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No.364 フクロモモンガの自咬症

フクロモモンガはストレスによる自咬症がよく起こるため、ストレスを溜めない飼育環境作りが大切です。ストレスがたまると、尾や手足など体の一部を咬み壊したり、毛を抜く異常行動がみられます。酷い時は骨まで齧ってしまいます。

野生では6~7頭以下の群れで生活をしています。この群れの中で社交性を持ち、主に声を出してコミュニケーションをとっています。この性質を考えた飼育が必要です。単独飼育であれば、十分にヒトとの接触をもった良い関係を保つため、部屋の中で遊んであげたり運動させることが必要です。

飛膜を使い滑空する動物で野生では50mくらいは滑空します。しかし、飼育下ではどんなにケージが大きくても十分な運動は確保できません。せいぜい5~6m程度滑空すればよいほうです。運動ならびに滑空しないことで肥満になることはもちろん、筋肉や骨の発達に大きな影響を与えます。運動や滑空することでストレスの予防になります。

部屋に放す場合は事故や誤食に十分注意してください。部屋に放しても最初はうろうろしたり、ぴょんぴょんと飛び跳ねるなど駆け回るくらいかもしれませんが、好奇心旺盛なので部屋に変化を作ったり、登れる場所を設けると喜びます。ハンガーに服をかけ壁に設置するだけでも登れる場所になります。ヒトに馴れてくると、ヒトがおやつを見せると自然に近づいてきます。おやつを手に持って届きそうで届かないような距離で見せます。最初は手に乗らずに伸びをして取ろうとしますが、届かない場合は手に飛び乗ってきます。この距離を毎日少しづつ長くしてみてください。また、猫じゃらしを必死で追いかけるようなフクロモモンガもいます。これも運動不足解消になります。

自咬症が起こってしまった場合は、早目にカラーをして物理的に齧れない様にします。傷のケアをしながらストレスの解消を考えます。傷が完全に治るまでカラーは外せません。再発防止には、飼育環境の整備の他、代替医療や、場合によっては薬剤の力が必要です。治療はケースバイケースですが、大変なことが多いので予防がとても大切です。基本的には、出来れば複数飼い、適切な飼育環境、ヒトとの関係をよくすること、運動をしっかり行うことが自咬症の予防です。

自咬症で尾が変形してしまったフクロモモンガ

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No363 フクロモモンガの飼育
No13 エンリッチメント


No.363 フクロモモンガの飼育

フクロモモンガは野性では群れで生活しているため、社交性を考えた飼育環境が必要です。複数で飼うことが理想ですが、単独飼育の場合は飼主さんとの良い関係性が大事です。

活発な動物なので、活動する空間として大きくて高さのあるケージが理想です。夜行性なので主に夜に活動します。昼間は部屋を暗くしたりケージにカバーをかけます。ケージの中には飛び回れるように枝や蔦を入れて、高い位置に休息スペースとしての棚を設置して下さい。また、枝や棚(踊り場)の他に、エサ容器や給水器などをレイアウトします。休む場所である小屋あるいは寝袋なども必要です。また、ケージの外に放すことで運動量を増やして下さい。部屋に放す場合は、事故や誤食に注意して下さい。ケージを広くする以外に、飛翔させることと、匂いで人に馴らすことがポイントになります。

糞や尿を決まった所にする習性がないためトイレを覚えにくいので、こまめなケージの掃除をしなければなりません。気温が21℃以下になると動きが鈍くなり休眠します。休眠中は体温を約15℃くらいに下げて活動も食事の量も減ります。また、夏場はケージを直射日光が当たる所や締め切った部屋に置くと熱中症になる可能性があります。部屋の温度を管理し涼しい場所に置いてあげて下さい。冬の寒い時期は保温器具で寒さを防ぐ工夫をして下さい。24℃~27℃が理想です。自ら積極的に毛づくろいをするため入浴やシャンプーなどの必要はありません。

フクロモモンガは雑食性で、野性では、樹液、果汁、花粉や花蜜、昆虫などを食べています。昔は果物や昆虫を主食として飼われていましたが、代謝性骨疾患が多発し、短命に終わっていました。そこで食事の果物や昆虫に、カルシウムやビタミン剤を添加する方法がとられたきましたが、現在ではペレットを主食にすることがオススメです。基本的にフクロモモンガ用ペレットを中心に、果物や野菜、動物性蛋白質(昆虫、ミルワーム、低塩煮干しやチーズ、ゼリーなど)を与えて下さい。活動し始める夜の早いうちに給餌します。選り好みも強く偏食する傾向がありますが、嗜好性の高い甘い果物を主食にはしないように注意して下さい。肥満と歯のトラブルの原因となります。


甘いものの食べ過ぎには注意

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No323代謝性骨疾患


No.362 気管腫瘍 (Tracheal tumor)

気管腫瘍には、腫瘍が気管や気管支壁内に隆起する場合と、気管壁の外の腫瘍が気道内に浸潤する場合があります。気管の外の腫瘤が気道を圧迫するものは気管の腫瘍には含まれません。限局的なものと広範に拡がるものがあります。ヒトの原発性気管腫瘍の発症率は10万人に0.1人で90%は悪性といわれています。犬や猫の気管腫瘍は稀で報告は少ないです。発症率、腫瘍のタイプ、臨床徴候、診断方法、治療、予後などはよく分かっていません。

気管壁内や隣接する組織が腫瘍の発生源となるので様々な腫瘍が認められます。頸部気管に軟骨腫や軟骨肉腫が報告されていてアラスカンマラミュートやシベリアンハスキーで好発傾向があります。若齢犬における気管骨軟骨腫は気管軟骨輪の異形成を示します。その他、良性の気管腫瘍にはオンコサイトーマ(好酸性腺腫)や平滑筋腫が報告されています。ヒトでは気管支炎症性ポリープがよく報告されています。犬でも報告があります。犬の悪性気管腫瘍にはリンパ腫や扁平上皮癌がよく認められ、骨肉腫、肥満細胞腫、漿液粘液性腫瘍の報告もあります。猫では腺癌や扁平上皮癌がときどき認められます。多くの腫瘍は中高齢で発生します

腫瘍の大きさと位置により身体検査所見は異なり、運動不耐性、呼吸困難、ストライダー(喉頭口から胸腔外気道の閉塞で吸気時に聞こえる「グーグー」や「ゼーゼー」などの低調な音)、咳、ギャギング(えずき)、血痰などが、数ヶ月かけて次第に進行します。頸部触診にて触診可能な非対称性腫瘤を触知できることがあります。気管腫瘍は非特異徴候が先行し、発症後期に急に致命的な気道閉塞となります。気管断面が85%以上閉塞すると呼吸困難が生じ始めるので、早期発見と適切な診断処置が大事です。

診断はレントゲン検査で疑った像が見られたら、超音波検査、可能ならCT検査、FNA検査などを行います。しかしすでに重度気道閉塞が認められる場合、診断と切除を含めた処置、もしくは救命的に気管内ステント留置も避けられない状況もあります。

早期発見や良性腫瘍やリンパ腫では、予後は要注意ですが適切な処置で救命可能です。しかし、どのような腫瘍であれ、呼吸困難が重度で発見が遅れた場合は予後不良です。アメリカのペンシルバニア大学の動物病院では、1999~2000年の10年間で気管腫瘍は10例でした。犬4例、猫6例で、うち3例は治療は成功、3例は未治療で安楽死、リンパ腫の1例は外科切除と化学療法で1年以上生存し、その他3例は経過不明でした。

成書では発症は稀といわれてますが、現在、画像診断や気管支鏡の技術が向上し、一方で化学療法や放射線療法などのアジュバント療法(手術の補助療法)の選択肢も現れ、犬でも猫でも気管腫瘍を確定診断し治療する機会は次第に増加しています。


◯の中が気管腫瘍です


No.361 ダニによる感染症

春から秋にかけては、キャンプ、ハイキング、屋外のドックランなど、山や草むらで、ペットと活動する機会が多くなる季節です。ヒトも犬や猫もダニに刺されることで感染症を起こすことがあります。 病気を正しく知って、感染症から身を守るために、適切な予防と行動をすることが大切です。

ダニによる感染症は、ウイルスやリケッチア(動物やヒトの細胞内で増殖する細菌)を保有するダニに刺されることにより起こる感染症です。2011年に初めて特定されたウイルス(SFTSウイルス)を保有するマダニに刺されることによって引き起こされる「重症熱性血小板減少症候群 (SFTS)」や、リケッチアや細菌などの病原体を保有するマダニに刺されることで感染する「日本紅斑熱」「ライム病」「回帰熱」また、つつが虫に刺されることによって感染する「つつが虫病」などが主な病気です。いずれも、すべてのマダニ、つつが虫が病原体を持っているわけではありませんが、刺されないための注意が必要です。

重症熱性血小板減少症候群 (SFTS)
ダニに刺されてから6日~14日程度で発症する、原因不明の発熱、消化器症状(食欲低下、嘔気、嘔吐、下痢、腹痛)が症状の中心ですが、時に頭痛、筋肉痛、神経症状(意識障害、けいれん、昏睡)、リンパ節腫脹、呼吸器症状(咳など)、出血症状(紫斑、下血)など様々な症状を引き起こします。重症化し死亡することもあります。また近年、犬や猫もSFTSウイルスに感染するとヒトと同様に発熱、嘔吐、下痢などの症状が認められることが分かり、SFTSウイルスに感染した犬や猫の唾液等から感染したと思われるヒトのSFTS事例が報告されています。

つつが虫病
マダニではなくマダニよりも少し小さいツツガムシというダニから感染するリケッチアが原因です。つつが虫病は刺されてから10~14日後に、高熱、発疹、刺された部分が赤く腫れ、中心部がかさぶたになることが特徴的な症状です。犬や猫に吸着した場合、痒みや皮膚炎を起こしたりしますが、それほど重症化はしないと考えられています。

日本紅斑熱
日本紅斑熱は、1984年に徳島県で初めて確認された疾患で、関東以西の地域、特に中国、四国地方に多く 見られます。リケッチアの一種である日本紅斑熱リケッチア(Rickettsia japonica)によって引き起こされます。マダニに刺されてから、2~8日後に、紅斑(毛細血管拡張などが原因で皮膚表面に発赤を伴った状態)が高熱とともに四肢や体幹部に拡がっていきます。紅斑は痒くなったり、痛くなったりすることはありません。治療が遅れれば重症化や死亡する場合もあります。犬や猫に感染して症状をあらわすかどうかは明らかではありません。

ライム病
ライム病はボレリア菌(Borrelia spp.)という細菌によって引き起こされる人獣共通感染症(ズーノーシス)の1つであり、マダニ類が吸血する際に媒介されます。日本では、北海道や長野県で発生が多く報告されています。ダニに刺されてから、1~3週間後に刺された部分を中心に特徴的な遊走性の紅斑がみられます。また、筋肉痛、関節痛、頭痛、発熱、悪寒、倦怠感などのインフルエンザ様症状を伴うこともあります。症状が進むと病原体が全身性に拡がり、皮膚症状、神経症状、心疾患、眼症状、関節炎、筋肉炎など多彩な症状が見られます。犬や猫に症状が見られることはまれですが、急性症状として、元気消失、食欲不振、跛行や起立不能、発熱が見られることがあります。なお、マダニが吸血を開始して17時間以降でボレリア菌が伝播されるといわれています。

マダニ媒介性の回帰熱
回帰熱には、ダニが媒介するものとシラミが媒介するものがあり、ダニ媒介回帰熱はアフリカ大陸、イベリア半島(とくに地中海地域)、中央アジア、中東の一部、インド、中国、アメリカ大陸など非常に広い範囲で分布し、シラミ媒介回帰熱はエチオピア、スーダン、ソマリアなどアフリカ大陸の高地、インド、アンデス山地などで見られます。ダニに刺されてから、12~16 日程度で 発熱、頭痛、悪寒、筋肉痛、関節痛、全身の倦怠感などの風邪のような症状が出現し、時に神経症状(意識障害、けいれん、昏睡)、リンパ節腫脹、呼吸不全、出血症状(歯肉出血、紫斑、下血)が現れます。犬や猫、豚なども感染しますが、現在日本での発生はありません。

いずれの疾患も、症状には個人差があり、ダニに刺されたことに気がついていなかったり、刺し口が見つからなかったりする場合も多くあります。見た目だけでの診断は困難です。治療が遅れれば重症化や死亡する場合もありますので、早めに医療機関に相談しましょう。犬や猫にダニが付着しているのを見つけたら、むやみに取らず、動物病院にご相談下さい。

予防は、現在様々な薬が出ていますが、フロントライン(犬猫)、ネクスガード(犬)、シンパリカトリオ(犬)、ブラベクト(犬猫)などがおすすめです(レボリューションは耳ヒゼンダニには効果がありますが、マダニには効果がありません)。詳しくはお問い合わせ下さい。


No.360 フェレットの副腎疾患

中~高齢のフェレットによく見られる病気の1つに副腎疾患があります。腎臓の近くにある、副腎という左右1対の小さな臓器が肥大化または腫瘍化します。異常を起こした副腎からエストロゲンなどの性ホルモンが過剰に分泌されることにより、脱毛(毛が生え辛くなる)や痒み、メスでは陰部の腫大、オスでは前立腺の肥大により尿が出にくくなります。また、体臭がきつくなる、尿漏れ、攻撃的になる、乳頭が目立ってくるなどの症状が出る場合もあります。

上記の様な症状がみられたら、診断のため、超音波検査で左右の副腎の大きさや厚み、血管との位置関係などを評価します。副腎疾患のフェレットは、特定の性ステロイドホルモン(エストラジオール、17αヒドロキシプロゲステロン、アンドロステネジオン、DHEA-S)の血中濃度の上昇がみられます。採血をしてこれらのホルモン値を測り、正常値と比べることでも診断できますが、費用が高いこと、正確性に欠けるなどの問題点があります。

フェレットの副腎疾患はゆっくり進行する病気です。外科的な治療では、開腹手術で実際に肉眼で副腎に異常があることを確認し、異常があればそのまま摘出します。内科的な治療では、リュープリンというホルモン注射を打って症状が改善するかどうかを観察します。


フェレットの副腎疾患では尻尾の脱毛も多くみられます


No.359 歯肉炎と歯周病と歯槽膿漏

歯肉に限局した炎症を歯肉炎と呼び、歯根膜や歯槽骨まで炎症が拡大した状態を歯周炎と呼びます。一般的に歯肉炎と歯周炎のことを歯周病と呼びます。また、歯周病の進んでしまった状態を歯槽膿漏と呼んでいますが、歯周炎のことを歯槽膿漏と呼ぶこともあります。

歯肉炎の早期のものでは、歯の根本の歯肉が歯に沿って線状に赤くなっているだけですが(下記の写真)、状態が進むと歯を支える組織がもろくなって、歯と歯の周囲の歯肉の間のポケットに隙間ができて歯はグラグラになります。この状態が歯周炎です。口の中には細菌が住み着いていて悪い細菌の繁殖を抑えていますが、炎症が起きて粘膜が損傷されると、口腔中の細菌も粘膜から侵入してさらに激しい炎症を起こすようになります。

歯周病の原因の1つとして歯石があります。歯石は細菌の塊です。歯石をとったり歯を抜くことによって治療できる場合もあります。しかし、多くは口の中の免疫、抵抗力の減退が主な原因になっています。ネコ免疫不全ウイルス(FIV)やネコ白血病ウイルス(FeLV)などのウイルス感染で免疫力が低下している場合が多くみられますが、ウイルスは陰性でも、原因不明のまま免疫力が低下している場合もあります。

治療法は口腔内を清潔に保つこと、細菌と炎症のコントロールです。慢性化したものではかなり治療が難しい場合があります。早期に発見し早目の対処が大事です。

歯肉炎

こちらもご参照下さい
No356猫の口内炎
No218口腔鼻腔瘻
No98歯周病2
No97歯周病1
No18歯石


No.358 トレポネーマ (ウサギ梅毒)

ウサギのトレポネーマ症は、ヒト梅毒の原因菌となる梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)の近縁のTreponema paraluiscuniculiによる感染により発症します。外鼻孔(鼻の穴)の周囲、口唇や眼瞼(まぶた)、陰部、肛門周囲の粘膜皮膚移行部から病変を形成し、発赤や丘疹、浮腫、鱗屑(フケ)、痂皮(かさぶた)、皮膚の糜爛、潰瘍、出血などがみられます。体幹部(胴体)には病変がないこと、皮膚病によくみられるような痒みがないことが他の皮膚疾患と異なる特徴です。外鼻孔に症状が出た場合はくしゃみが認められることがあり、スナッフルなどの上部呼吸器感染症と類似した症状がみられます。このくしゃみはトレポネーマ症を治療することによって改善していきます。交尾感染(性感染)が多いと考えられていますが、親から子供への垂直感染(母子感染)でも発症します。

ウサギのトレポネーマ症はヒトでの性感染症の梅毒を引き起こす梅毒トレポネーマの仲間であるために「ウサギ梅毒」という別名がありますが、この病気は人獣共通感染症ではないため、同居のウサギ以外の動物や飼主さんに感染することはありません。

病原菌を保菌していても発症せず、キャリアとなる可能性のある不顕性感染となる場合もあります。こうした症状が見られないウサギにおける抗体検査の陽性率が35%程度あるという報告もあり、ウサギの感染症としては決して珍しいものではありません。トレポネーマ感染後に発症するか否かはウサギの免疫状態や原因菌の病原性の強さによると考えられています。

診断にはヒト用の梅毒検査に用いられるRPR(Rapid Plasma Reagain)テストキットを使用することができます。この検査法は、病気が疑われるうさぎの血清にトレポネーマに対する抗体が存在するかどうかを簡便に調べるものです。しかし、疑わしい症状がみられても陽性とならずに確定診断に至らないケースもあります。また、保菌していても、不顕性感染で症状がない場合にはそもそも検査に至ることがありません。以上の理由から、特徴的な臨床症状によりトレポネーマ症であると疑われる場合には、抗体検査を省いて治療による改善をもって診断とするような治療的診断が行われることが多いです。

治療は抗菌薬としてクロラムフェニコールという抗生剤を第1選択薬として使用します。通常1~2週間で症状が改善していきますが、そこで休薬すると再発することが多いため、病変が消えたあとも最低2週間は治療を継続します。ヒトの梅毒と同様に抗生物質のペニシリン系薬物も有効とされていますが、その副作用によりウサギのデリケートな腸内細菌のバランス、腸内細菌叢が乱れてしまう可能性があるため、多くの場合はクロラムフェニコールを用いて治療が行われます。薬に上手く反応せずに難治性の場合もあります。また、治療後に不顕性感染となり、後に再発するケースもあります。


肛門周囲部の病変


No.357 犬の眼瞼炎

眼瞼炎は、結膜炎とは違い瞼(まぶた)の周りの皮膚の炎症をいいます。アレルギー・細菌・真菌・寄生虫・皮膚病・免疫介在性・眼瞼に生じる腫瘍に続発・外傷性・交通事故・咬傷による外傷などが原因にあげられます。細菌感染では眼瞼の肥厚と発赤を引き起こし、粘液と膿を産生します。

症状は、痒みがあり、眼の周辺の毛が抜け赤く腫れます。炎症が進むと湿疹ができ、化膿する事もあります。皮膚の疾患に似ている症状です。前足で瞼に触って頻繁に眼をパチパチとする動作を繰り返します。

上下左右同時など、瞼全体に起こる場合は免疫介在性の眼瞼炎を疑います。本来なら体を守るための機能である免疫が過剰に働きすぎて、自分の組織を攻撃してしまっている状態です。眼瞼の縁に形成された痴皮(かさぶた)が除去できない場合には上下の眼瞼が凝着する場合もあります。

眼瞼炎が他の病気によって引き起こされたのであれば、その病気の治療をおこない、併せて瞼を治療します。目の周辺をなるべく清潔にし、点眼薬などを用います。免疫介在性の眼瞼炎の場合では免疫を抑えるステロイド剤を使用しますが、場合によっては高用量が必要になる事があります。ステロイド剤の投与を止めるとすぐに再発してしまう事が多いので、少しずつ減らして行きます。


免疫介在性眼瞼炎


No.356 猫の口内炎

一般的に、口腔内にみられる炎症病変はなんでも口内炎と呼ばれていますが、正しくは『口内炎は原因が局所的によるものと全身的によるものがあり、頬粘膜、口唇粘膜、口蓋、舌、口腔底、頬粘膜、歯肉に及ぶ口腔粘膜の炎症』と定義されています。猫には口腔炎が多くみられますが、口を開けるのを嫌がる場合が多いため、症状がかなり進行してしまってから発見されることが多いです。

口を開けて、歯肉や他の部位の粘膜が赤くただれていたり、腫れたように盛り上がったり、あるいは出血していれば口内炎の可能性があります。他にも口内炎を疑う症状としては、口が臭い、よだれが出る、食べるときに痛がるなどがあります。

口内炎では、口の中の一部が赤くなっているだけのものから、組織がカリフラワーのように盛り上がったもの、潰瘍になっているものなど様々な形がみられます。多くの場合、直接の原因は細菌感染ですが、本質的な原因としては免疫力の低下が考えられます。また歯が当たるところにできたものは歯を抜くことで治る場合があります。

特殊なものでは、急性の潰瘍が口の中や舌にできるものがありますが、これはカリシウイルス感染によるもので、通常は1週間位で治ります。ワクチンを接種してあれば起こる可能性は少ないです。また、好酸球性肉芽腫症候群では、唇が潰瘍になったり、舌に腫瘤ができることがあります。これらはノミや食事、その他に対するアレルギーが原因と考えられているので、それらに対する治療を行います。老猫では口の中に扁平上皮癌などの悪性腫瘍ができて、これが口内炎にみえることもあるので注意が必要です。

治療法は原因にもよりますが、歯石を取るなど口腔内を清潔に保つこと、細菌と炎症のコントロールです。慢性化したものではかなり治療が難しい場合があります。他の疾患と同様に予防と早期発見が重要です。子猫のころから口を開けること、あるいは歯磨きに慣らしておけば、予防にも早期発見にも役立ちます。


好酸球性肉芽腫


No.355 肺水腫 (pulmonary edema)

肺は、酸素を取り込み二酸化炭素を排出していて、肺胞という小さな小部屋がたくさん集まってできています。肺胞のまわりには毛細血管が張り巡らされていて、肺胞内の空気と毛細血管内の血液との間で酸素と二酸化炭素が交換されます。このメカニズムが破綻して、肺の毛細血管から肺胞内へ血液の液体成分が過剰に漏れ出てしまう状態を肺水腫といいます。

肺水腫が起こる原因は大きく分けて2つあり、1つは、心臓病が原因の「心原性肺水腫」、もう1つは、心臓病以外が原因の「非心原性肺水腫」です。肺は空気を取り込む場所なので、液体が溜まると呼吸がしづらくなり呼吸困難になります。重症例では命に関わります。犬や猫の他、フェレット、ウサギ、ハムスターなど多くの哺乳類が肺水腫になる可能性があります。

主な症状は
・呼吸数が増える
・開口呼吸をする
・歯茎や舌が白っぽいあるいは紫色っぽい
・横にならずに座るか伏せる状態で苦しそうに呼吸をする
などです。

心原性肺水腫は一般的に重篤なことが多く、救急管理が必要になります。一方、非心原性肺水腫は軽症から重症まで様々です。軽症の場合は軽い咳が出るくらいですが、重症の場合、呼吸が速くなったり、咳を頻繁にするなどの症状がみられます。

心原性肺水腫
心臓病(犬では僧帽弁閉鎖不全症、猫では心筋症など)により、心臓から全身に流れていく血液量が低下し、心臓内に血液が残ってしまいます。そのため、肺から心臓へ血液が戻りにくくなり、毛細血管がうっ血を起こし、逃げ場を失った毛細血管内の液体成分が肺胞内へにじみ出てしまうことが原因となります。

非心原性肺水腫
チョークチェーン(首がきつく締まるタイプの首輪)による気道の閉塞、火事などによる煙の吸引、電気コードを齧るなどの事故により、肺の毛細血管が病的な変化を起こし、毛細血管から液体成分が肺胞内へ浸出しやすくなることが原因となります。

心原性の場合は、集中的な治療が必要で基本的に入院管理となります。まずは、安静にして、酸素室などの利用により高濃度の酸素を吸入します。次に利尿剤や血管拡張薬などにより、循環血液量をコントロールして心臓の負担を和らげます。非心原性の場合は、炎症を抑える薬を使用したり、重症の場合は心原性の治療と同じように酸素室での入院になることもあります。

僧帽弁閉鎖不全症の犬、心筋症の猫では、安静時に1分間あたり40回以上の呼吸をしている時は肺水腫になっている可能性があります。元気そうに見えても緊急の治療が必要な場合が多いです。


犬の心原性肺水腫のレントゲン