No.265 看取りと安楽死についてとその後

飼主様セミナーのアンケートに入っていた質問です。重いテーマなので別に書きます。読みたくない方はスルーして下さい。

とても悲しいことですがいつかはお別れがきます。最後はご自宅で看取りたいというのは、多くの方々が同じお考えだと思います。我々獣医師、動物看護士も同じ考えです。しかし現在の日本で、まだヒトでもほとんどの方がご自宅で最期を迎えるのが難しいように、痛みが無いように苦しくないようにするには、ご自宅では困難な面があるのは否めません。

また、下記の3つが揃ってしまったら、安楽死も選択肢になります。
1.治らずコントロールもできない病気
2.痛みが取れない状態
3.食事ができない状況
海外でヒトの安楽死が合法化されている地域では、「患者の心身に耐え難い苦痛がある場合」「患者の苦痛を緩和するために安楽死以外の方法がない場合」が実施の条件として挙げられています。

前回のメルマガでも書きましたが、犬や猫、他の動物も明日の心配はしていません。今が快適かどうかです。ご自分の、生き方、哲学、宗教感などを含めて、看取り方は最後は飼主さんのご判断になります。

亡くなった後は、ヒトと同じように火葬をされる方がほとんどです。公共の場所や業者さんなど多くの施設があります。小さな動物や大きなお庭がある方は、少し深く掘って土に返してあげるのも良いと思います。犬の場合は最寄りの区役所に、亡くなったことをご連絡して下さい。


No.264 第19回 飼主様向けセミナー ご質問のまとめ

今回の内容と違うご質問もありますが、私なりに答えさせていただきます。

犬のUV防護服について
犬も強い紫外線を長時間浴び続けると皮膚や眼にダメージを受けます。外飼いでずっと紫外線を浴びるのは良くないと考えられます。しかし、犬はヒトと寿命が違うので、紫外線に対してヒトほど神経質に注意しなくても良いと思います。イタリアングレーハウンドやヘアレスドッグなどの被毛が少ない犬が着るのは良いと思います。また、おしゃれとして犬が喜んで着てくれるならそれもOKです。

動物の皮膚構造
被毛があることを除けば、それほどヒトとかわりませんが、真皮層は厚く、皮膚と筋肉の間の脂肪組織(皮下織)は、動物種によりますが、基本的に動物の方が発達しています。

猫のトイレ
No151 猫の排泄の問題をご参照下さい。

犬にとっての充実した生活
犬や猫、他の動物も明日の心配はしていません。今が心身ともに快適かどうかが全てです。また、犬は飼主さんのことが大好きです。飼主さんが幸せなら犬も幸せで充実した生活を送れると思います。

高齢犬からの歯磨き
若い犬でも高齢犬でも歯磨きは一緒です。デンタルブラシで歯磨きをしてあげる事が最も推奨されています。最初は嫌がる場合も多いので、おやつなどを利用し、少しずつ時間をかけながら習慣づけてあげて下さい。ガムやジェルなどの効果は限定的です。また、歯垢のうちは歯磨きは有効ですが、歯石になってしまったら、いくら歯磨きをしても効果はありません。スケーリングが必要です。
こちらもご参照下さい
No18 歯石
No97 歯周病1
No98 歯周病2
No108 高齢動物の歯の疾患
No134 プラークコントロール
No218 口腔鼻腔瘻

カロリーを抑えた食事を取り、SPF値の高いサンスクリーン剤で紫外線を避け、セラミドを塗りましょう。


No.263 第19回 飼主様向けセミナー

昨日の芋川玄爾先生のセミナー『皮膚のアンチエイジング』にご参加いただいた皆様、本当にありがとうございました。参加出来なかった方のために要旨をまとめました。

・体全身のエイジングに関与する最も大きな因子は細胞内のミトコンドリアで、食物として取り入れたグルコースと、呼吸により取り入れた酸素から、生物体のエネルギー源であるアデノシン三リン酸(ATP)を産生する際に、取り入れた酸素の2%が必然的に活性酸素種(ROS)となり、このROSがエイジングの元凶と言われている。

・摂取カロリーを65%程度とすると、さまざまな生物種において寿命の延長や抗老化現象が見られる。

・加齢に伴い、顔面にはしわやたるみなどの形態変化が起きることはよく知られており、その主要な悪化要因に紫外線(UVAやUVB)による光老化の影響が報告され、この光老化は非露光部位で起こるような自然老化とは区別されている。

・顔が若く見えると長生きする。皮膚の代謝は21歳から落ち、37歳でしわが出る。若くて健康な皮膚は弾力性とハリがある。日焼け、シミがないと若く見える。老け顔にはうねりがある。うねりを化粧で隠す、つまり化粧は若顔を目指している。

・シミ、しわ・たるみの発生は紫外線暴露により生じたROSがより明瞭な作用を引き起こす。

・アセトン・エーテル溶媒(いわゆる石鹸)の処理時間、また、肌荒れの強さに比例して溶出している主成分はセラミドである。

・角層内に存在する水は、単なる普通の水(自由水)ではなく結合水(構造水)なので、乾燥に抵抗して蒸発しない、また低温に抵抗して凍らない水として、角層の柔軟性を保ち、きれいなぷるるん肌を支えている。

・乾燥が生じる最も頻度の高い要因が加齢や皮膚洗浄によるセラミド減少によることから、生じた乾燥を改善する方法として最も合理性のある方法は、この失われたセラミドを補充し結合水を回復させることにある。

・日焼けをしない量の紫外線でも皮膚の弾力性はなくなる。

・コラーゲンは主に皮膚の強さに関係する膠原繊維。体内で作り出すことができる。コラーゲンは増えても仕方なく、増えすぎると皮膚が硬くなる、よって、コラーゲンを経口接種したり塗ったりしても意味はない。塗るコラーゲンはねっとり感で騙されてる。

・エラスチンは皮膚の弾力性に関係する弾性繊維。基本的に再生しない。紫外線でしわができるのは、エラスチンがたわむことによる。UVBは真皮に入らないが、表皮でサイトカインを作り真皮に影響する。

・血管内皮細胞が産生する血管収縮作用を有するペプチド(タンパク質の1種)、エンドセリン(EDN)にUVBを照射すると、メラノサイト細胞が増殖し、メラニン生成の促進に結びつく。EDNがメラノサイトに作用すると、細胞内のカルシウム濃度が上昇してプロテインキナーゼC系が活性化され、メラノサイトの増殖につながる。また、メラノサイト細胞膜上にEDNに対するレセプターが存在することが明らかにされた。このシステムの制御は、新しい美白剤のターゲットになるものと考えられる。

・種々の生薬エキスからEDNによる細胞内カルシウム動員を抑制するものとして、数百のエキスをスクリーニングした結果見出されたもののひとつがカミツレエキスで、シミの予防が期待される。

・ショウキョウエキス(ショウガの根茎)もしわ・たるみの予防が期待される。

・動物は表皮にメラノサイトがないのでシミができづらい。ヒトは表皮の最下層の細胞の10個に1個がメラノサイト。隠れシミは皮膚の中にあるメラニンが原因。突然のシミをシミ爆弾という。若い時の日焼けの経験による。

・チロシナーゼは、メラニン色素をつくり出すメラノサイトが持っている酵素。チロシナーゼ阻害剤でメラノサイトがメラニン合成を抑制して美白効果がある。しかし正常な皮膚もチロシナーゼを持っているため、いずれ破たんが来る。

・UVA(紫外線A波):肌の奥にある真皮まで到達し、真皮にあるコラーゲンやエラスチンを破壊する。徐々にしわ、たるみなど老化の原因になる。

・UVB(紫外線B波):主に表皮を赤くさせ、炎症を起こす。日焼けをして肌が黒くなったり、肌にシミ、そばかすができたりする原因となる。ガラス窓で室内に入って来ない。

・PA(Protection Grade of UV-A,UVA防止効果指数):一時的な黒化を引き起こし、長時間かけて肌の弾力を失わせるUVAを防ぐ効果を表す目安。黒斑が生じるまでの紫外線量を4段階の「+」マークで表示し、「+」の数が増えるにつれ、UVAに対する防御効果が高いことを表すが、実際にはあまり意味がない。

・SPF(Sun Protection Factor、紫外線防御指数):UVBを防ぐ効果指数。1~50+までの数値は、素肌に何も塗らない場合に比べて、この日焼け止めを塗った場合に何倍の紫外線に耐えうるかを表す。つまり、UVBによる炎症をどれぐらい長い時間防止できるかを表しており、数値が大きい方がUVBに対する防御効果が高い。

・日焼けは紫外線からの体の防御システム。出来るだけ長く効くSPF値の高いものを使って繰り返し塗る。冬でも塗る必要がある。塗り込むのはダメ。理想は1時間で塗りなおし。

資料は若干ですがあまりがあります。欲しい方は受付にお申し出ください。


No.262 皮下点滴の方法

慢性腎不全の場合など、ご自宅で皮下点滴を継続して頂く場合があります。皮下点滴の方法をご説明します。

輸液バック チャンバー クランプ 翼状針

 

1.手指を洗って、翼状針をチャンバーに繋ぎます
2.クランプを開け、空気抜きをして、クランプを閉じます
3.保定者は首の下とお腹に腕を回し、しっかりと保定します
4.翼状針のサックを外して、針先が上を向くように持ちます
5.首の後ろの背中の皮膚を、親指、人差し指、中指でしっかり引っ張り三角形を作ります
6.アルコール綿で皮膚を消毒し、親指の下で翼状針を根本までしっかり刺します
7.クランプを開けて皮下点滴を開始します
8.規定量が入ったらクランプを止め、針先を皮膚の上から持ち針を抜きます
9.そのまま1分ほど皮膚を摘んでおきます

輸液バック、チャンバー、クランプ、翼状針は全て医療廃棄物です。終わったら病院へお持ち下さい。
わからないことがあれば、お気軽にお問い合わせ下さい。


No.261 小鳥の開張肢 (ペローシス)

セキセイインコや文鳥などの小鳥のヒナに発症する開張肢(ペローシス)という疾患があります。腱はずれとも呼ばれます。マンガン、パントテン酸、ピリドキシン、ビオチン、コリン等の栄養不足や遺伝的疾患とも言われていますが、根本的な原因はまだわかっていません。

ペローシスの症状は、片脚もしくは両脚の大腿骨が内転し、脛足根骨が外転することで生じる開脚です。脚が自然の状態で開脚してしまい姿勢が維持できません。脚に荷重をかけられないため、胸で全体重を支えて雛鳥から成長していくために胸骨の変形や胸郭が浅くなります。胸郭が浅くなることで慢性的な呼吸不全、呼吸速迫が認められるケースもあります。

治療法としては、生後4週齢くらいまでの幼鳥であればテーピング固定を実施します。趾部を自着生伸縮包帯を用いて肩幅に合わせて固定します。このテーピングは慎重に行っても幼鳥の精神的ストレスや関節への負担で、食欲不振や関節の脱臼などが生じる可能性があります。4週齢以上の場合は生活環境を整備してQOLを上げる処置をしていきます。骨切りピンニングといって大腿骨を炭酸レーザーで切断して、ピンニングで大腿骨のねじれを矯正する手術で対応する方法もあります。


ペローシスの文鳥のヒナ


ギブスをして滑らない止まり木を使用します


No.260 開口不全症候群 (ロックジョー)

開口不全症候群(ロックジョー)は、英名で「Cockatiel Lock Jow Syndrome(CLJS)」と言います。主にオカメインコのヒナに発症する病気で、口(クチバシ)が開かなくなるようになり、食事を摂取できなくなり、衰弱死してしまいます。

ロックジョーの原因は、細菌感染によるものと言われています。ロックジョーを発症する前に、上部気道疾患(URTD)が先に発症します。URTDの中でも特に、化膿性副鼻腔炎に続発するケースが多いです。URTDの病原菌が、ロックジョーを引き起こす原因菌と考えられ、ボルデテラ(Bardetella avim)が最も重要な原因菌であると推測されています。また、その他の細菌やマイコプラズマ、真菌なども関連性が疑われています。

症状は、原因菌による炎症が顎や頬の細胞組織に波及して口が動かなくなります。URTD→半開きの濁った眼→顎の可動域の低下→食事ができなくて衰弱死。という風に病態が進みます。

治療は、抗生剤の投与を中心に、消炎剤、半導体レーザー、代替医療、リハビリなどを組み合わせて行います。自力で食事を摂取できないため、強制給餌による食事も行われます。強制給餌は誤嚥に十分注意して行う必要があります。

ロックジョーを防ぐため、オカメインコのヒナをお迎えした際は、まずは、動物病院で診察を受けて下さい。治療が難しい疾患ですが、早期に見つかれば救命率が高まります。ペットショップやブリーダーからオカメインコのヒナをお迎えする際は、必ず食事をしっかり食べているか確認して下さい。あまり食べていない、口を開きにくそうにしている場合、ロックジョーを発症している恐れがあります。


ロックジョーのオカメインコのヒナ


No.259 高血圧 (Hypertension)

犬猫の血圧の研究はたくさんありますが、正常値は、

・収縮期血圧(最高血圧)100~150mmHg
・拡張期血圧(最低血圧)60~100mmHg
・平均血圧80~130mmHg

と言われています。この数値は人間の血圧の正常値と似ています。ですが体格によっても異なりますし、品種によっても幅がありますし個体差もあります。この数値より異常に高くないか、低くないかという点に気をつけてあげることが大切です。
犬や猫では、最高血圧が150mmHg、最低血圧が95mmHg以上で高血圧と診断されます。とりあえずの目安としては、最高血圧が犬で150mmHg 以上、猫で160mmHg以上なら治療が推奨されます。180mmHg以上の場合はかなり合併症のリスクが高い重度の高血圧と設定されています。

ヒトの場合は、血圧が高くなるはっきりとした原因が特定できない本態性高血圧症が多いですが、犬猫の高血圧は、心臓病・腎臓病・内分泌疾患(糖尿病、犬のクッシング病、猫の甲状腺機能亢進症)などから二次的に認められることがほとんどです。

高血圧を放置しておくと、高血圧が原因で重い症状が現れることがあります。アメリカ獣医内科学会(ACVIM)は、犬猫での血圧測定と全身性高血圧の診断および治療に関するガイドラインを公表しています。このガイドラインでは、血圧を高血圧によって臓器に組織障害が発生する危険度と関連付けて分類しています。
高血圧で組織障害が起こりやすいのは、「腎臓」「眼」「中枢神経」「心臓血管系」の4カ所です。
腎臓の障害は、多飲多尿・体重減少・食欲不振・嘔吐等の症状として現れます。尿検査で蛋白尿が認められる時は、高血圧が原因の場合があります。
眼の障害は、突然の失明・瞳孔の散大・赤目(眼内出血)等の症状として現れます。眼底検査で、網膜の浮腫や剥離・眼底血管の蛇行・眼底出血・視神経乳頭の浮腫等があるかどうかで判定します。特に猫で網膜病変が認められた場合の血圧は、その他の組織障害が認められる場合に比較して、高血圧が著しいことがわかっていますので、網膜病変は、高血圧に伴うすべての症状の中でも、最も重要な所見となります。
中枢神経の障害は、痙攣発作・虚脱・無関心・見当識障害・抑鬱・眼振・斜頚・運動失調などの症状として現れます。これらは高血圧による脳浮腫・脳内出血・脳梗塞等が原因で起こります。神経学的検査やMRI検査で判定します。
心臓血管系の障害は、運動不耐性や呼吸促迫等の心不全兆候・心雑音・不整脈等の症状として現れます。胸部レントゲン検査・心エコー検査・血液検査等で判定します。

ACVIMガイドライン

ACVIMガイドラインでは、高血圧治療の開始の目安として、
1.眼、中枢神経に組織障害が認められる場合では、危険度Iの段階から
2.腎臓、心臓血管系に組織障害が認められる場合では、危険度II以上の段階から
を推奨しています。高血圧はサイレントキラーなどとも呼ばれ、気づいた時には重症化している場合も多いです。個人的には組織障害が出ないうちに治療を開始すべきだと思います。8歳を過ぎたら年に1-2回の健康診断で血圧測定をして、高血圧を早めに発見して対処しましょう。


犬の血圧測定


No.258 犬の脳炎

犬の脳に炎症が起きて、ひどくなると壊死を起こす病気で、てんかんのような痙攣発作や視力障害、頚の傾き(斜頸)や眼振などの前庭障害を起こします。重症化すると意識障害を起こします。若い犬でも発症が見られます。

原因はウィルスや細菌、真菌、原虫に感染して起こる感染性のものと、非感染性のものにわけられますが多いのは後者です。感染性のものは犬ではジステンパーウィルスが原因のものが多いです(猫ではFIPウィルス)。非感染性のものは自己免疫性疾患だと考えられています。

犬の非感染性脳炎は、主に以下の3つに分類されます。

肉芽腫性髄膜脳炎(GME):脳の中に肉芽腫ができて、肉芽腫が出来た場所によって症状が違います。好発犬種はなく、多くの犬種で発生します。大型犬は比較的稀です。

壊死性髄膜脳炎(NME): パグで多く発生するため、別名パグ脳炎とも言われています。シーズー、マルチーズ、ポメラニアン、チワワなどでも発症します。大脳皮質が炎症を起こし、脳が壊死して行きます。

壊死性白質脳炎(NLE):脳の白質に病巣を形成します。ヨークシャーテリア、チワワによくみられます。

脳炎の診断鑑別には、似た症状を示す病気を除外したのちに、最終的にMRI検査やCFS(脳脊髄液)検査で行います。

治療は、免疫抑制剤、抗てんかん剤で症状をコントロールします。GMEの場合は放射線療法を行う場合もあります。代替医療が著効する場合もあります。

こちらもご参照下さい
No89 癲癇、てんかん


No.257 犬の原発性肝臓腫瘍

高齢化や超音波などの検査器具の性能の向上によって、犬の肝臓の腫瘍の発見が増えています。当院でも肝臓の手術は年々多くなっています。肝臓の腫瘍も原発性と転移性に分けられます。今回は原発性の肝臓腫瘍の話です。症状は、食欲不振、体重減少、嗜眠、嘔吐、多飲多尿、腹水による腹囲膨満等が一般的ですが、重度の場合、黄疸、肝性脳症なども認められます。また、無症状で健康診断などで偶発的に発見されることも多くあります。肝臓は沈黙の臓器と呼ばれ、腫瘍が発生しても症状が出にくく、発見時には重症化している場合があります。また、高齢で発生するので、手術をすべきか迷われる飼主様も多いのが実情です。原発性の肝臓腫瘍の多くは手術で根治が見込めますが、年齢や健康状態によっては手術を回避せざるを得ない場合もあります。

肝臓は腸が吸収した栄養分を代謝・解毒するための臓器であり、肝細胞・胆管・血管からなります。肝臓に発生する主な腫瘍としては、肝細胞由来、胆管由来、血管由来の腫瘍が挙げられますが、肝細胞由来(結節性過形成・肝細胞腺腫・肝細胞癌)が最も多く、全体の 8 割以上を占めます。基本的に、これら3 疾患は孤立性の発生であれば、手術により良好な予後が期待できます。以下、主な肝臓腫瘍を簡単にご説明します。

手術で取りきれれば予後が良好なもの
結節性過形成:悪性のものではないが進行性に大きくなる場合は切除の必要あり
肝細胞腺腫:良性腫瘍、進行はゆっくり
肝細胞癌:肝臓の悪性腫瘍の約50%、進行はゆっくりで他の臓器への転移も稀

再発に注意が必要なもの
肝胆管癌:肝細胞癌と胆管癌の中間の悪性度

肝内転移、他の臓器の転移が起こりやすく、予後は不良の場合が多いもの
胆管癌:多くは多発性で手術適応にならない場合も多い
血管肉腫・カルチノイド・肥満細胞腫・その他の悪性腫瘍:進行が非常に早く多発性、他の臓器への転移も早い

肝臓腫瘍の手術の危険度は、腫瘍が肝臓のどこに発生しているのかによって大きく変わります。犬の肝臓は右肝区域(外側右葉、尾状葉)、中央肝区域(内側右葉、方形葉、胆嚢)、左肝区域(内側左葉、外側左葉)からなり、左肝区域は分布する血管が長く、比較的 後大静脈から距離があるため摘出しやすいのに対し、中央肝区域と右肝区域の腫瘍は血管の結紮・切断の際の出血リスクが高くなり危険度が上がります。また、肝葉の辺縁から発生している腫瘍は比較的安全に切除できますが、肝葉の基部に発生した腫瘍では摘出の難易度は高くなります。 個々の症例において、術前の超音波検査や、可能ならCT 検査を実施してどの肝葉から発生している のか、どの血管を処理すれば摘出できるのかを評価しておくことは、手術のリスクを下げるために重要です。

肝細胞癌
クリックすると手術時の写真が出ます
苦手な方はクリックしないで下さい


No.256 皮膚糸状菌症 (Dermatophytosis)

皮膚糸状菌は動物の体表に感染する病原体であり、真菌(カビ)の一種です。皮膚糸状菌は数種類存在しますが、その中でも動物に一番罹患率の高いのはMicrosporum.canis(以下M.canis)です。

皮膚糸状菌はヒトにも感染する、いわゆる人獣共通感染症です。犬猫だけでなく、ハムスター、うさぎ、ハリネズミなど多くの哺乳類が感染します。飼っている動物が発症してしまった場合にはヒトに感染するリスクが高まりますので十分な注意が必要です。ヒトには丸く赤い皮膚病が腕に出る場合が多いです。さらに、一緒に飼っている動物にも感染しますので感染動物は他の動物との接触を避ける必要があります。

皮膚糸状菌は、被毛や皮膚の表面に感染し、主な症状は脱毛、赤み、フケなど様々な症状があり、最初は痒みは少ないのが特徴です。

感染しやすい動物は免疫力がまだ十分に備わっていない幼若動物や免疫力の低下を引き起こす病気を持っている高齢動物です。臨床現場では幼若動物で遭遇する機会が多かったのですが、近年は高齢動物に多発しています。また、ステロイド剤や免疫抑制剤などの長期使用も原因となることがあります。ヨークシャーテリアは皮膚糸状菌への感染リスクが高いです。

検査はウッド灯検査、毛検査、皮膚掻爬検査、真菌培養検査があります。ウッド灯検査とは、M.canisが発生する物質に対してライトを当てるとその物質が付着している皮膚や被毛が発色することを利用した検査です。近年、良いウッド灯が作られM.canisの検出が容易になりました。確定診断はその疑わしい被毛を毛検査で採取、または皮膚掻爬検査で周囲の皮膚組織を採取し、顕微鏡で観察することで行います。上記の検査で診断が難しい場合や皮膚糸状菌の種類の特定、治療の経過を判断するために真菌培養検査も実施することがあり、14日ほどの培養期間を要します。

治療は長期に渡ることが多く、最低でも6-8週間ほど完治にかかります。治療内容としては感染被毛およびその周囲被毛への外用薬の塗布、内服薬、シャンプー療法、剃毛、飼育環境の改善があります。病状によってはシャンプー療法のみで完治する場合もありますが、治療が終了し、治ったと思った矢先に再発することもあります。自然界(自宅の環境)で長期にわたり生存する(18ヶ月生存していたとの報告もあります)ことが再発の原因となります。再発を予防するためには飼育環境の改善が重要となり、皮膚糸状菌を除菌し、身近な環境中に皮膚糸状菌を生存させないことが必要です。飼育環境改善は、感染動物が使用していた、食器、トイレ、タオルなどを破棄、消毒します。消毒は塩素系漂白剤などを使用するか、熱湯消毒をします。とくに夏場は室温や湿度の管理も重要です。


ウッド灯に反応しているM.canis