No.61 iPS細胞 人工多能性幹細胞(induced Pluripotent Stem cell)

皆さまご存知の通り、2012年10月、カリンスカ研究所(スウェーデン)から2012年のノーベル生理学・医学賞が、生物のあらゆる細胞に成長できるiPS細胞を初めて作製した京都大学の山中伸弥教授と、ケンブリッジ大学(イギリス)のジョン・ゴードン名誉教授に贈られました。とくに山中教授のiPS細胞の作製は日本独自で行われた研究であり、日本人として非常に嬉しく誇らしい成果です。

山中教授のグループは2006年、世界で初めてマウスの線維芽細胞からiPS細胞を作り出すことに成功しました。また、翌2007年にはヒト由来のiPS細胞の作製にも成功しました。皮膚などにいったん変化した細胞が、どんな細胞にも分化する能力を持つ受精卵の状態に逆戻りするという、いわば細胞の初期化(リプログラミング)が可能だということが評価されました。すごい発想ですね。また、胚性幹細胞(ES細胞)のように作製のために受精卵を破壊する必要がなく、倫理的な問題からも高く評価されています(そういえば、バチカンのローマ法王も素晴らしい研究だと言っていました)。

今後、爆発的に研究が進むことが期待されるiPS細胞ではありますが、素晴らしいものは諸刃の剣、乗り越えなければいけない課題も存在します。分化全能性という受精卵の状態に近いiPS細胞は、その高い増殖能力のためにがん化のリスクが伴います。とくに、山中因子と呼ばれる4つの遺伝子(Sox2、Oct3/4、Klf4、c-Myc)のうちのc-Mycは、がん原遺伝子として知られているため、この遺伝子が細胞内で活性化し、がんを引き起こす可能性が指摘されています。また、遺伝子を導入する際のベクター(担体)として使用するレトロウィルスが腫瘍を形成するリスクについても議論されています。その他にも、iPS細胞は作製方法によって、増殖・分化する能力にバラつきがみられ、分化能力が低いiPS細胞を目的の細胞に分化させると、奇形を形成してしまうリスクも指摘されています。

しかし、今後、iPS細胞を用いた医療が再生医療を進める原動力になるのは間違いないところです。今まで以上に、国が研究を支え、日本が世界をリードして、1日でも早く、治療が困難だった難病や大きな怪我に対する、本当の意味での『夢の医療』になって、動物たちもその恩恵にあずかれるようになって欲しいものです。