免疫性:免疫介在性溶血性黄疸(IMHA) 、不適合輸血など
感染性:バベシア、ヘモプラズマ、レプトスピラなど
ハインツ小体性:玉ねぎ、DLメチオニン、アセトアミノフェン、メチレンブルー、プロピレングリコールなど
機械的刺激:大静脈塞栓症、心臓弁膜症、DIC、非典型的溶血性尿毒症症候群(D-HUS)など
有棘赤血球の増加:血管肉腫、猫の肝リピドーシスなど
敗血症
重度肝障害
遺伝病:ピルビン酸キナーゼ欠乏症、ホスホフルクトキナーゼ欠損、メトヘモグロビン血症など
新生児黄疸(ヒト):RBCが多いくグルクロン酸抱合の力が弱いため


IMHA時の赤血球凝集

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No.431 黄疸 (Jaundice)
No.396 ユリ科の野菜の誤食
No.384 輸血
No.277 自己免疫性溶血性貧血 (Immune hemolytic anemia,IHA)
No.276 溶血性貧血 ( Hemolytic anemia)
No.144 播種性血管内凝固症候群 (DIC)


No.431 黄疸 (Jaundice)

黄疸は血中ビリルビン濃度の異常高値です。古くなった赤血球が破壊されるときに生成されるビリルビン(黄色い色素)によって、皮膚や眼球結膜が黄染した状態となります。通常、ビリルビン値が2~3mg/dlを超えると顕性黄疸といって眼に見えてわかるようになります。また、血清ビリルビン値は上昇しているものの、黄染があきらかでない場合を不顕性黄疸といいます。 黄疸の原因疾患は多岐にわります。入院加療や緊急処置が必要となる場合も多いため、診断は迅速かつ正確であることが求められます。

ビリルビンは血液で肝臓に運ばれグルクロン酸抱合され胆汁中に排泄されます。肝臓で抱合される前のビリルビンを『非抱合型(間接型)ビリルビン:Indirect bilirubin;I-bil』、抱合された後のビリルビンを『抱合型(直接型)ビリルビン:Direct bilirubin;D-bil』といい、あわせて『総ビリルビン:Total bilirubin;T-bil』と呼びます。通常、T-bilは血液中にごくわずかしか存在していません。黄疸は以下のように分類されます。

溶血性黄疸:溶血性貧血などで赤血球が過剰に壊されてしまい、肝臓で処理しきれなくなりI-bilが血中にあふれる状態です。過剰生産ではなくても、薬剤、敗血症などにより、I-bilを肝臓に取り込めない場合も起こる場合があります。
肝細胞性黄疸:肝臓にI-bilを取り込めても、肝炎、肝硬変、肝臓癌などで肝臓の細胞に障害があって、I-bilをD-bilに変換できない状態です。
肝内胆汁鬱滞性黄疸:D-bilに変換できても、細胆管が障害されて胆汁に混ぜることができず肝臓内に溜まってしまう状態です。
閉塞性黄疸:D-bilが胆汁に混ざっても、胆管や腸管に排出するルートが閉ざされている状態です。
体質性黄疸(ヒト):I-bilをD-bilに変換する際に必要な酵素が欠乏していている状態です。動物ではよくわかっていません。

黄疸の種類によっても異なりますが、皮膚や眼球結膜の黄染以外の一般的な臨床症状は、嘔吐(63.5%)、食欲不振(62.6%)、嗜眠(55.7%)、発熱(18.3%)です。動物種、品種、年齢、詳細な病歴の聴取や身体所見、症状によりある程度の鑑別が可能ですが、血液検査、画像検査にてさらに鑑別診断を進め、素早く治療を開始することが重要です。また、疾患によっては緊急手術が必要な場合もあります。


黄疸で眼球結膜が黄染したロシアンブルー

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No.426 猫の肝リピドーシス
No.420 猫の原発性肝臓癌
No.365 門脈体循環シャント (Portosystemic Shunt:PSS)
No.344 犬の胆嚢粘液嚢腫
No257 犬の原発性肝臓腫瘍
No.189 膵炎(Pancreatitis)
No.72 肝臓の検査2
No.71 肝臓の検査1
No.70 胆嚢疾患(Gallbladder disease)


No.430 ヒョウモントカゲモドキの卵詰まり

ヒョウモントカゲモドキ(レオパードゲッコー)の卵詰まり、もしくは卵の前段階の殻のない卵胞が詰まる卵胞鬱滞は命に係わる大きな疾患です。これらを直接引き起こす原因は以下のようなものが考えられます。
・産卵場所が適切な環境でない
・低カルシウム血症
・卵管の感染症
・栄養状態が悪い
・同居の個体に産卵を邪魔される
・重度の肥満
・初産

症状はお腹がふっくらとしていて元気食欲がないという場合が多いです。卵胞鬱滞では卵胞に感染が生じて卵胞が破けてしまうことがあります。そうすると卵黄(卵胞の中身)が体腔内に漏れ出て強い炎症が起こります(体腔炎)。体腔炎が起こるとより重症化します。

診断は、症状、レントゲン検査、エコー検査、血液検査などの結果から総合的に行います。治療はカルシウム剤とオキシトシン剤の投与、栄養の補給、環境の整備です。適切な産卵場所を作るのは重要です。

産卵するための部屋は、底の浅いタッパーなどを使用し蓋に孔を空けます。この穴は出入口です。 中が狭すぎると産卵してくれないのである程度の動きがとれる広さが必要です。部屋の中には床材を敷きます。ヤシガラ土、黒土、赤玉土、水苔、バーミキュライト、パーライトなどが使用できます(誤食には十分注意してください)。これらを適度に湿らせておきます。乾燥しすぎでも湿らせすぎでも産卵してくれなくなります。

どうしても産卵してくれない場合は外科手術が必要になります。手術はどれだけ体力が残っているかによって大きく結果が異なります。待ちすぎると体力が落ちて外科手術の成功率が落ちます。


卵詰まりのヒョウモントカゲモドキ


No.429 慢性肝炎

肝臓はタンパク合成や栄養素の貯蔵・解毒作用など、多くの重要な働きをしており、強い再生能力と予備能力をもつ臓器です。慢性肝炎は肝臓における慢性的な炎症により生じ、炎症の程度により様々な異常を引き起こします。ヒトで一般的にみられるウイルス性肝炎は動物では少なく、胆嚢疾患や膵臓疾患、門脈体循環シャント、肝臓に負担のかかるホルモン異常などの他の疾患から2次的に生じる場合と、免疫異常による肝炎が多数であると考えられていますが詳細な原因は不明です。

最初は目立った症状が出ないことがほとんどです。健康診断やフィラリア検査を目的とした血液検査で、肝酵素値が上昇がみつかり肝疾患の可能性が発見されることが多いです。数ヶ月~数年単位で徐々に食欲不振や嘔吐、下痢、体重減少、多飲などが見られるようになります。元気な時と症状が出るのを繰り返す場合も多いです。病状が進行すると肝機能の低下を引き起こし、消化管の炎症やそれに伴うタンパク質の漏出、低ALB症、黄疸やアンモニア値の上昇、神経症状(肝性脳症)を引き起こし死に至ります。

確定診断のためにはALT.AST.ALP.ALB.T-Bil.TBA.NH3などの血液検査だけでなく、他の疾患との鑑別の為、膵酵素の検査、副腎や甲状腺などのホルモンの検査、腫瘍やシャント血管の有無などの確認の為のCT検査が必要なこともあります。最終的な確定診断には肝臓の組織検査が必要です

慢性肝炎は徐々に病態が進行しているので、治療は進行している炎症と肝機能の低下を抑えることが主になります。炎症に対する治療は肝細胞膜の保護薬や利胆剤、状態によってステロイド剤あるいは免疫抑制剤の使用になります。胆汁鬱滞の改善薬や抗菌薬が使用される場合もあります。しかし、強い再生能力と予備能力を持つ肝臓に著効する薬はありません。早期発見が重要です。

可能であれば食事の改善も勧められます。肝臓の機能が落ちている時は、良質な低タンパク食(加工されていない肉や魚、卵、大豆など)や低塩分の食事が推奨されます。ただし、これらにこだわるあまり、すべて手作りの食事にしようとすると、かえって栄養のバランスが悪くなることもあるので注意が必要です。血液検査上では肝臓の数値が上がり始めているけれど症状が乏しいような状態であれば、低タンパク・低塩分であるシニア用のバランスが取れたフード、もう少し進行して症状が出始めている場合は、肝臓用の療法食を中心に考えるのも良いでしょう。エビデンスは少ないですが、サプリメントや代替医療などが効果的な場合もあります。この他、腹水が溜まったり、神経症状(肝性脳症)に移行して症状が進んだ場合はそれらに合わせた治療が行われます。改善傾向がみられても、症状が繰り返すことが多いので、根気よく対処することが必要です。

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クリックすると手術時の写真が出ます。苦手な方は見ないで下さい。
犬の慢性肝炎の肝臓


No.428 日光浴

日光浴は、日光に含まれる紫外線を吸収することが目的ですが、紫外線ときくと、近年では、日焼けやシミそばかすを気にして、できるだけ日に当たらないようにする方も多くいらっしゃると思います。紫外線は長時間当たりすぎると有害ですが、適度にお日様を浴びることは動物にとっても様々な良い効果をもたらします。

動物は紫外線が足りないとビタミンDが不足して、カルシウムの吸収がスムーズにいかなくなります。そのため、骨や歯の生成に影響が出てしまう成長障害や、骨軟化症が起きて骨が柔らかくなり、骨が変形する病気にかかることもあります。ビタミンDは免疫力を高めることを補助したり、カルシウムの吸収を助ける役割をします。動物は被毛に覆われているので、ヒトほどではないですが、日光浴の効果で皮膚からビタミンDを作ることができます。

日光浴の大きな効果の1つは気分転換です。眠る時間が多くなっている高齢動物などは、昼間に寝すぎると昼夜が逆転し生活のリズムが崩れてしまいます。認知症気味の老犬が夜眠れずに徘徊し夜鳴きをすると、飼主さんの生活にも大きな支障がでてしまいます。適度な散歩や日光浴を利用して気分転換をさせるのがおすすめです。日光浴はホルモンバランスを保つために効果的で、目が光を感じると脳内のセロトニンというホルモンの分泌が活発になり、体内時計の改善や、精神的に落ち着くなど、自律神経にも良い効果が表れます。このセロトニンが分泌されると、眠りを司る睡眠ホルモンのメラトニンが生成され、夜の眠りも深くなるといわれています。日光浴によって五感が刺激され、気持ちも落ち着いていきます。とくに高齢動物には朝の日光浴がオススメです。

また、日光浴は皮膚病予防の効果もあります。紫外線には殺菌効果があり、適度に日光を浴びることで最近や真菌から皮膚を守ります。

日光浴は散歩に出かけなくても自宅でもできます。老犬でもしっかり歩けるなら、散歩に出かけ、外の空気を吸ってお日様を浴びることをお勧めしますが、足腰が弱ってる場合は、庭やベランダ、リビングの窓際で日光浴をしましょう。長時間でなく、15分~30分程度で十分です。窓際での日光浴は、紫外線を遮断する遮光カーテンやUVカット加工されたカーテン越しだと効果が半減するのでカーテンを開けて行いましょう。暑すぎると熱中症の心配がありますから、自分で動けない場合は必ず飼主さんが注意してあげてください。また、真夏の直射日光は危険なので日差しの強さには十分注意しましょう。

一緒にのんびりとした時間を過ごす日光浴は、動物と語り合える貴重な時間になるかもしれません。1日のうちわずかな時間でも日光浴を楽しんでみてはいかがでしょうか。


日光浴をしているライオン(富士サファリパーク)

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No.323 代謝性骨疾患 (Metabolic bone disease:MBD)


No.427 ハリネズミの歯周病

ハリネズミでは歯肉炎・歯周炎などの歯周病が一般的です。特に高齢になってくると起こりやすい病気です。また、歯周病は歯の周囲だけの病気ではありません。細菌は血流に乗って全身を巡り、肝臓や腎臓などの内臓疾患を引き起こします。

食事を取ると歯の表面に食べ物カスが付着します。これを栄養にして増殖した細菌の塊を歯垢といいます。歯垢は時間が経つと固い歯石となって歯にこびりつき、歯と歯肉の隙間(ポケット)に入り込んで炎症を起こし歯周病となります。缶詰やウェットフードばかりを与えていると歯石が付きやすくなり、糖質の高い果物やフード、炭水化物の多い食餌は虫歯を引き起こす原因にもなります。また偏った食事により、ビタミン・ミネラル不足による免疫力の低下が原因で、歯肉炎等や口内炎が起きる場合もあります。また、ハリネズミは口腔内に雑菌が非常に多く、硬いフードのかけら等で口腔内を傷つけ、同様の症状が出る場合もあります。とくにハリネズミ同士が喧嘩して噛むと相手が炎症をおこしやすいので注意が必要です。

歯周病の主な症状は、口が臭い、歯の変色、歯肉が赤くなり腫れる、歯がぐらつく、歯が抜ける、痛みや違和感から口元をしきりに気にする、固いものを食べなくなる、食欲・体重が落ちるなどです。

治療は、全身麻酔をかけ、歯石の除去や抗生剤の投与などを行います。進行度によっては抜歯も必要です。また、麻酔下で精査すると口腔鼻腔瘻や腫瘍が発見される場合もあります。

予防は虫を食べさせることです。本来ハリネズミは食虫目といって野生化では基本的に甲虫やチョウの幼虫、ミミズ、カタツムリなどの小さな虫を食べていると考えられています。身近で手に入りやすいミルワームの外皮やコオロギの外骨格は繊維質に富んでいて、噛むことによって歯についた歯垢を除去してくれる効果が期待できますので、ぜひ食べさせてあげてください。ただし、昆虫食ばかりだと、代謝性骨疾患になるので注意が必要です。

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No.359 歯肉炎と歯周病と歯槽膿漏
No.323 代謝性骨疾患 (Metabolic bone disease:MBD)
No.98 歯周病2 (Periodontal disease
No.97 歯周病1 (Periodontal disease


歯周病で歯茎が腫れているハリネズミ


No.426 猫の肝リピドーシス

肝リピドーシス(脂肪肝)は、肝臓に脂肪が蓄積しすぎて正常に働かなくなる病気です。猫でよくみられます。ヒトとはメカニズムが違い、猫の場合は何らかの原因で食欲不振になり食事をとらなくなると肝臓が急激に脂肪を蓄積しようとしてこの病気を発症します。若くて痩せている猫でも起こりますが、太っている中高齢の猫の発症が多く、肥満の猫が食欲をなくした場合はとくに注意が必要です。

食欲不振が引き金になる病気ですが、原因によっては嘔吐や下痢など、別の症状が先に出ることもあります。本病では肝機能に障害が起きるため進行すると黄疸が起こり、さらに重篤化し肝臓の解毒作用が働かなくなると、肝性脳症を起こして意識障害や痙攣などが起こります。

診断は、血液検査で肝数値の上昇を確認後、超音波検査で肝リピドーシスの兆候が出ていないか確認します。確定診断には、超音波ガイド下で肝臓に針を刺して肝臓の細胞を採取し(FNA検査)、顕微鏡で脂肪の蓄積を観察する方法や、開腹手術により肝生検をとる診断方法もあります。

本病は食欲不振を生じる他の疾患が原因となっていることが多いため、原因となる疾患の診断も重要です。よくある疾患には、
・胆管肝炎
・膵炎
・炎症性腸疾患
・腫瘍
・糖尿病
・甲状腺機能亢進症
などがあります。

治療は、点滴で栄養を補いながら食事をとらせます。猫自身が口から食事を食べてくれればよいのですが、食欲不振の猫が自ら食べることはほとんどありませんので、最初は、チューブなどで強制的に食事を与えます。チューブを入れる部位は鼻、食道、胃とさまざまあり、獣医師が猫の状態を確認した上で、飼主様と相談しながら治療方針を立てていきます。また、本病の原因となる疾患がわかっていればその治療も並行して行います。

前述の通り、本病は太った猫に多い病気ですので、猫が肥満にならないよう体型管理には気をつけましょう。肥満は本病のみならず糖尿病など、様々な病気のリスク因子です。長く健康でいられるよう、適度な食事と運動で健康的な体型キープを目指しましょう。


肥満猫の食欲不振は早急な対応が必要です

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No.304 糖尿病 (Diabetes)
No.296 生検
No.280 リンパ球形質細胞性腸炎 (LPE)と炎症性腸疾患 (IBD)
No.189 膵炎(Pancreatitis)
No.78 猫の甲状腺機能亢進症 (Hyperthyroidism)


No.425 腹腔内出血(血腹)

腹腔内出血(血腹)とは、腹腔内で急性の出血が起こり血液が貯留した状態をいいます。交通事故や落下事故などの外傷でも腹腔内での出血は認められますが、中高齢の大型犬は派手な外傷なしに腹腔内出血を起こすことがあります。なかでもゴールデンレトリバーやジャーマンシェパードなどは脾臓や肝臓に腫瘤病変を作りやすく、これが破裂すると腹腔内で急激に出血が進行します。腫瘤は血管が豊富でかつ脆弱なため前触れなしに大量出血する危険性があり、よほど幸運でなければ自然に止血することもありません。ひとたび出血すると多くは循環血液量減少によるショック状態を引き起こし、治療が間に合わなければ死に至ります。とくに大型犬の飼主さんはあらかじめこの病態について知っておいて、適切な対応をとることがとても重要です。

症状は急性の失血に伴い、突然の元気消失、起立不能などが見られます。大量の出血から低循環性のショック状態に陥ると、頻脈や粘膜蒼白など低血圧の徴候が認められ、さらにはぐったりとした虚脱状態に陥ります。ショックに対する適切な処置を行わなければ、短時間で死に至る可能性があります。

診断のためには、酸素吸入を行い、迅速に血管確保をして、急速輸液によるショックに対する治療を行いながら検査をすすめます。腹部超音波検査により腹水貯留が認めらたら、直ちに穿刺によりそれが血液成分であることを確認し、出血原因となっている病変を探査します。同時に各種血液検査を実施し重症度の評価を行います。さらに状態によって、胸部レントゲン検査や心臓超音波検査などを行います。悪性腫瘍による腹腔内出血の場合、この時点ですでに全身転移した腫瘍が確認されることも少なくありません。

初期治療によってショックから離脱し、麻酔処置が可能となり次第、救命処置として緊急開腹手術による腫瘤の摘出や止血処置を行います。出血の程度や合併症によっては手術の前後で輸血が必要となることがあります。手術後には一時的な心筋の低酸素や低循環などによる不整脈が出ることがありますが多くは一過性です。摘出した腫瘤は病理学的検査で確定診断を行います。

予後は出血した原因によって様々です。外傷や良性病変による出血であれば、早期の手術で救命後、問題なく寿命を全うできることがほとんどです。しかし、悪性腫瘍である血管肉腫だった場合は著しく予後が制限されます。血管肉腫は肺や肝臓、心臓をはじめ他臓器への転移を非常に起こしやすく、発覚時点ですでに多臓器転移していることが少なくありません。そのため、救命手術のみ行った場合の平均的な予後は2ヶ月程度と報告されています。また、重症例では血管内に微小血栓形成を起こす播種性血管内凝固(DIC)という病態を併発している場合があり、この場合は外科手術を乗り越えてくれたとしても術後数日以内の多臓器不全・死亡が高率に認められます。外科手術後に無事退院し、抗癌剤による化学療法を行った場合は予後が4-6ヶ月程度延長することが知られています。

腫瘍を血液検査で診断することは非常に困難であり、特に初期病変は画像検査なしに発見することはまず不可能です。早期発見・早期治療が叶えば根治確率も上がるため、特に7歳を超えた大型犬では、画像診断を含めた定期健康診断を積極的に(少なくとも半年毎に)行うことが重要です。血管肉腫は先述のように典型的には中高齢の大型犬に多く発生しますが、ミニチュアダックスやトイプードルなどの小型犬や高齢の猫でもみられ、体格が小さいからと安心できるものでもありません。いずれの場合も定期的な検診によって異常を早期発見できるよう努めることが重要です。体腔内に腫瘤が見つかっても、破裂前に切除できれば腹腔内出血を回避することができます。もしそれが悪性であっても、早期に処置を行うことで寿命を延ばすことができます。

クリックすると摘出した血管肉腫が表示されます。苦手な方はクリックしないでください。
血腹の犬から摘出した血管肉腫

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