No.294 精巣腫瘍

精巣腫瘍は去勢をしていない雄において比較的多くみられる腫瘍です。犬とウサギによくみられ、猫では稀です。特に、生後に陰嚢内に精巣が降りてきていない停留精巣の犬においては、正常に精巣下降した場合と比べて精巣腫瘍になるリスクが高いと言われています。また、精巣腫瘍は主にセルトリ細胞腫、精上皮腫(セミノーマ)、間質細胞腫(ライディッヒ細胞腫)と呼ばれる3種類の腫瘍に分類され、それらはほぼ同じ割合で発生し精巣腫瘍のほとんどを占めます。

セルトリ細胞腫:セルトリ細胞腫の犬の30%において高エストロゲン血症に伴う雌性化した乳房や左右対称性の脱毛などが特徴的な身体検査所見として認められます。また、血液検査において好中球減少、血小板減少、再生不良性貧血などを認める場合もあります。セルトリ細胞腫は、通常は良性の挙動を示し転移は稀(15%以下)とされていますが、肝臓や肺、リンパ節等へ転移することもあります。

精上皮腫(セミノーマ):セミノーマは潜在精巣において認められることが多く、セルトリ細胞腫と同様に高エストロゲン血症に伴う症状が認められる場合もあります。転移は稀ですが、リンパ節や肺への転移することがあります。

間質細胞腫(ライディッヒ細胞腫):間質細胞腫の多くは1cm以下の結節性の病変であり臨床的に問題とされていない精巣において偶発的に発見されることが多い腫瘍です。高エストロゲン血症に伴う症状はセルトリ細胞腫やセミノーマに比べると少なく、転移することは極めて稀です。

診断には視診、触診の他、超音波検査を用いた精巣腫瘤の確認が必要であり、針吸引による細胞診検査によって暫定的に診断が行えますが、確定診断には病理組織学的な評価が必要となります。また、外科的な手術の前には、転移の有無や全身状態を確認するための血液検査やレントゲン検査、また場合によってはCT検査を行う必要があります。

治療は腫瘍の外科的摘出が第一選択となります。精巣腫瘍は転移の可能性が少なく、去勢手術によって大半は治癒します。しかし、稀に転移が認められる症例もあり、そのような症例は精巣に加えて転移部位の外科的切除も考慮し、追加の放射線治療や化学療法による治療を必要とする場合があります。また、再生不良性貧血を呈した場合は輸血等の対症療法以外に有効な治療法はありません。


ウサギの精巣腫瘍


No.293 腎臓腫瘍

犬や猫の腎臓腫瘍は比較的稀ですが、多くは悪性で、腎腺癌、腎細胞癌、腎芽腫、移行上皮癌などがあります。

初期は無症状で、定期健診で発見されることが多いです。重症化すると元気消失、血尿や疼痛が見られる場合もあります。両側の腎臓に腫瘍ができてしまうこともありますが通常は片側性です。腎臓の悪性腫瘍は高率にリンパ節や肝臓、肺などに転移します。

治療は外科手術での腎臓尿管摘出になりますが、手術の前に臨床ステージを分類します。動物の場合はヒトほど正確にはできませんが、TNM分類を行います。レントゲン検査、超音波検査、可能ならCTを使って確認します。(→No292 TNM分類)

腎臓は片方が正常であれば普通の生活が送れます。残す方の腎臓が正常な機能を持っているかを正確に判断するのは困難ですが、
・血液検査
・尿比重
・排泄尿路造影
などを評価して腫瘍化している腎臓を摘出して良いか判断します。

リンパ節転移や遠隔転移が既に起こっている場合は予後が難しいため、早期発見が望ましいです。若い犬でも発生することがあるので定期健診は重要です。


腎臓腫瘍の犬のエコー写真


No.292 TNM分類

悪性腫瘍は無秩序に拡がり周囲組織に浸潤します。 そのためその拡がり方が、予後や治療方針に大きく影響します。 癌の進行度具合は、ステージ(病期、浸潤度、進行度)と呼ばれ、一般に『TNM分類』という分類法が使われています。リンパ腫では用いられず、癌の場所や実質臓器と管腔臓器でも違ったりしますが、基本は以下のようになります。診断は、レントゲン検査、超音波検査、可能ならCT検査で行います。

T(Tumor):原発腫瘍の大きさ、浸潤、癌がどれくらい拡がっているか
T1:画像診断では診断できない
T2:原発した臓器に限局
T3:原発した臓器の外部にも浸潤
T4:接する臓器まで拡がっている

N(Nodes):所属リンパ節に転移があるか
N0:リンパ節転移なし
N1:リンパ節転移あり
Nx:評価不能

M(Metastasis):遠隔転移の有無。肺、肝臓、骨などの他の臓器に転移があるか
M0:遠隔転移なし
M1:遠隔転移あり
Mx:評価不能

上記を元にステージ分類を行います。(実際には各悪性腫瘍ごとに独自の分類を定めていることが多いです)
I期:T1 N0 M0
画像診断では診断できないくらいの大きさ
II期:T2 N0 M0
原発した臓器に限局している
III期:T3 N0 M0
T1,T2,T3 N1 M0
原発した臓器の外部まで浸潤している、または所属リンパ節に転移がみられる
IV期:T4 N0,N1 M0
T,Nに関係なくM1
原発した臓器の外部まで浸潤して所属リンパ節への転移もみられる、または遠隔転移がみられる


No.291 小鳥の結膜炎

セキセイインコやオカメインコなどの小型インコや文鳥などのフィンチ類は、しばしば結膜炎にかかります。結膜炎の主な原因は、感染、アレルギー、外傷などが考えられます。感染は一般的な細菌の他、マイコプラズマやクラミジア等の病原体が原因となります。特にオカメインコではマイコプラズマによる結膜炎がよくみられます。鳥類のアレルギー反応は解明されていませんが、季節性や年周期性がみられるときや、生活環境の変化、食事、おやつの変更があった場合は、鑑別のひとつとして考慮します。木屑はアレルギーの原因になることが多くあります。外傷性で多いのは他の鳥とのケンカや放鳥時の事故です。

症状は、結膜が赤くなる、腫れる、眼が開けづらい、流涙などです。とくに流涙が多い場合は原因が複雑な時が多いです。全身性疾患から結膜炎になっている場合もあります。簡単な治療で改善しない場合は、細菌培養や病原体のPCR検査(遺伝子検査)が必要な場合もあります。

治療は点眼薬を使用する場合もありますが、小鳥が気にして引っ掻いてしまい悪化させることが多いので、内服薬を使用することが多いです。引っ掻くのがおさまらない場合はカラーを使用することもあります。


結膜炎の文鳥


No.290 皮弁 (Flap)

皮弁とは血流のある皮膚を別部位に移植し、皮膚を再形成する手術方法です。皮弁では、付着した栄養血管を通じて豊富な血流があるため、移植先の状態が多少不良でも創傷治癒が早く、強度と柔軟性を兼ね備え、移植部への適合性も良好です。また、折り畳んだり、巻いたりすることもできることから、色々な形態を形成できます。皮弁が必要になる症例は、大きすぎる腫瘍の切除や、事故・怪我で広範囲の皮膚の欠損が起きた場合です。特に、天然孔(目、耳、鼻、口、肛門、外陰部)の側や四肢、尾などの皮膚の余裕がない部位で必要になる場合が多いです。欠損部位をただ縫い合わせるには皮膚に余裕が無かったり、正常な四肢の動きを確保できなくなる場合に、別の場所から皮膚・皮下組織を移動させます。

皮弁の種類
・皮膚弁:皮膚・皮下組織のみを構成成分とした皮弁
・筋膜皮弁:皮膚・皮下組織の血流を確保するために深筋膜を含めた皮弁
・筋皮弁:皮膚・皮下組織の血流を確保するために筋肉を含めた皮弁

移動法による皮弁の分類
・有茎皮弁:切り離さない皮弁。移植組織の血流を保つために皮膚に皮下組織の茎をつけて移動します
・遊離皮弁:切り離した皮弁。マイクロサージャリー(→No274マイクロサージャリー)を応用して皮弁の栄養血管を移植部の動静脈(移植床血管)に吻合して移植する方法

栄養補給路として血管を温存させることで、皮膚は新しい場所で定着・治癒することができます。逆に、確実な血行が維持できなかった場合、壊死から術創破綻を起こすため注意が必要です。また、術前には正常だった部分の皮膚にメスをいれることになるため、飼い主様の想像以上の大きな傷口となる場合もあります。部位にもよりますが、傷口が大きいため一定期間の安静も必要です。下記の写真の様に結構大変な手術になります。天然孔の側や四肢、尾の腫瘤は小さいうちに、早目に対処した方が良いです。


皮弁を行った犬の前肢


No.289 ヘビの便秘

爬虫類が持つ総排泄腔という器官は、排便、排尿、生殖、産卵などの機能を持っていますます。細長い身体を持つヘビは、尿と同時に作られる尿酸結石を詰まらせて便秘を引き起こしやすい動物です。食べ過ぎや運動不足は便秘を引き起こしやすくします。また、温度や湿度の低下も便秘の誘因となることがあります。温度が低いとヘビは熱源に巻き付き腸内の便を乾燥させます。湿度が低いと水分の蒸発量が増え状況を悪化させます。

治療の最初は飼育環境の改善です。空気を乾燥させる可能性のある木くずやダンボールで出来た備品を除去し、加湿器などを使い湿度を上げます。運動量を増やし、食事の頻度を減らし、食事を小さくして消化しやすいものを与えることも大切です。また15分温浴くらいの温浴を4~5日続けるのも効果がある場合があります。

それでもダメな場合は浣腸や下剤を用います。命にかかわるぐらいの便秘が起こってしまった場合には外科手術を選択する場合もあります。

ヘビの写真が出ますので苦手な方はクリックしないで下さい
写真1
写真2
便秘のコーンスネークの総排泄腔の膨らみ


No.288 サルコペニア (Sarcopenia)

サルコペニアという言葉はギリシャ語のsarcoという筋肉を表す単語とpeniaという欠乏を意味する単語を組み合わせた筋肉減少症という医学造語です。筋肉量の減少により筋力が低下し、身体機能が低下した状態です。加齢とともに筋肉量は低下しますが、日常生活にも影響が生じた状態がサルコペニアです。また、筋肉は基礎代謝を行い、エネルギーとなる糖質の代謝や体の老廃物となるアンモニアの処理も行います。このようなシステムにも支障が出ます。高齢動物でサルコペニアが起こると、優位に寿命が短くなることが知られています。

加齢で運動量が減って筋力、筋肉量が減って起こる1次性サルコペニアと、加齢以外にも原因がある2次性サルコペニアがあります。関節炎や慢性腎不全や歯周病、心疾患、低アルブミン血症、悪性腫瘍、犬の副腎皮質機能亢進症、猫の甲状腺機能亢進症などは2次性サルコペニアの原因となることがあります。これらが原因で筋肉の代謝にかかわるステロイドホルモンやサイトカインが健康時から変化することで、筋肉の分解量が産生量を上回ることから発症します。立っている時に後ろ足が震える、飲水量が増えたなどの症状と共に体重減少があればサルコペニアの可能性があります。

高齢になればなるほど体重は減りがちですが、体重の減少がみられる場合は、一見元気そうに見えても、病気がないかどうかを注意深く調べて、基礎疾患の治療、食事の見直し、状況によっては運動やリハビリを取り入れ、サルコペニアにならないようにしていくことが重要です。


No.287 猫ウイルス性鼻気管炎(Feline viral rhinotracheitis; FVR)

猫ヘルペスウイルス1型(FHV-1)による上部気道(鼻腔、喉頭、咽頭)の感染症を猫ウイルス性鼻気管炎、または猫ヘルペスウイルス感染症といいます。発症猫からの直接感染が主体でとくに子猫の感受性が高いです(胎盤感染はしません)。潜伏感染していた母猫が授乳などのストレスで再活性したウイルスが子猫へ感染します。眼や鼻からウイルスが侵入し、末梢神経に侵入後、神経行性に上行し神経節に潜伏します。ライオンやトラなどの猫科の動物には感染しますがヒトにはうつりません。

主な症状は急性期では、発熱、食欲不振、沈うつ、くしゃみ、鼻汁、流涙、羞明などで多くは後に潜伏状態となります。子猫や免疫不全の猫では、気管支炎、副鼻腔炎、ウイルス血症などで亡くなってしまう場合もあります。潜伏期では、蜜飼いや環境の変化などのストレスでウイルスが再活性化して感染源となります。発症時には鼻汁や唾液、涙に多量のウイルスが存在します。角膜に感染すると、涙液減少、鼻涙管の閉塞などにより、ウイルスを除去することが困難となります。角膜の知覚神経(三叉神経の末端)に沿って樹枝状に潰瘍を形成します。潜伏感染する主な神経節は、三叉神経(眼神経、上眼神経、下眼神経)、顔面神経、交感神経、動眼神経です。また子猫では、結膜炎によって開瞼不全(眼が開けられない状態)となってしまう場合があります。

治療は対症療法、抗ウイルス剤の投薬や点眼薬ですが、状況によって点滴や抗生剤などを使用する場合もあります。一度かかってしまうと完治は難しい疾患です。症状が無い時もストレスを減らし免疫力を上げ、発症してしまったら早めに対処するのが現実的な方法です。予防はワクチンで猫のコアワクチンの1つですが完璧なものではありません。


開瞼不全の子猫


No.286 不妊手術(Spay)

不妊手術の流れについてご説明します。手術中の写真が苦手な方は見ない様にして下さい。メリット・デメリットについてはこちらをご参照下さい→No125 去勢手術・不妊手術

1.全身麻酔下(→No117 全身麻酔)で剃毛し、お臍の下を1cmほど切開します(写真、右側が頭側です)。皮下組織を剥離し、筋膜を切り、筋肉を剥離し、腹膜を切り、腹腔内にアプローチします。
術中写真1

2.子宮吊り出し鈎により子宮を吊り出し、卵巣を展開して腹腔外に出します。
術中写真2

3.デバイス(→No275 外科手術用エネルギーデバイス)を用い血管と組織を切断します。吸収性縫合糸で結紮し切断する場合もあります。2と3を左右行います。状況により子宮も摘出することもあります。
術中写真3

4.腹膜と筋層・筋膜、皮下組織を縫合します。
術中写真4

5.皮膚を縫合します。ステープラー(外科用ホッチキス)を使用することもあります。野良猫ちゃんなど抜糸が難しい場合は、皮内縫合などの抜糸がいらない縫合をする場合もあります。
術中写真5

6.取り出した卵巣。
術中写真6

7.通常手術時間は15分くらいです。出血もほとんどありません。上記の写真はいずれも小型犬のものですが、猫やフェレットでも切開部位が若干違うくらいで手順はほぼ同じです。ウサギは大きな盲腸があるため傷が少し大きくなります。当院では1泊の入院をしていただいています。術後1~3日くらいで元通りの元気が出てきます。抜糸は術後1週間くらいで行います。


No.285 低アルブミン(Alb)血症

近年、血液検査でアルブミンの低い動物が増えています。アルブミンは肝臓で合成される蛋白質で、血液の浸透圧の調節や脂肪酸、ビリルビン、無機イオン、薬剤などの保持や運搬を行なっています。アルブミンは脱水以外の理由で病的に増加することは無いとされるため、基本的にはアルブミンの低下のみが問題となります。血清中のアルブミン濃度が、正常値(2.5~3.8 g/dl)より低下することを低アルブミン血症といいます。

低アルブミン血症では、血液の浸透圧が維持できないため、血液中の液体成分が血管の外に出てしまい、浮腫、腹水、胸水といった症状を呈します。血清アルブミン値が2.0~1.5 g/dl以下になると、これらの症状があらわれ始めます。低アルブミン血症は、肝臓でのアルブミンの合成能低下、尿などへのアルブミンの喪失、そして飢餓などの栄養失調によるアルブミン原料の不足などが原因となります。また、輸液などで血液が希釈されてもアルブミンは低値を示します。

病気としては、各種の重度の肝疾患、腎臓からの漏出(ネフローゼ症候群など)、食事からの栄養の吸収不良や消化不良、飢餓による栄養失調、出血による喪失、広範囲の皮膚炎、腸からの漏出(腸リンパ管拡張症など)、腹水や胸水、過剰輸液などが低アルブミン血症の原因となります。また、傷が治り辛かったり、薬が効き辛くなることもあります。

検査結果が正常値を外れている場合でも、必ずしも病気とは限りませんが、原因は血液検査のみならず身体検査や他の検査も行って診断していきます。状況により経過観察を行ったりさらに詳しい検査を行うこともあります。近年では肝不全や腎不全より、消化管の問題がある場合が多いです。この場合、確定診断には内視鏡による消化管のバイオプシー検査か、試験開腹による腸の全層生検が必要です。症状が無い場合は経過観察や食事管理などで様子見をすることも多いですが、血清アルブミン値2.0以下が続く場合は、原因を確認しておいた方が良いです。