No.79 犬の副腎皮質機能亢進症(Cushing’s syndrome)

副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)は7歳以上の犬によくみられる内分泌疾患です。好発犬種はダックスフント、プードル、ボクサー、テリア種といわれていますが、どの犬種にも発生します。犬ではよくみられる副腎皮質機能亢進症ですが、猫では高齢の猫でみられることがありますが、稀です。

副腎は、腎臓の上にある小さな臓器で左右に一対あります。外側の皮質の部分と内側の髄質の部分から成り、皮質の部分では、主にコルチゾール(グルココルチコイドの一種)とアルドステロン(ミネラルコルチコイドの一種)というホルモンを産生しています。コルチゾールはストレスから身を守り、糖利用の調節、血圧を保つなどの働きをしています。アルドステロンは塩分、水分、カリウムのバランスを保っています。また、性ホルホンになる前のホルモンも少量産生しています。髄質の部分では、アドレナリン・ノルアドレナリンというホルモンを産生して、心臓や血管をはじめ身体の各臓器の恒常性を保つための重要な働きをしています。副腎皮質機能亢進症は、これらのホルモンの産生が過剰になることにより発症します。

犬の副腎皮質機能亢進症の主な症状は

多飲・多尿(80~85%)、多食(60~90%)

腹部の下垂(70~90%):筋肉の萎縮、肥満(内臓脂肪の増大)、肝腫大のため

脱毛(60%):主に体幹部、両側性

皮膚が薄くなり皮下の血管が目立つ、皮膚の石灰化・色素沈着

・パンティング、肺血栓症高血圧、精巣萎縮、無発情、行動の変化(鈍麻、運動失調)

・一般血液検査:白血球のストレスパターン、ALPの上昇、ALTの上昇、Htの軽度上昇、高コレステロール、高血糖、高リン血症

・低比重尿、尿路感染症、腎由来の蛋白尿

上記のものが代表的です。

猫の場合は皮膚の虚弱化が特徴的な所見で、多くの場合糖尿病を併発しています。

臨床上は3種類に分類されます。

・下垂体性副腎皮質機能亢進症(PDH):下垂体における副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の過剰産生によるもので、下垂体腺種が主な原因です。80~85%がこのタイプです。

・副腎性副腎皮質機能亢進症:副腎腺腫または副腎癌によるコルチゾールの過剰分泌です。良性悪性は50%といわれています。

・医原性副腎皮質機能亢進症:ステロイド剤の長期投与により、上記のような症状が現れたものです。

確定診断にはACTH刺激試験を行いコルチゾールの変化をみます。ACTH刺激後のコルチゾールの値が高ければこの病気が診断されます。また、超音波検査やCTなどの画像診断も下垂体性か副腎性かを鑑別するのに重要です。

治療は下垂体性の場合は投薬治療が主となります(実験的に手術や放射線治療も行われています)。一般的にはトリロスタンという薬が使用されます。トリロスタンは少量から使用しますが、嘔吐、ふるえ、食欲不振などの副作用が出る場合があります。必ず投与開始から2週間後くらいに、もう一度ACTH刺激試験を行います。副腎性の場合は副腎の摘出手術が推奨されます。医原性の場合はステロイドの減薬をしていきます。