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No.479 プロドラッグとアンテドラッグ

プロドラッグとは、体内に入ってから患部に到達するまでの間に、薬効成分が分解されないように化学構造を変換した薬です。投与前はほとんど活性化していない状態、もしくは不活性の状態ですが、投与後に体内で起こる代謝によって本来の薬効を示すようになります。薬物送達システム(Drug Delivery System:DDS)という、疾患部位に必要な薬効成分が、適切な時間のみ作用するように調製する技術を利用して作られる薬の一種です。インフルエンザの時に使用されるタミフル(オセルタミビル)が有名です。また、DDSを利用したその他の薬には放出制御製剤(コントロールドリリース製剤)が挙げられます。

アンテドラッグは、ソフトドラッグとも呼ばれ、特定の部位でのみ強く作用し、体内に吸収されることで急速に不活性化し効果を失う薬剤のことです。こちらも、薬の分子構造に工夫を加えることで製造されます。アンテドラッグの代表的な薬には各種のステロイド薬があります。

このように、プロドラッグとアンテドラッグとは逆のメカニズムによって作用していますが、どちらも副作用の軽減や、薬が必要な部位への吸収率を上げる事、薬の持続時間を調節する事などを目的に使用されます。まだまだ獣医界での研究や報告は少ないですが、これから使用頻度は増えていくと考えられます。


プロドラッグ タミフル


No.478 猫との散歩

近年、都会では犬と猫の飼育頭数が逆転し、犬の様に猫と一緒に屋外を散歩をされる方も多くなってきました。固体差はありますが、リードを嫌がらず中には散歩を楽しみにしている猫もいます。可能なら小さい頃からリードに慣れさせておくのがベストです。散歩には首輪よりはハーネスの方が良いです。猫も安心するし首輪が抜けて逃亡したなどという事故も防げますし、猫が引っ張った時に気管が締め付けられることもなく快適です。

散歩するのが好きな猫は嬉しそうに飼主さんの後をついて来ますが、エンジョイ出来ない場合には無理は止めましょう。また、屋外では飼主さんがコントロールしている事を忘れずに、都会で交通量の多い街では、驚いた猫が急に走り出したりして逃亡や交通事故の原因になる場合があります。必ず適切なリードとハーネスを用いましょう。

リードを使った散歩は、四肢のストレッチや運動不足解消など以外にも、様々な音を聞いたり、新しい匂いを嗅いでおもしろいものを見つけたり、猫にとって良い経験、刺激となります。また、芝生、土、砂利石、タイルや道路などをパットで触知して、パットから出るフェロモンをそこに残していきます。散歩中のパットへの刺激は屋内とはくらべものにならないほど多彩です。

慣れないうちは、くれぐれも猫が刺激に圧倒されて散歩が嫌にならない様に、最初は短い時間、場合によっては抱っこから始めましょう。猫好きのヒトが急に触ってくるのにも注意して下さい。また、犬の散歩と同様に外気温や湿度にも十分な注意が必要です。


ハーネスは子猫のうちから


No.477 犬の環椎軸椎亜脱臼 (環軸亜脱臼)

脊椎のうち第一頚椎を環椎、第二頚椎を軸椎といいます。通常、脊椎と脊椎は椎間板が間に挟まってクッションの役目を果たしていますが、環椎と軸椎の間には椎間板が存在しておらず4つの靭帯によって支えられています。生まれつき、あるいは外傷などによってこれらの靭帯の形成に異常が起こると、環椎と軸椎が亜脱臼を起こし脊髄が圧迫を受けます。このような状態を環椎軸椎亜脱臼 (環軸亜脱臼)といいます。

犬の環軸亜脱臼は大半が生まれつきの靭帯形成異常によるもので、半数以上が1歳未満に初期症状を示します。中には成犬、老犬になってから、怪我や激しい遊びなどによって症状が起こる事もあります。原因が不明の場合もあります。大多数がチワワ、ポメラニアン、マルチーズなどの小型犬種で発症しますが、中型犬以上でも認められる事があります。猫ではあまり起こりませんが、馬やラクダなど様々な動物種で報告があります。また、肥満は悪化因子です。

主な症状は、頭部を動かすと激しい痛みを感じ、頭や頚を触られることを嫌がります。抱っこをすると痛がる場合もあります。症状が軽い場合は軽い麻痺やナックリングだけの場合もあります。骨と骨が不安定なので些細な運動や衝撃で急激に症状が進んでしまう場合もあります。重症化すると起立不能となり、呼吸筋に麻痺が出ると呼吸困難になって生命に関わる様になります。

診断には頸椎のレントゲン検査、場合によってはCT、MRI検査が必要ですが、頸椎が不安定な可能性がある犬に対しては細心の注意が必要です。レントゲン写真上は本症のように見えても、MRIやCT検査で頭蓋骨と環椎の間の関節に起こる別の異常であると判明する事もあります。

症状が軽度であったり若い犬の場合には、安静と頚のコルセットを数週間装着する事で症状に改善が見られる事がありますが、外科手術によってこの2つの頸椎を固定する方法が最も有効な治療方法です。骨に特殊なピンを数本挿入して骨セメントで固める方法が成績が良いですが、犬の大きさや年齢によっては骨が柔らかすぎて手術が困難な事もあります。術後は骨同士が癒合するまでの間(6-8週間)安静が必要です。


犬の環椎軸椎亜脱臼


No.476 逆流性食道炎

逆流性食道炎とは、様々な原因により、胃酸が逆流して食道に炎症や潰瘍が生じる疾患です。好発犬種として、パグ、ブルドッグ、フレンチブルドッグなどの短頭種が挙げられますが、どんな犬種にも起こりえます。逆流性食道炎を生じるリスク因子として、短頭種、喉頭麻痺、麻酔後、食道裂孔ヘルニアが挙げられます。

短頭種(パグ、フレンチブルドッグ、ブルドックなどの鼻の短い犬種)
呼吸器疾患を持つ短頭種には消化器症状を呈する犬が著しく多いことが示されています。短頭種が生じやすい消化管疾患として、食道炎、逆流性食道炎、胃炎、胃粘膜過形成、食道裂孔ヘルニアが挙げられます。

喉頭麻痺
喉頭麻痺を発症した多くの犬は逆流性食道炎を発症します。重度な場合は全身性の神経障害を発症することもあります。

全身麻酔後
全身麻酔を実施した後の犬の16%に逆流性食道炎が生じるといわれています。特に高齢の犬で発症することが多いです。

主な臨床症状としては以下の様なものがあります。
・吐出
・嘔吐
・間欠的な食欲不振
・唾液量の亢進
・口臭(食道の著しい炎症と壊死組織による)
・発咳

確定診断は食道の内視鏡検査により行われますが、内視鏡を実施するためには全身麻酔が必要なので、多くの場合は臨床症状に基づいて治療を開始します。内視鏡検査では縞状の潰瘍病変を認めます。また喉頭に潰瘍を起こしている場合は、咳などの呼吸器症状を呈することがあります。

治療は、基礎疾患がある場合はその治療を行います。内科治療により良好に反応してくれることが多いです。内科治療の選択肢として以下の薬剤が挙げられます。

潰瘍部保護剤
炎症や潰瘍部を覆うように保護し治癒を促進します。スクラルファートという懸濁液(シロップ)が使用される事が多いです。

消化管運動促進薬
食道の下の部分に位置する下部食道括約筋の働きを亢進し胃酸の逆流を防ぐ薬です。エリスロマイシン、メトクロプラミド、モサプリドなどがあります。

胃酸分泌抑制剤
胃酸分泌を最小限に抑えることを目的として使用することがあります。ファモチジン、オメプラゾール、ランソプラゾールなどの薬剤を重症度や状況に応じて使います。


短頭種の全身麻酔時は逆流性食道炎に注意です

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No.117 全身麻酔 (General anesthesia)
No.26 嘔吐と吐出


No.475 開放骨折(複雑骨折)

解放骨折とは、骨折した骨が体の外に開放されている状態の骨折のことです。主に交通事故や転落事故によって四肢の骨や指の骨に起こります。皮膚を突き破って出てきてしまった骨が細菌感染などより汚染され、骨の治癒能力が低下し治療が複雑となることから複雑骨折とも呼ばれます。骨折治療のみならず、感染に対する治療も必要ですから、単純な骨折と異なり手術法の選択肢も少ないうえに難易度が高く、長期の治療(場合によっては年単位)が必要な場合が多いです。とくにGolden hourと呼ばれる受傷後6~8時間までの処置を外傷性ショックの治療と共にきちんと行う事がとても重要です。また、放っておくと敗血症や播種性血管内凝固症候群(DIC)などで命を落とします。

解放骨折は、外固定(ギブスや副木など)のみで治癒することは困難です。基本的にはプレーティング、ピンディング、創外固定などの内固定と外固定を組み合わせます。そして、何よりも感染のコントロールが重要です。

Golden hourに適切な処置が出来なかったり、手術を行っても感染のコントロールが上手くいかなかったりした場合は、残念ながら断脚が必要になります。断脚は悩ましい処置ですが、命を優先という事を考えると決断が必要な場合もあります。とくに、治癒能力が落ちている高齢動物やエキゾチックペットの骨折の場合では選択される事が多いです。動物は基本的に3本脚になっても上手に歩いてくれます。長い苦しみよりはQOLは断然に上です。


猫の解放骨折

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No.180 ロッキングプレート (Locking plate)


No.474 趾間膿胞(しかんのうほう)

趾間膿胞は趾間の感染症から生じます。皮膚深部の細菌感染により腫瘤が形成されます。軽度の感染から炎症が進行し、症状が進行すると疼痛が出て排膿します。

動物が患部を舐めたり咬んだりすることで悪化するので、患部を清潔に保つことは大変困難です。趾間に短い剛毛質の毛を持つ犬種、ダックスフンド、イングリッシュ・ブルドッグ、ラブラドール・レトリバー、シーズーなどによく起こりますが、どの犬種にも発生します。猫では稀です。

原因は、歩行時に毛包内に毛が逆に入り込むことが元になって、毛包の深部で炎症を起こしたり、散歩中に尖った植物の種などの異物が入り込んでしまい炎症を起こすといわれています。また、アトピーや犬の毛包虫症、真菌症、甲状腺機能低下症、副腎皮質機能亢進症、自己免疫疾患などが原因となっていることもあります。

内科的な治療は、舐めることを止めさせ細菌の二次感染を防止します。皮膚が治癒するまでの間はエリザベスカラーや包帯で舐める行為を防ぎます。抗生剤やステロイド剤による長期間の薬物療法も必要です。抗生物質が膿胞内に侵入するのは困難であるため8週間以上の抗生物質による治療が必要になることがあります。そのため外科的な切除が最も有効な治療です。小さいうちなら局所麻酔での切除も可能です。アトピーや毛包虫症、ホルモン疾患などの原因が関与する場合には、その治療も行います。趾間膿胞は同部位や他の部位で再発することもあります。

予防は、肉球の間や指の間を清潔に保つようにします。足の裏の毛をカットする。散歩の後に足先を拭く、足浴もオススメです。犬や猫は唯一肉球にだけ汗をかきますので、日常的にこまめに手入れをして細菌が繁殖しないようにすることが重要です。肥満傾向の場合は減量も効果的です。


趾間膿胞

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No.382 皮膚のしこり(結節)2
No.381 皮膚のしこり(結節)1
No.79 犬の副腎皮質機能亢進症(Cushing’s syndrome)
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No.473 ジャーキーの過剰摂取

ジャーキーの過剰摂取により犬や猫に腎疾患(ファンコーニ様症候群)が起こることが知られています。最初はアメリカからの報告でしたが日本でも確認されています。なぜかあまり報道されていませんが中国の工場で作られたものに多いとされています。大手メーカーでも中国の工場で生産されている製品に注意して下さい。袋の裏面まで見ないとわからない場合が多いです。

ファンコーニ症候群とは腎臓の近位尿細管障害により糖やアミノ酸、が尿中に排泄されてしまう状態を言います。遺伝性疾患(バセンジー)の他には何らかの腎障害を引き起こす物質の摂取や感染症が原因となります。初期には多飲多尿がみられますが、高血糖をともなわない尿糖が起こるため他に血液検査に異常がないことが多く、進行していくと体重減少や毛艶の悪さ、元気消失、食欲不振、嘔吐などの腎不全の症状が見られます。また、尿糖により膀胱炎などの尿路の感染症も起こりやすくなります。重症化しなければ、通常摂取を止めると2~3ヶ月で治癒しますが、重症になると死亡例も多くあります。

ジャーキーの過剰摂取に関しての腎障害の原因物質は明らかにされていませんが、おやつの与え過ぎには注意しましょう。また、とくに安い製品には注意して下さい。


大手メーカーの製品も生産地に注意です

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No.472 ヒトの薬で犬や猫にとって危険なもの
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No.300 慢性腎不全(CKD)のステージ分類
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No.472 ヒトの薬で犬や猫にとって危険なもの

ヒトの薬やビタミン剤の中には、犬や猫にとって危険なものも多いです。ASPCA (米国動物虐待防止協会 中毒事故管理センター)が発表した危険ランクの高いものをご紹介します。

1.非ステロイド系抗炎症薬 (NSAIDs)
イブプロフェン、ナプロキセンなどで、症状は胃腸の潰瘍、猫は腎臓にもダメージを受けます。 少量でもとても危険です。約4.5キロの犬の場合4錠で深刻な腎臓障害がでるという報告があり、鎮痛、解熱剤などで、多くの市販薬に使用されています。有名な薬はエスタックイブ、コルゲンコーワなどです。

2.アセトアミノフェン (Acetaminophen)
犬は肝障害、服用量によっては赤血球がダメージを受けます。猫では赤血球にダメージを受け、酸素供給能力に支障をきたします。特に猫に影響が出やすく、効き目の強いタイプの錠剤1錠で致命傷となります。解熱鎮痛薬の1つで、発熱、寒け、頭痛などの症状を抑える解熱剤、鎮痛剤として用いられる薬物の主要な成分です。バファリン、ルル などにも入っているメジャーな鎮痛剤の成分です。

3.合成エフェドリン、偽エフェドリン、プソイドエフェドリン、シュードエフェドリン (Pseudoephedrine)
心拍の増加、血圧・体温の上昇を起こします。鼻詰まり緩和のための薬に入っています。花粉症対策のための薬などにも使用されている場合があります。

4.抗うつ剤、抗うつ薬 (Antidepressants)
嘔吐、無気力、高体温、血圧と心拍の増加、失見当、鳴く、震え、発作などを起こします。少量でも危険です。当院では1番多い中毒です。

5.ビタミンD誘導体 (Vitamin D derivatives)
嘔吐、食欲不振、腎不全のによる頻尿などが起こります。皮膚疾患の治療の1つである皮膚外用療法に用いられる医薬品です。

6.抗糖尿病薬 (Anti-diabetics)
血糖値の低下による発作が起こります。

7.メチルフェニデート 興奮剤 (覚醒剤Methylphenidate for ADHD)
ナルコレプシーや18歳未満の注意欠陥多動性障害(ADHD)の患者さんに対して使われるアンフェタミンに類似した中枢神経刺激薬です。心拍の増加、血圧・体温の上昇、発作、呼吸停止が起こります。

8.フルオロウラシル (Fluorouracil)
犬で、厳しい嘔吐、発作、心臓停止を起こします。フッ化ピリミジン系の代謝拮抗剤で、抗悪性腫瘍薬です。犬にとってはわずかでも危険です。

9.イソニアジド (Isoniazid)
犬で厳しい発作による死亡の恐れがあります。結核の予防や治療の第一選択薬である有機化合物で、とくに犬は代謝できないため危険です。

10.バクロフェン (Baclofen)
症状は、鳴く、発作、昏睡(死亡の恐れ)です。中枢神経系を弱める筋弛緩薬で、神経・細胞膜などに作用して筋肉の動きを弱めます。

7以下は、通常の生活ではまず無い事故でしょうが、市販薬の風邪薬、花粉症の薬、抗精神薬には十分に注意して下さい。万が一犬や猫が摂取してしまったら、様子を見ずにすぐに受診して下さい。


市販薬にも注意して下さい

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No.471 ウサギの子宮疾患

ウサギの子宮疾患は、子宮内膜炎、子宮水腫、子宮蓄膿症、子宮腺癌、子宮平滑筋肉腫、腺扁平上皮癌などがあります。不妊手術をしていない4~5歳以上で多く発症が見られます。ある程度進行しないと症状を見せないため、なかなか気が付きにくい疾患の一つです。

一番多い症状は血尿です。血尿は尿全体が赤くなったり、尿の中に血の塊がみられたり、鮮血が陰部から出てきたりと程度や状態は様々です。持続的に血尿がみられることは稀で、時々血尿になったり普通の尿になったりを繰り返すことが一般的です。また、初期には一過性のことも多く様子を見てしまいがちです。乳腺の腫れや腹部膨満などの症状が見られることもあります。重症になると元気や食欲がなくなってきます。

診断は超音波検査で行います。あまり大きくなってない子宮の場合は判断が難しい事もあります。また、レントゲン検査や血液検査も行い、他の病気との区別や重症度の判定を行います。

治療は、抗生剤や止血剤などで症状の改善がみられることもありますが、内科療法で完治させることは困難です。放置すると腹腔内出血や腹水貯留、播種性血管内凝固症候群(DIC)などを起こし、手遅れになってしまうこともありますので、なるべく早期に卵巣子宮摘出手術を行います。病気が進行し貧血や多臓器に癒着を起こしてしまうと手術のリスクが高くなります。確定診断には摘出した卵巣・子宮の病理診断が必要です。

予後は原因よって異なりますが、早期発見して手術・治療をして、悪性のものではなかった場合はほとんどの予後は良好です。また、若いうちに不妊手術しておくことで病気の予防に繋がります。肥満している場合には麻酔や手術のリスクが高くなるので、年齢とともに子宮の周囲にたくさんの脂肪を蓄える傾向があることや、年齢とともに他の病気にかかる確率も高くなることを考えると、不妊手術は、性成熟後の6ヵ月~1歳齢くらいがオススメです。

クリックすると手術時の写真が出ます。苦手な方は見ないで下さい。
ウサギの子宮の腫瘍

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No.286 不妊手術(Spay)
No.241 エキゾチックペットへの全身麻酔
No.144 播種性血管内凝固症候群 (DIC)


No.470 心臓腫瘍と心タンポナーデ

心臓腫瘍は、犬では血管肉腫や大動脈小体腫瘍が多く、猫では発生自体が稀ですがリンパ腫が多いとされています。いずれの腫瘍でも腫瘍による圧迫や腫瘍細胞の浸潤で正常な組織が減ることで心臓の働きが悪くなりますが、心タンポナーデという状態になり、急に元気や食欲がなくなってしまうことも少なくありません。心臓は心外膜という膜に包まれており、心タンポナーデではこの心外膜と心臓の間に急速に液体(多くの場合は腫瘍から出血した血液)が溜まり、心臓が十分に拡がることができなくなり、結果として血液を十分に送り出すことができなくなります。心タンポナーデは心臓腫瘍だけではなく、僧帽弁閉鎖不全症時の心臓破裂や明らかな原因の認められない特発性心膜液貯留など他の原因によっても起こります。

血管肉腫は、ジャーマンシェパード、ラブラドールレトリバーやゴールデンレトリバーなどの大型犬に多く発生し、心臓での好発部位は右心耳または右心房で、心膜腔側に突出して拡大するのが一般的ですが、右心房内腔へ突出したり、心基部など他の領域を巻き込みながら拡大することもあります。

大動脈小体腫瘍は、ブルドックやフレンチブルドックなどの短頭種での発生が多く、慢性的な低酸素との関連が指摘されています。比較的ゆっくり大きくなるので症状を示さないこともあり、多くは偶発的に発見される腫瘍です。大動脈小体は、大動脈起始部に存在する抹消性化学受容器の一種であり、動脈血液中の酸素分圧をモニタリングしています。その解剖学的特徴から健康診断などでは発見されにくい特性があります。

心臓腫瘍の症状は、心臓腫瘍による心臓への圧迫や腫瘍組織の浸潤で心臓の働きが悪くなると、疲れやすくなったり、むくんだり、お腹や胸に水が溜まったりします。心タンポナーデになると、急に動けなくなり、歯肉や舌などの色が薄く悪くなり、呼吸促迫、不活発、起立困難などがみられます。急速な低血圧で嘔吐する場合もあります。また、循環不全に陥り、失神、虚脱、呼吸困難となり突然死するケースもあります。

心臓腫瘍は完全切除が難しい場合が多く、腫瘍自体にもよりますが、多くの場合化学療法や代替医療の使用で緩和を目指します。また、働きに悪くなった心臓をアシストするための内服薬を使用する場合もあります。

心タンポナーデの状態では心膜を針で刺して心臓の圧迫の原因となっている液体を抜去します。そうすると一時的には心臓は圧迫が解除され働きは改善しますが、心臓腫瘍が原因の場合には繰り返し心タンポナーデを発症する事が多く、その際には手術で心臓を包んでいる心膜を切除することを検討します。心膜切除を実施する際には、腫瘍の一部を生検し、腫瘍の種類を特定することで予後の見通しの確認や治療法の検討に役立てることができます。一部の腫瘍では経過の長いものもありますが、一般的には心臓腫瘍の予後は良くありません。


心臓腫瘍の超音波

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No.179 血管肉腫 (Hemangiosarcoma)