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No.27 猫の毛玉症と猫草

前回に嘔吐の話を書きましたが、猫草を使って毛玉を吐かせる。ということを聞いたことがある方は多いでしょう。猫草は一般には燕麦やエノコログサなどのイネ科の植物です。ペットショップなどでも普通に購入できます。

たしかに、猫は猫草で毛玉を吐いてスッキリ。という顔をすることもありますが、月に2、3回ぐらいならともかく、頻繁に与えすぎると、様々な問題が起きます。

まずは、吐くことを続けていると食道炎が起こります。胃酸は強い酸性液です。食道は胃酸に耐えられません。食道炎が重症になると、食道が狭くなってしまったり、拡張したりして、非常に治療が難しい状態になってしまいます。

また、年配の猫や、病気で弱っている猫の場合は、吐ききれないで肺に吐物が入ってしまい、誤嚥性肺炎を起こしてしまう場合があります。

もう一つ、最近、よく言われるようになったのは膵炎です。吐くときは胃の中と十二指腸の中の圧力が上がります。十二指腸には膵臓から膵液が膵管を通って出てきます。十二指腸の内圧が上がると、膵液が膵管内を逆流し膵臓にダメージを与えます。猫は膵管の出口と肝臓から胆汁を運んでくる胆管の出口が非常に近いので、膵炎が重症化すると、胆管にもダメージが出て胆汁が流れなくなり閉塞性の黄疸が起こります。

以上のような理由から、猫草はなるべく使わず、ブラッシングをよくして毛を体内に入れないこと、ラキサトーンのようなもので入ってしまった毛を流してあげることが、猫の毛玉症の予防となります。ブラッシングの嫌いな長毛種の猫の場合は、定期的に毛を短くカットすることもお勧めです。また、ラキサトーンはウサギにもお勧めです。ウサギの毛玉症(正しくは食滞)は、パパイヤやパイナップル製品で予防することは困難です。


No.26 嘔吐と吐出

『うちの○○ちゃんは、よく吐くんですが、大丈夫ですか?』

非常に多いご質問です。大丈夫かどうかは、当然、原因によりますが、

『犬でも猫でも、月に2、3回でその後ケロッとしていて続かないなら様子をみても大丈夫でしょう。週に2、3回になってくるようなら原因を調べたほうが良いと思います』

と、お答えしています(ちなみに、ウサギちゃんが吐いている場合は大変です。ウサギは食道の構造上、通常は吐くことが出来ません。重篤な状態です)

動物が吐いている場合、まず、考えるのは嘔吐なのか吐出なのかです。吐出は食べ物が胃まで行かずに吐き出されることで、嘔吐は胃や十二指腸(胃の次の腸、最初の小腸)の内容物が吐き出されることです。

吐出の時は食べてから短時間に食事がそのまま吐き出されます。原因の多くは、食道拡張症、巨大食道症、食道内異物、食道炎、食道腫瘍などの食道疾患です。また、先天性の心臓の病気で右大動脈弓遺残(PRAA)も有名です。いずれにしてもきちんとした検査が必要です。実際の臨床現場では、リンゴや梨、キャベツの芯、ジャーキー、骨などを丸飲みしてしまい食道で突っかかってしまっている場合が多いです。食道では消化液は出ませんので、内視鏡などにより取り出すか、胃の中まで送ってあげる処置をします。上記のようなおやつを与える場合は大きさに注意して下さい。

嘔吐は、胃液だけの場合は透明~白っぽい液体です。胆汁が混ざると黄色っぽくなります。消化の始まった食べ物に胃液や胆汁が付いて吐き出されることもあります。重篤な疾患では血液が混ざり赤~赤黒くなることもあります。

透明~白っぽい液体のときは、お腹の空き過ぎや軽い胃腸炎、何か胃腸とは別の原因で気持ちが悪いこと(肝障害、腎障害、車酔いなど)を最初に考えます。

黄色っぽいものの場合は胆汁が色を付けています。胆汁は肝臓の中の胆嚢から胆管を通して十二指腸に送られる消化液です。また、十二指腸内の胆汁の出口のすぐ隣には、膵臓からの消化液の出口もあるので、胆嚢や胆管、膵臓のトラブルなども考えます。膵炎は犬にも猫にも最近大変多くみられます。もちろん、十二指腸自体が悪い場合もあります。リンパ球形質細胞性腸炎、リンパ管拡張症、IBD、リンパ腫など、たくさんの疾患があります。

食事と一緒に吐く場合、食事をすると吐いてしまうような場合は異物も考慮に入れます。異物を食べてしまっている場合も大変多いです。おもちゃ、果物の種、紐、コイン、靴下、下着、などなど…。中毒にならないもので胃の中で転がっているような異物は緊急性はあまりありませんが(もちろん、早急に取り除くべきですが)。紐のように腸を手繰ってしまうもの、小腸でストップしてしまっているもの、尖っていて胃腸を突き破ってしまうおそれがあるものなどは緊急疾患です。内視鏡や手術で取り出します。一昔前は吐剤を使って吐かせる処置も行っていましたが、誤嚥のおそれがあるため現在では推奨されません。また、内視鏡で取り出せるものは直径3cmぐらいのものまでです。異物摂取にはくれぐれも注意して下さい。

吐物に血液が混ざっていたら、胃潰瘍や、重篤な感染症、悪性腫瘍などの疑いも出てきます。重症の場合が多いです。一刻も早い処置が必要になります。


No.25 アトピー3

シクロスポリンA(CsA)

シクロスポリンは主としてヘルパーT細胞によるサイトカイン(免疫や炎症に関与する物質)の産生を阻害することにより、強力な免疫抑制作用を示します。もともとは臓器移植の患者さんのために作られた薬です。1ヶ月の間、毎日1回飲んで、状況が改善したら減薬していきます。1ヶ月で約70%の症例で効果が出ます。副作用は、最初に下痢や嘔吐などの消化器症状や食欲減退がみられることがありますが、徐々に消失することが多いです。大きな副作用はありません。猫にはとくに効果的な印象があります。問題点はインターフェロンγほどではありませんが、こちらも導入期のコストが高いことです。大型犬になるほど大変です。

ステロイド剤

T細胞への関与やサイトカインの合成抑制などによって炎症を鎮めます。安価ですぐに効果が発現し、ほとんどの症例で症状が改善する便利な薬ですが、問題は長期投与が必要となったときの副作用です。だんだんと効果が減ってくる(薬が増えてしまう)、肝機能障害、副腎疾患、糖尿病、皮膚が薄くなるなどの問題が生じます。何度も繰り返し起こってしまうアトピーの場合は投与を注意しなければなりません。薬が増えてしまうような状況のときは、別の治療を考慮する必要があります。

アトピーの治療は、シャンプーと前述の3つの薬剤(インターフェロンγ、シクロスポリン、ステロイド剤)が基本となりますが、細菌感染があれば抗生剤、真菌(とくにマラセチア)の感染があれば抗真菌剤、炎症性物質を調整する必須脂肪酸製剤やビタミンEやサプリメント、漢方薬を併用する場合もあります。また、どうしても上手く行かない場合はホメオパシー治療も効果的です。ホメオパシーも上記の全ての薬と併用できます。問題点は時間がかかることが多いことです。

アトピーの治療をまとめると

・まずは症状にあったシャンプーによるスキンケアをしっかり行う。

・除去食試験で食物アレルギーを除外する。

・減感作療法をしたい場合は皮内反応試験を行う。

・コストの問題がクリア出来るなら、若い動物の場合はインターフェロンγを、年配の胴部にはシクロスポリンを始めてみる。

・インターフェロンγやシクロスポリンで症状が改善しない、コストの問題がある、急いで痒みを止めたい、季節性があって暑い時期だけの痒みの場合などは、ステロイド剤を副作用に気をつけて使用していく。

・インターフェロンγやシクロスポリンで症状が改善しない、なるべくならステロイド剤を使いたくない、時間がかかってもよいなどの場合には、ホメオパシーなどの他の治療法を検討する。

といったところでしょうか。

他の項でも同様ですが、獣医学は日進月歩です。どんどん、新しい学説、エビデンス、検査法、治療法、薬が出てきます(もちろん、必ずしも新しいものが良いことばかりじゃありませんが)。半年も経てばこの項の内容もかなり違ったものになると思います。痒いというのは非常に辛いことです。もっと効果的で副作用が少なく安価な治療法が発見されて欲しいですね。


No.24 アトピー2

アトピーが疑われた場合に行う最初のステップは除去食試験です。今まで摂取したことのないたんぱく質や、人工的に合成したたんぱく質のフードを2~3週間食べてもらいます(一昔前は、2~3ヶ月の期間の試験が必要といわれていましたが、現在では2~3週間で十分だといわれています)。その間の注意点は、水とそのフード以外はおやつも含め、他のものはいっさい与えないことです。内服薬も使いません。シャンプーはOKです。25%ぐらいがこの試験にひっかかります。2~3週間で改善が見られた場合は、食事に気をつけることと、シャンプーで管理をしていきます。一般的に食物アレルギーの場合は、1歳未満から発症している。最初に顔面(とくに眼と口)と背中、肛門の周りから発症した。便の回数が多い(1日3回以上)。季節性がない。などが特徴です。

除去食試験で、食事が主な原因でない、食物アレルギーでないと判断された場合は薬物を使った治療になります。主なものをご紹介します。

シャンプー

アトピーの治療で、シャンプーは非常に大事です。以下に解説する全ての薬と併用します。ベタベタと湿っている、カサカサと乾いているなどの症状に合わせてシャンプー剤や保湿剤を選択し、可能なら週に2~3回行います。詳しくはシャンプーの回をもう一度ご覧下さい。最終的にシャンプーだけでアトピーの管理が出来れば理想的です。

減感作療法

皮内反応試験を行った場合は、減感作療法を行うことが可能です。薄い抗原から徐々に濃い抗原を注射し抗原に体を慣らしていく治療です。しかし、問題となる抗原が1つでない場合も多く、時間や費用の面から最近では行われる頻度が減っています。きちんと行うことが出来れば非常に良い治療法です。

インターフェロンγ

最近流行りの治療法です。抗原が体内に侵入すると、ランゲルハンス細胞(見張り役の細胞です)が異常を感知し抗原を取り込み、ヘルパーT細胞(免疫応答の根幹の細胞です)に提示します。ヘルパーT細胞にはTh1とTh2があり、通常は主にTh1が司令塔となり免疫グロブリンG(IgG抗体)を産生します。これが正常な免疫反応です。しかし、アトピーの場合はTh2が主な司令塔となってしまい免疫グロブリンE(IgE)を産生してしまいます。これは悪い免疫反応でトラブルを起こします。IgEが肥満細胞や好酸球を活性化させ皮膚に痒みが生じます。つまり、正常な場合はTh1>Th2でアトピーのときはTh1<Th2となってしまっているということになります。

インターフェロンγはTh1<Th2の状態をTh1>Th2の状態に戻すことによりアトピーを治療します。実際には、インタードッグという注射を週に2~3回、4週間程度継続し、その後、だんだんと回数を減らしていきます。3ヶ月以内に約70%の症例で効果が認められ大きな副作用はありません。問題点は導入期のコストが高いことですが、うまく行くと1~2ヶ月に1回の注射でよくなります。とくに5歳以下の若い動物で効果が上がりやすいといわれています。


No.23 アトピー1

アトピーとは簡単に言うと、環境中の抗原(免疫反応を起こさせる物質の総称、食物、花粉、ハウスダスト、ハウスダストマイト、カビ、昆虫など)に対する、不適当な、あるいは過剰な免疫反応のことです。

全ての犬うち約10%がアトピーに羅患しているといわれています。猫にはきちんとした統計はありませんが犬よりは少ないようです。初発年齢は犬で6ヶ月~7歳ということになっていますが多くの場合は1~3歳です。猫でも若いときに発症する場合が多いようです。80%は夏に始まり、多くの場合、だんだんと季節に関係なく痒みが出て来てしまうようになります。

遺伝性疾患と考えられていて、寄生虫(ダニ、ノミ)、ウィルス、細菌(ブドウ球菌)、カビ(マラセチア)などの感染で悪化します。好発犬種は、ウエスト・ハイランドホワイトテリアを筆頭とする各種テリア、M.ダックスフント、ラブラドール・レトリーバー、ゴールデン・レトリーバー、シーズー、柴犬、T・プードル(とくにアプリコット)、ポメラニアン、シャーペイです。なんか、日本で多く飼われているほとんどの犬種ですね。猫では好発種は認められていませんが、気管支喘息を伴う場合がよくみられます。皮膚病変はなく症状は咳だけという場合もよくあります。犬では咳を伴うことはまれです。

症状は、紅班(皮膚が赤くなること)と強い痒みが、顔面、四肢端、肘、腹部、脇、股、外耳、眼の周りなどに出ます。慢性化すると、皮膚は苔癬化(硬くなってくること)し、黒く色素沈着してきます。

診断は、病歴と臨床症状が主となります。臨床検査は、まずは、皮膚を軽く引っ掻いたり毛を抜いて、細胞と毛や毛根の状態、フケなどを顕微鏡で観察し、疥癬、真菌(とくにマラセチア)、接触性皮膚炎、細菌性毛包炎、ビヘイビア(精神的要因)などの痒みが強い疾患との鑑別をします。次に、症状によってですが、甲状腺、副腎、精巣、卵巣などの各種ホルモンの異常がないかを調べます。その後、食事に対するアレルギーを除外(除去食試験)し、必要ならば皮内反応試験(抗原を皮膚(皮内)に少量ずつ注射し、皮膚の反応を診る検査)を行います。

臨床症状からの犬のアトピーの診断基準です。

1.発症年齢が3歳以下

2.室内飼い

3.ステロイド剤に反応する痒み

4.慢性・再発性のマラセチア感染症

5.前肢に皮疹あり

6.耳介に皮疹あり

7.耳介辺縁には皮疹なし

8.背中側には皮疹なし

上記のうち5~6項目が当てはまる場合、アトピーを強く疑います。

治療はシャンプー、食事、外用剤、内服剤の組み合わせとなります。次回から詳しくご説明します。


No.22 高齢犬の変形性脊椎症

年齢が上がってくると、大型犬、小型犬に限らず、後ろの脚の動きがだんだんと衰えてきます。筋力が弱り、脚が細くなり、神経の伝達が悪くなり、手の甲で歩くようになり(ナックリング)、最終的には歩けなくなり、起立が出来なくなり、寝たきりとなります。

立位(立っている)→座位(お座り)→肘状位(伏せの状態で顔を上げている)→伏位(伏せの状態で顔を下げている)→臥位(横に寝ている)。この順番で大変な姿勢です。若くて健康なときはなかなか気付けませんが、立っていられるってことは、実は大変なことなんですね。

寝たきりになってしまったワンちゃんを再び起立させ、歩けるようにするのは非常に困難です。寝たきりになるのを1日でも先に延ばすため、1日でも長く一緒にお散歩に行けるために、出来ることをご紹介します。

高齢犬の後ろ脚が弱ってくる原因の多くは変形性脊椎症です。脊椎(背骨)と脊椎との間のクッションが弱くなり、隣り合う脊椎がCa沈着を起こしてくっついてしまい、神経が圧迫されて、最初は痛みやしびれが起こり、後にだんだんと麻痺していきます(犬ほど顕著な症状は出ませんが、猫にも変形性脊椎症はあります)。

痛みやしびれのレベルで気付いてあげられると治療が早く始められます。もちろん、変形性脊椎症だけでなく、椎間板ヘルニアはじめ、胃腸疾患、泌尿器系の疾患、生殖器系の疾患、各種の腫瘍などでも腰痛を起こすことがあります。まずは診察を受けてください。検査は神経学的検査とレントゲンが中心となります。

変形性脊椎症と診断されたら、マッサージ、ストレッチ、バランス運動などの理学療法やサプリメントの開始です。症状がひどい時は、レーザーや鍼、非ステロイド系の鎮痛薬を使用することもあります。

1番大事なのは体重の管理です。太っているワンちゃんは、食事を10~20%減らし、ご褒美も半分の量に減らしましょう(適正体重はご相談下さい)。学習の項でも申し上げましたが、ご褒美は貰えたことが嬉しいのであって量は関係ありません。また、おやつにしないで必ずご褒美にして下さい。コマンド(命令)を入れて、仕事をして、ご褒美を貰う方がワンちゃんにとって何倍も嬉しいことです(人も仕事をして報酬を得るのと、何もしないで報酬を得るのとでは満足感が全然違いますよね。苦労して手に入れたものの方が満足感が高い。動物行動学的に犬も同じです)。


No.21 マッサージ2

なでしこJapanすごかったですね。PCの仕事しながら観ようと思っていましたが、TVに釘付けでした。本当に嬉しかったです。アメリカも素晴らしいチームでしたね。

主なマッサージの方法をご説明します。

軽擦法(ストローキング):1番最初に行うマッサージです。手を広げて筋肉の上にぴったり接するように置き、体の表面を手で触れるようにして、頚の方から優しくゆっくり被毛に沿って行います。動物がリラックスするまで繰り返します。リラックスしたら、少し力を加えて深部組織もマッサージします。

揉拌法(ニーディング):動物がリラックスしてから行います。皮膚とその下の脂肪を丸めて優しくつまむように引っ張って動かします。尾から頭側へ、足先から腰の方に向かって行います。深部では筋肉を揉むことになります。痛みが出るようなら中止します。

強揉法(フリクション):広い範囲を施術できる方法です。指先を曲げ、筋肉を触り、筋肉に沿って優しく滑走させます。徐々に力を加えていきます。強揉法で狭い範囲を施術する場合は、皮膚を押しのけるようにしながら円を描くように曲げた指を動かします。筋肉の深い部分に達するまで徐々に力を加えてください。

円を描くような圧迫法:小さく局所的に深い組織のマッサージに使います。指先で施術したい部位に軽く力をかけ、小さな円を描くように動かします。硬くなっている筋肉のだんだんと深いところをほぐすようにします。強揉法の途中で行うことが多いです。

振動法(シェイキング):表層の筋肉をリラックスさせるために行います。局所や肢全体を振動させます。筋群を手で軽く握り、優しく前後に振ります。各方法の間に行うと効果的です。

叩打法(パーカッション):手をカップのように丸めて優しく筋肉を叩きます。血流を増加させる効果がありますが、嫌がる動物が多いです。個人的にはお勧めできません。

以上のように、様々な方法がありますが、愛情をもって優しく触ってあげるだけでも効果的です(お手当てという言葉があるくらいです)。お時間があるときに試されてみてください。また、わかりにくい、もっと、詳しく知りたいという方は、当院のマッサージ教室に是非いらしてください。暑さが落ち着いたら(8月末ぐらいから)再開予定です。


No.20 マッサージ1

マッサージは人の理学療法の1つとして必要不可欠です。動物においても効果的で、心地良さを感じてくれるワンちゃん猫ちゃんはたくさんいます。基本的なマッサージのやり方について解説します。

痛みや激しい運動は筋肉の緊張を引き起こし、筋肉は硬くなり、血流が低下します。血流が低下すると、その部位への酸素の供給が減り、老廃物を除去する力も低下します。そのため『痛み→筋肉の張り→痛みの増加』という悪循環に陥ります。マッサージの効果はこの悪循環を断つために行われます。また、痛みを緩和する脳内物質のエンドルフィンの放出を刺激します。マッサージにより血流が増加すると、組織の温度と弾力性が増し筋肉の回復を促します。医学的には癒着を剥離する効果もあります。そして、愛情を持ったマッサージは動物と飼い主さんの絆を深めます。

上記のことから、マッサージの適応としては

・脊髄疾患、関節疾患による筋肉の張りを改善するため

・筋肉や関節の機能を回復させるため

・神経疾患のときの体性感覚の改善のため

・血液やリンパ液のうっ帯の予防のため

・トレーニング前後の筋肉のケアのため

・癒着の予防、剥離のため

が、主なものとなります。

マッサージをしてはいけない場合もあります。炎症や感染、発熱があるとき、腫瘍や心疾患、出血性疾患のある場合は注意が必要です。また、触られたくないっていうペットちゃんもいます。触られるのが嫌いな動物には、本当に軽く短い時間から始め、焦らずに行って下さい。マッサージがストレスになってしまったら意味がありません。

マッサージの準備として、静かな部屋、軟らかく弾力性がある床材が必要です。また、術者がリラックスすることも重要です。

マッサージの方法には、軽擦法(ストローキング)、揉拌法(ニーディング)、強揉法(フリクション)、円を描くような圧迫法、振動法(シェイキング)、叩打法(パーカッション)などがありますが、簡単にいえば、擦る、揉む、叩くです。次回に解説します。


No.19 熱中症、熱射病

人でも例年の3倍の方が救急車で搬送されているそうですね。熱中症、熱射病は、急いで治療が必要な緊急疾患です。犬や猫、兎やフェッレットも、汗をたくさんかけないのと良い毛皮を着ているので、周囲の高い気温に人よりかなり弱いです。動物はもっぱら、あえぎ呼吸(パンティング)で自分の体内の温かい空気と周囲の冷たい空気を交換しようとします。周囲の気温が体温に近いと、呼吸での冷却の効き目はなくなってしまいます。とくに以下のような場合は気をつけなければなりません。

・炎天下、直射日光の下に放置

・炎天下で車内に放置

・コンクリートやアスファルトの上に放置

・高温多湿の中での激しい運動

・口輪をしてのドライヤー

・短頭種、高齢の動物

・心臓や気管、肺にトラブルを抱えている動物

・てんかんの持病がある動物

・以前に熱中症にかかったことがある動物

熱中症の主な症状は、高体温、激しいあえぎ呼吸と呼吸困難、舌や粘膜の色が鮮やかな紅色となります。唾液は濃く粘っこくなり、嘔吐、下痢が始まる場合もあります。ひどくなると、脱水が起こり、腎前性の高窒素血症となり、痙攣を起こしたり、シヨック、虚脱、DIC(播種性血管内凝固)という状態になり死亡します。

応急処置は体を冷やすことですが、最近では、氷水風呂などで、いきなり過度に体温を下げるのは良くないと言われています。涼しい部屋に安静にして、濡れタオルや霧吹きなどで少しずつ体温を下げるのが推奨されています。しかし、軽い症状の場合以外は点滴やショックの防止などの治療も必要となります。熱中症を疑ったら必ず診察を受けて下さい。

もちろん、一番大切なのは予防です。あたり前のことですが

・暑い時間帯は外に出さない、運動を制限する

・毛を短く刈る

・車内に放置しない

・いつでも水が飲めるようにしておく

・動物がエアコンが嫌いという場合でも、涼しい部屋に出入りが自由に出来るようにしておく

・散歩時は保冷剤をタオルにくるんで首に捲く

・部屋にタオルにくるんだ保冷剤を置いておく

そして1番大事なのは

暑い日はエアコンを使うこと です。

当然、節電は大事ですが、他のところで頑張っていただいて、動物のいる場所はエアコンを使いましょう。湿度や風通しにもよりますが、基本的には25~26℃くらい、人間が半袖でちょうど良いくらいが上限です。


No.18 歯石

犬や猫はあまり虫歯になりません。唾液のPHがアルカリ性で(人は弱酸性)で虫歯菌が繁殖しづらいからです。しかし、唾液がアルカリ性だと歯石は付きやすくなります。人は虫歯になりやすく、犬や猫は虫歯になりやすいということになります。

では、歯石が溜まると何が問題になるのでしょうか?歯石は細菌の塊です。とくに嫌気性菌という種類の細菌が主です。この嫌気性菌がいろいろな悪さをします。主なものは、口臭、歯が抜けやすくなる、歯周病、眼窩下膿瘍、胃腸のトラブル、心臓のトラブル。などです。

口臭は言うまでもありません。人が嫌な臭いと感じているとき、人の何千倍も鼻が利く動物たちはどんな風に感じているのでしょうか(きっと、前回の学習のところでやった馴化してしまっているのでしょう)。嫌気性菌に対して抗生剤を使うと、口臭は減りますが一時的なものです。薬を止めると臭いは戻ってしまいます。

歯と歯茎の間を歯周ポケットと言います。歯石がこの間に入ると歯茎が痩せて、歯根がむき出しになり、抜けやすい歯になります。歯石を取るときは、この歯周ポケットの掃除が重要です。麻酔をかけずにポケットの歯石を取ることは非常に困難です。ブラッシングをするときも、ポケットを意識して行うと良いでしょう。

また、歯茎の炎症がひどくなると歯肉炎が起こり、歯周病となります。歯周病の簡単な定義は『歯を支えている組織の炎症疾患』ですが、いろいろな種類があり、いずれも完治が困難なものが多いです。

眼窩下膿瘍というのは、歯根が嫌気性菌の感染によって腐り、眼の下に穴が開いてしまう状態です。特に、一番大きい臼歯の根がやられている場合が多く、麻酔下での抜歯が必要になります。

胃腸のトラブルで多いのは、口の中が痛くて食欲がなくなったり、咀嚼が上手くいかなくなり、食べ物を食道に引っかけたりするものです。

心臓のトラブルについては、嫌気性菌が血液中に入り、心筋の感染が起こり、弁膜症などの原因となることが昔から言われていましたが、この度、日本大学の上地正実先生(4年前の飼い主様向けセミナーの講師をやっていただきました)の研究室がこれを証明して、近々学会報告されます。

予防としては、やはり、毎日のブラッシングです。ブラッシングは、なるべく軟らかい歯ブラシを使って下さい。歯の一番外側をエナメル質と言いますが、人間と比べて動物は非常にエナメル質が薄いです。硬い歯ブラシだとエナメル質を壊します。歯磨き粉は使っても使わなくてもどちらで構いませんが、使う場合は、動物はうがいが出来ませんので、発泡剤(ブクブクする元)が入っていないもの、キシリトール(低血糖が報告されています)の入っていないものを使用して下さい。

しかし、どんなに一生懸命にブラッシングをしても、いつかは歯石が溜まります。歯石の付きやすさは遺伝の関与が最も大きいと言われています。ある程度の歯石がついてしまったら、麻酔下でスケーリングが必要です。前述したように、麻酔をかけずに表面の歯石をとるだけでポケットの掃除をしないのは、口臭の除去以外に意味がありません(歯の裏側もきれいに出来ませんよね)。いろいろなトラブルの元になってしまう歯石、毎日のブラッシングを頑張りましょう。