No.307 R-R変動率 (CVR-R)

R-R変動率とは心電図(→No306心電図検査)によって自律神経の機能の異常を調べる検査です。自律神経とは、意思とは関係なく無意識のうちに働く神経で、胃や腸の働き、心臓の拍動、代謝や体温の調節など、動物が生命を保つうえで欠かせない働きを担っています。自律神経は、正反対の働きをする「交感神経」と「副交感神経(迷走神経)」に分けられます。交感神経は活動時、緊張したとき、ストレスがかかったときなどに働き、副交感神経は、休息時、睡眠時、リラックスしたときなどに働きます。ヒトでは特に糖尿病の患者さんに多くみられる自律神経の機能障害の程度を検査するために多く用いられます。

心臓も自律神経にコントロールされており、息を吸うときは交感神経の働きで心拍が速くなります。逆に息を吐くときは副交感神経の働きで心拍がゆっくりになります。これを呼吸性不整脈といい、自然な現象です。

この差を数値化したものがR-R変動率で、自律神経の異常が分かる検査方法です。R-R変動率が0%に近づくと、自律神経による心臓のコントロールが失われている状況で、死亡率が高まります。

6%以上:正常
1.00~1.99%:予後不良
0.00~0.99%:1週間以内死亡率 80%
※認知症や交通事故によるショック状態では例外です
猫は参考値です。正常でも低い数値になることがあります


No.306 心電図検査 (Electrocardiogram;ECG)

心電図検査は、血液検査やレントゲン検査とならび、診察や健康診断の際に行われる頻度が高い一般的な検査です。心電図は心臓の異常を発見するためにとても有用な検査でありますが、心電図検査だけでは見つけることが難しい心臓病もあります。心電図は1903年にオランダの医学者アイントーベンによって考案されました。アイントーベンはその功績により1924年ノーベル医学生理学賞を授与されています。心電図検査は、当時のノーベル賞の受賞理由になりうる画期的な発見だったのです。そして100年近く経った現在でも使用されている素晴らしい検査です。

心臓は拍動すると同時に電気が流れているのですが、その電気興奮を波形として記録したものが心電図になります。現在、病院で行われる心電図検査は12誘導心電図といい、1枚の心電図記録には12種類の波形が記録されます。12種類もの波形を記録する理由は、心臓を流れる電気興奮を12の方向から観察し、全体像をしっかりと把握するためになります。

獣医学は日進月歩で様々な技術が開発されていますが、心電図検査が現在でも重宝されている理由は、動物に大きな負担をかけることなく実施することが可能で、すぐに波形記録を確認でき、得られる情報量が多いからということになると思います。しかし聴診器のみの診察では限界があるように、心電図検査のみでは心臓の状態や病気のことが全てわかるわけではありません。

血液検査ではその結果は数字となって表現されますが、心電図検査では波形が記録されます。心電図には、正常波形とされている波形記録があり、それに当てはまらなければ異常と判定されることになるわけです。しかし、正常波形ならば心臓に病気がなく、異常波形は心臓に病気を抱えている、と必ずしもなるわけではありません。

心臓は規則正しく動いていますが、それは心臓で規則的に電気が発生して流れているからです。心臓の規則正しさが乱れる不整脈(→No137不整脈)の診断は、心電図検査の最も得意とする領域になります。ヒトで多い「心筋梗塞」や「狭心症発作」のときには、心臓の電気的活動に異常が生じるので異常波形が出現します。また、猫でよくみられる「心筋症(→No222猫の肥大型心筋症)」という心筋に障害が起きている疾患でも異常波形が記録されることが多くなります。

しかし、犬でよくみられる、弁という心臓内の構造物の働きが悪くなっている弁膜症(→No194僧房弁閉鎖不全症)では、だいぶ進行してからでないと心電図波形は変化してこないことが一般的です。また、狭心症や不整脈などでは発作が起こったときでないと心電図波形に変化がみられないこともありますので、測定時の心電図が正常だからといって心臓病がないとは言い切れません。

逆に、健診結果で異常と判定された波形であっても、最終的に「問題なし」や「経過観察」と判断されるケース(病気とは言えず、治療の必要性なし)も結構あります。例えば、心臓の基本的な働き(全身に血液を送るポンプ機能)は正常で、突然死を起こす可能性は高くないと判断しうるのであれば、正常とはやや異なる電気興奮をしていたとしても、そのケースでは「問題なし」「経過観察」という結論になることがあります。

発作時の心電図記録が有用だと考えられるケースでは、運動負荷心電図や24時間心電図(ホルター心電図)といった特殊な心電図検査を行います。心臓の形態やポンプ機能を確認するためには、心電図よりも心臓超音波検査(→No154超音波検査)が有用になります。


No.305 血糖値

血糖値は糖尿病や低血糖などが疑われるときに測定します。動物で血糖値が上がる(高血糖)原因として代表的な疾患は糖尿病(→No304糖尿病)ですが、その他にもグルココルチコイド製剤など薬剤による高血糖、クッシング症候群(→No.79 犬の副腎皮質機能亢進症)、さらに膵炎(→No189膵炎)などが挙げられます。ウサギなどでは、痛みで高血糖になる場合があります。

一方で血糖値が極端に下がる(低血糖)原因としては、インスリン製剤の過剰投与、インスリノーマ、敗血症や肝不全、さらには過度な運動や若齢動物、そして長期間の絶食などが挙げられます。

これら高血糖および低血糖を引き起こす疾患のなかで、特に重要な疾患として糖尿病が挙げられます。

糖尿病治療時に使用するインスリン製剤を評価するうえで、重要な検査の一つに血糖値曲線の作成があります。使用するインスリン製剤にもよりますが、犬ならNPH製剤(ノボリンNなど)、猫ならインスリンデテミル(レベミル)を使用しますが(今は動物用のプロジンクもあります)、最低でも犬なら8時間、猫なら12時間、血糖値曲線を作ります(それぞれの使用するインスリン製剤の作用時間に合わせて設定します)。空腹時血糖値の測定から、食事を摂食させてからの1時間、そしてインスリン製剤を投与してからの1時間と3時間は、コンスタントに測定します。その後の測定間隔は、2~3時間を目安に測定します。このように血糖値の頻回測定は糖尿病症例における血糖値曲線を作成するうえで重要で、高血糖ピークおよびnadir(最低値)を把握することが、糖尿病症例に対するインスリン投与量の決定につながります。また、猫ではインスリン量決定のために、経口・静脈糖負荷試験が必要な場合があります。


No.304 糖尿病 (Diabetes)

糖尿病は、血糖値(血中のブドウ糖濃度)を下げるように調節するインスリンの分泌不足や作用不足により高血糖状態が持続し、多飲多尿・脱水・体重減少・白内障(犬)・サルコペニア(→No288サルコペニア)・後肢の虚弱・末期には糖尿病性ケトアシドーシスによる食欲不振・元気消失・衰弱や死亡を引き起こす病気です。犬も猫も中~高齢で多く発症します。

糖尿病で受診される方の主訴で一番多いのは「水をよく飲むようになり、痩せてきた」というものです。犬も猫も糖尿病になるとほぼ全例で多飲多尿が見られます。多飲多尿とは、これまでより多量に水を飲むようになり、尿量も増え、色が薄くなるような症状です。犬では肥満、クッシング症候群(→No.79 犬の副腎皮質機能亢進症)、未不妊雌の黄体期、膵炎(→No189膵炎)。猫では肥満、高脂血症、甲状腺機能亢進症(→No.78 猫の甲状腺機能亢進症)、尿路感染症、歯周病(→No97歯周病1→No98歯周病2)、末端巨大症、グルココルチコイド製剤などが糖尿病の基礎疾患になり得ることが明らかになってきています。

症状が多飲多尿だけの状態で見つかれば治療もスムーズに始められますが、そのまま放っておくとゴハンは沢山食べる割にどんどん体重が落ちていき、元気もなくなりグッタリするようになってしまいます。元気が無いような糖尿病の子に関しては通常入院での集中治療が必要となりますので、多飲多尿が気になったらなるべく早めに(元気なうちに)受診するようにしてください。

血液検査により血糖値の上昇を確認、尿検査で尿糖陽性を確認、基本的にはこれで糖尿病の診断はできる場合が多いです。あとは状態に応じて基礎疾患、合併症、現在の全身状態を把握するための検査を行って、重症度に応じて治療を組み立てていきます。

治療は食事療法と注射によるインスリン補充療法が主体となります。治療当初はインスリンの必要量を調べるのに数時間毎の血糖値測定が必要となりますので基本的には数日入院しての治療となります。ある程度のインスリン量が決まった時点で在宅でのインスリン注射を飼い主さんにしていただく形で通院治療に移行となります。

糖尿病は、ヒトではよく1型、2型といいますが、日本人の約95%は2型の糖尿病と言われています。2型糖尿病は 遺伝的に糖尿病になりやすい人が、肥満・運動不足・ストレスなどをきっかけに発病します。インスリンの効果が出にくくなったり、分泌のタイミングが悪くなったりします。生活習慣の見直しを行うと改善したり、インスリン注射が必須ではありません。残りの5%の1型糖尿病は膵臓のβ細胞が壊れてしまい、まったくインスリンが分泌されなくなってしまいます。インスリンを体外から補給しないと生命に関わるため、インスリン注射を欠かせません。1型は子供や若い人に多く、2型は中高年に発症することが多い病気です。猫の8割は2型糖尿病と言われています。犬はどちらの型だか不明なことが多いようです。ほとんどは猫や日本人と同じように2型から発症したものと推測されるようですが、実際犬が具合が悪くなって病院に来る頃には病状が進んでいるため、1型と同じようにインスリン注射が治療には欠かせない場合が多いです。

糖尿病という病気は進行具合によって必要な入院日数や治療内容、救命率、当然ながら治療費に関してもかなりの差が出ます。多飲多尿は様々な病気のサインとしてとても重要な症状です、おかしいなと思ったらまずはご相談ください。


インシュリンと専用注射器


No.303 ウサギのソアホック(足底潰瘍、飛節糜爛)

ウサギの足の裏には犬猫のようにクッションとなる肉球がなく代わりに豊富な被毛で覆われています。しかし、何らかの理由で足の裏の毛が失われると、大きなトラブルになってしまうことがあります。ソアホック(足底潰瘍、飛節糜爛)とはこの足底の皮膚におこる病変です。足の中央付近とかかとの部分は骨が皮膚に近いため床ずれのような状態が発生しやすくなっています。脱毛し軽度に赤く腫れる程度から、重度な潰瘍を起こし、出血や感染を起こす場合もあります。感染が骨や関節にまで波及すると、断脚が必要になったり、全身的な敗血症に陥り死にいたるケースもあります。

フローリングでの飼育やケージの底が硬すぎることが大きな要因になります。本来は自然界の土の上のようにデコボコした環境が好ましいと考えられています。しかし、多くの飼主さんがスノコで飼育されているのに、病気になる個体と平気な個体がいるので、床材だけが原因ではありません。床が湿っていて不衛生だったり、ケージが狭すぎて運動不足だったり、栄養を取りすぎて肥満になることも原因として挙げられます。また、爪が伸びすぎていたり、全身的な体調不良や栄養失調でも発症の危険性が高くなります。

治療の最初は、飼育環境の再確認です。衛生的な環境で発症したのであれば、更にクッション性を持たせる為に、牧草を敷き詰めたり、市販の休足マットを何枚かケージに使用します。足の裏に糞尿が着いてしまわないようにマメにスノコやトイレの掃除も必要です。ケージが狭い場合は大きめのものを用意したり、肥満がある場合では、イネ科の牧草(→No282ウサギと牧草)を主食にして自然なダイエットを行います。感染による炎症が疑われる場合、抗生物質や消炎剤の内服や、クッション性のあるガーゼやコットンを当てたテーピングを行う場合もあります。テーピングの際はウサギがテーピングを気にして齧って食べてしまう(誤食)の危険性もあるので注意します。エリザベスカラーが必要になる場合もあります。非常に治療に時間がかかる病気なので、早期発見の為に日頃から足裏のチェックをしてあげてください。


足底皮膚炎のウサギ


No.302 UW25 (Wisconsin-Madison Chemotherapy Protocol:ウィスコンシン-マジソン プロトコール)

低分化型(高悪性度)リンパ腫(→No202リンパ腫)は、現在の抗癌剤治療では根治させることは極めて難しく寛解を維持させることになります。

根治:すべての腫瘍細胞が根絶されている状態
寛解:詳細な検査を行っても病変が検出できない状態
腫瘍細胞が1g以下の状態(1g=10億個)

抗癌剤治療を行っていく中で、QOL(生活の質)の改善を考えることが非常に重要になります。抗癌剤を使うことで腫瘍細胞を抑え込めたとしても、副作用で苦しむ期間が長ければ良い治療とはいえません。低分化型(高悪性度)リンパ腫に対する抗癌剤治療は、1種類の抗癌剤だけではなく数種類の抗癌剤を組み合わせて使用する多剤併用療法を行います。この多剤併用療法を用いることで、効果を強くしたり副作用を弱くすることが可能となり患者のQOLの改善につながります。

リンパ腫と診断し、未治療の動物を寛解状態に導入するために行うのが導入療法です。最もよく使用するのがCHOPを基本骨格にした多剤併用療法です。CHOPとは使用する抗癌剤のアルファベットの頭文字を表記したものです。CHOPを基本骨格にした多剤併用療法のなかでも、ウィスコンシン大学で考案された25週のプロトコールUW25(Wisconsin-Madison Chemotherapy Protocol:ウィスコンシン-マジソン プロトコール)
は、奏効率、奏効期間、生存期間を統合して現時点では最も好成績なプロトコールです(実際には各治療施設ごとにアレンジして、患者さんごとにプロトコールを作っています)。治療期間は約6カ月、奏効率は約94%、奏効期間期間中央値は約10カ月、生存期間中央値は約14カ月です。

Cyclophosphamid:エンドキサン;シクロフォスファミド
DNAに結合して、細胞の分裂・増殖を抑制します。骨髄抑制、出血性膀胱炎に注意します。
投与後にチェックする症状
・嘔吐、食欲不振
・脱毛
・だるそうではないか
・血尿、頻尿

Hydroxydaunorubicin:アドリアシン;ドキソルビシン
強い抗癌作用を持ちます。DNAの複製に必要な酵素の働きを阻害します。容量依存で心臓が生涯される場合があります。猫やシェルティーでは腎毒性に注意します。
投与後にチェックする症状
・嘔吐、食欲不振
・脱毛
・だるそうではないか
・血尿、頻尿

Oncovin:オンコビン;ビンクリスチン
微小管と呼ばれる細胞内の器官の働きを阻害し、細胞の分裂・増殖を抑えます。リンパ腫の他、白血病にも使います。神経障害が出やすく、指が痺れたり、歩行がおかしくなる場合があります。
投与後にチェックする症状
・脱毛
・だるそうではないか
・排尿困難はないか
・歩行に問題はないか

Prednisolone:プレドニン;プレドニゾロン
プレドニンは抗癌剤ではなく合成副腎皮質ホルモン剤(ステロイド)です。本来はアレルギーや炎症を抑える薬として使われます。抗癌剤ではありませんが、リンパ腫の治療に使用されます。食欲増進作用も期待できます。

L-アスパラギナーゼ;ロイナーゼ
CHOPとは違いますが、治療がうまく行かない場合や、リンパ腫が再燃してしまった場合に使用します。腫瘍細胞が増殖するときに必要なアミノ酸の一種であるアスパラギンを分解し、栄養不足を引き起こして死滅させる作用を利用した抗癌剤です。単独使用でも功を奏する場合がありますが、腫瘍細胞がL-アスパラギナーゼに耐性を持つスピードはとても早いとされているため、その後の治療が重要となります。比較的副作用は少ないですが、繰り返し投与でアナフィラキシーを起こすことがあります。


UW25のプロトコールの1例(日本小動物がんセンター)


No301 慢性腎不全(CKD)の推奨される治療

CKDのステージ毎の推奨される治療法です。ステージ分類は前回(→No300慢性腎不全のステージ分類)をご参照下さい。

ステージ1
・腎毒性のある薬は注意して使用
・腎前性(心疾患など)、腎後性(尿路結石など)の異常に対処
・新鮮な水を常に飲めるようにする
・クレアチニン、SDMAの変化をモニター
・原因または併発疾患の特定と治療
・収縮期血圧が>160または標的臓器に障害がある場合は高血圧の治療(→No259高血圧)
・持続的タンパク尿を呈する場合(犬>0.5 猫>0.4)、腎臓療法食と投薬
・血中リンを<4.6mg/dLに維持
・必要に応じ、腎臓療法食とリン吸着薬を使用

ステージ2
・ステージ1に準ずる
・腎臓療法食
・低カリウム血症の治療(猫)

ステージ3
・ステージ2に準ずる
・血中リンを<5.0mg/dLに維持
・代謝性アシドーシスの治療
・貧血の治療を検討
・嘔吐、食欲不振、悪心の治療
・必要に応じ、経腸または皮下補液による水和状態の維持(→No262皮下点滴の方法)
・カルシトリオール(活性型ビタミンD3製剤)による治療を検討(犬)

ステージ4
・ステージ3に準ずる
・リンを<6.0mg/dLに維持
・栄養および水和のサポートと投薬を容易にするための栄養チューブを検討

当たり前ですが、ステージが上がると治療も増えて大変です。早期発見のため、元気そうに見えても、8~10歳くらいまでは年に1回、10歳を超えたら、年に2回の定期検診がオススメです。


No.300 慢性腎不全(CKD)のステージ分類

CKDの臨床症状は、初期には無症状のことがあり、病気が進行すると、多飲多尿、体重減少、食欲不振、元気消失、脱水、嘔吐、口臭などが現れてきます。国際獣医腎臓病研究グループ(IRIS)の最新慢性腎臓病ガイドラインとして、従来の1.クレアチニン 2.血圧 3.尿中タンパククレアチニン比(UPC)に、「クレアチニンよりも感度の高い腎機能マーカーである可能性がある」として、SDMA(→No299SDMA)が採用され、ステージ分類が変わりました。

クレアチニン(Creatinine:Cr)は、筋肉で作られる老廃物の一つで、そのほとんどが腎臓の糸球体から排泄されます。そのため、血液中のクレアチニンの増加は、糸球体の濾過機能が低下していることを意味します。ただし、筋肉が多い動物は高めに、筋肉が少ない動物は低めになるために、とくに筋肉質の大型の猫では高値になりやすい傾向があります。これだけでは正確性に乏しい検査です。

具体的なCKDのステージ分類は以下の検査で行います。

ステージ1および2前期を診断
1~4の1つ以上を満たす
1.腎前性要因(心疾患など)のない参考基準値内でのクレアチニンまたはSDMAの上昇
2.持続的なSDMAの上昇(>14μg/dL)
3.エコー画像上の腎臓の異常
4.持続的な腎性タンパク尿(UPC):犬>0.5 猫>0.4

より進行したCKDの診断(ステージ2後期-4)
1と2の両方を満たす
1.クレアチニンおよびSDMAの高値
2.尿比重:犬<1.030 猫<1.035

犬の慢性腎臓病のステージング

猫の慢性腎臓病のステージング

CKDと診断し、IRISガイドラインに従ってステージ化した後は、サブ分類をすることが重要です。動物では、蛋白尿と血圧から判断するサブ分類を用います。

蛋白尿をサブ分類する目的は、腎後性(尿路結石など)または腎前性(心疾患など)の可能性を除外することにより蛋白尿が腎性であることを明確にすることにあります。具体的には、 尿タンパククレアチニン比(UPC)を測定します。UPCは腎臓から蛋白の喪失を測定するもので、尿濃度の影響を受けません。蛋白尿を検出し、その継続性と規模を測定することは、臨床上の判断と患者の治療に対する反応を経過観察する上で重要です。UPCの正常値は犬で0.5未満、猫で0.2未満ですが、猫の慢性腎臓病CKDでは、タンパク漏出は起こりくいと考えられるため、UPCが0.2以上の症例では治療を行うことが推奨されています。

全身性高血圧はCKDの一般的な合併症です。高血圧が管理されていない場合、ネフロン機能の低下を引き起こし、疾患はより急速に進行するおそれがあります。したがって、高血圧の管理は治療上で重要です。(→No259高血圧)


No.299 SDMA (対称性ジメチルアルギニン)

SDMA (対称性ジメチルアルギニン)は、アミノ酸の1つであるアルギニンが腎臓でメチル化されできる代謝物です。SDMAの血中濃度の上昇は、心血管疾患、腎疾患のリスク上昇と関連していることが報告されていて、腎機能のバイオマーカー(ある疾患の有無や、進行状態を示す目安となる生理学的指標のこと。 生物指標化合物ともいいます)となることもわかっています。近年、獣医療においても、慢性腎臓病(CKD、→No55慢性腎臓病1No56慢性腎臓病2)の早期発見の検査にSDMAが使われて出しました。比較的新しい検査ですが測定機会は非常に多くなって来ています。また、CKDのステージ分類にも変更がありました。

SDMAには3つの特徴があります。

1.糸球体濾過率(GFR、腎機能を表す値)の優れた指標となる腎機能バイオマーカーである

2.慢性腎臓病においてクレアチニンよりも早期に上昇する(SDMAは腎機能が40%喪失した時点で上昇するのに対し、クレアチニンは75%喪失するまで上昇しない)

3.筋肉量の影響を受けるクレアチニンと比較して腎機能に特異的→SDMAは筋肉量の影響を受けない(クレアチニンは、筋肉が多い動物では高値になりやすい検査です)

SDMAを測定することにより、CKDを早期発見し、処方食やサプリメント、代替医療などによって、CKDの進行を遅くすることが可能です。CKDも症状が出てから検査する時代から、定期的な健康診断で病気を早期に発見し予防する時代となりました。ある程度の年齢(犬7-8歳、猫6-7歳)になったら、元気そうに見えても年に1-2回の定期健診をして、SDMAを測定することがオススメです。とくに猫ちゃんは高率に腎疾患にかかるので、半年毎くらいの検査が推奨されますCKDの特徴的な症状である多飲多尿や食欲不振、嘔吐、削痩などがなくても、SDMAが14以上あった場合は症状がなくても何らかの治療を開始するのがオススメです。


No.298 NT-proBNP(N末端プロB型ナトリウム利尿ペプチド)

心臓を評価する血液検査はあまり良いものがありませんでしたが、近年、NT-proBNP という、心臓の異常を確認する血液マーカーがよく用いられます。NT-proBNPはBNPという物質がつくられるときに同時に合成される副産物です。BNPは心室壁から放出されるホルモンで、血圧を下げて心臓への負荷を減らす効果があります。心疾患が進行するとこのBNPが大量に放出されます。すなわち、NT-proBNPが高値 → BNPが高値 → 心疾患が進行している。となります。NT-proBNPの参考基準値は犬で900pmol/L以下、猫で100pmol/L以下です(ヒトでは400 pmol/L以下が目安です)。高いか低いかだけになりますが、現在、猫では院内で迅速に検査が可能です。犬は外注になります。

NT-proBNPは、心雑音が聴取される、心疾患になりやすい品種、元気や食欲が不安定、高齢、咳をしたり苦しそうにすることがある、などという場合に検査項目に含めます。とくに猫ちゃんでは心臓病があっても心雑音が聞こえないこともあり、健康そうに見える猫のうち16%に、この検査によって心臓病が発見されたというアメリカの報告があります。

もちろん、NT-proBNPだけで心疾患や心不全の有る無しは判断できません。品種、年齢、既往症、レントゲン検査、超音波検査や心電図、血圧測定や他の血液検査などを併せて総合的に診断します。早期発見のためには定期健診が重要です。


NT-proBNPの院内キット