No.169 脂質(Lipid)

脂質とは、生体成分のうち、水には溶けずに、エタノールやベンゼンなどの有機溶媒に溶けるものの総称です。食事中に含まれる脂質は中性脂肪が多いことから脂肪と呼びます。脂肪はバターやラードのような動物性の食品から得られる動物性脂肪と、種子類やナッツ類から得られる植物性脂肪に分類され、1gあたり9kcalのエネルギー源になります。動物性脂肪は常温で固体、植物性脂肪は常温で液体です。炭素C、水素H、酸素Oで構成され、中性脂肪、コレステロール、リン脂質、糖脂質などに分類されます。

脂質は効率の良いエネルギー源であると同時に、体温調節、脂溶性ビタミンの運搬、生体膜の構築、ホルモンや胆汁の合成など生理機能の維持に重要です。食事から摂取された中性脂肪は、胃液、胆汁、膵液によってグリセオール脂肪酸に分解され小腸から吸収されると再び中性脂肪となり、リンパ管から血液に移行して全身へ送られます。

脂肪酸は飽和脂肪酸不飽和脂肪酸に分類されます。不飽和脂肪酸には炭素の二重結合があり、その数が1つのものを単価不飽和脂肪酸、2つ以上のものを多価不飽和脂肪酸といいます。さらに二重結合のある場所の違いにより、オメガ-6脂肪酸(n-6)、オメガ-3脂肪酸(n-3)に分類されます。

犬猫、ヒトは二重結合が2つ以上ある脂肪酸を体内合成できないので、オメガ-6脂肪酸とオメガ-3脂肪酸は必須脂肪酸となります。犬とヒトの必須脂肪酸はリノール酸(n-6系)とα-リノレン酸(n-3系)です。リノール酸はコーンやひまわり油などの植物油に多く含まれ、体内でγ-リノレン酸、さらにアラキドン酸に変換されます。猫はリノール酸からアラキドン酸を体内合成できないため、アラキドン酸も必須脂肪酸となります。アラキドン酸は動物性油脂にしか含まれません。オメガ-6脂肪酸は、繁殖や皮膚、被毛の健康に重要ですが、アラキドン酸はエイコサノイド(生理活性物質)を産生するため、過剰摂取は皮膚の炎症につながる可能性があります。

α-リノレン酸は亜麻仁油に多く含まれ、EPA(エイコサペンタエン酸)、DHA(ドコサヘキサエン酸)に変換されます。EPAやDHAはニシン、サケ、サバなどの魚油に多く含まれており、抗酸化作用、抗炎症作用、抗癌作用などが注目されています。

脂肪の過剰摂取は、下痢、肥満、膵臓疾患、肝臓疾患の原因となり、不足は、成長阻害、皮膚障害(被毛の劣化、脂漏症)、外耳炎などの原因となります。